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シャトー・ディケム(中) Chateau D’Yquem
選別の厳しさが生み出す最高品質

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丘の上にそびえるシャトー
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畑の斜面上部
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微妙に傾斜しているのがわかる
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ここは表面に砂利が混じる土壌
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このブドウに9月になると貴腐菌がつく
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35歳と若いデヴィッド・マルク

 イケムの選別の厳しさは良く知られている。1本のブドウの樹からグラス1杯分しかとれない。そんなたとえ話がよくされるが、その背景に広がる物語を知ると感嘆せずにはいられない。

 イケムの平均収量は1ヘクタール当たり8ヘクトリットル。これは確かに少ない。AOCの規定が最大25ヘクトリットルだから、採算を度外視していると言っても過言ではない。それは、前のオーナーのアレクサンドル・リュル・サリュース伯爵の品質へのこだわりを反映している。

 イケムは1992、74、72、64年には生産されていない。最初から生産をあきらめたわけではない。収穫してみて、品質がイケムの基準に達しなかったから生産しなかったのだ。バルクワインで売ったとしても、収穫のコストを無駄にしたことになる。世界中を見渡しても、毎年、ワインを生産しないワイン生産者というのは、イケムくらいのものだだろう。

 皮肉なことに、その完璧主義が400年以上も同族経営を続けてきた伯爵の生命を奪うことになった。1968年に叔父から経営を引き継いだアレクサンドルは、妥協しないワイン造りを貫いたため、株式を所有する50人の親族から不興を買った。経営学を学んだ若い世代は、非効率で独裁的な経営を批判。48%の株式を保有する兄のウジェーヌとも対立した。

 そこに目をつけた、LVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)グループの総帥ベルナール・アルノーが、過半数の株式を買い集めて、アレクサンドルは99年に、シャトーを譲り渡す結末になった。アルノーは2000年に出版された自伝で、「ブドウが不出来なら、ワインは出荷されない慣わしを理解している」と語っている。基本的な品質へのこだわりは変わっていない。だが、プリムール販売の強化など、マーケティング面で、イケムの体質を強化した。

 収穫で大切なのは、正しい収穫人を雇うことだ。イケムには、ランゴン周辺の昔から雇っている収穫人がやってくる。

 「普通のワイナリーのように、収穫量で賃金を払うわけではない。1日当たりで支払う。収穫者の7〜8割は同じ顔ぶれだ。熟練した彼らは不適切なブドウは収穫しない」

 アシスタント・ワインメーカーのデヴィッド・マルクがいう。

 収穫者の技能が重要なのは、貴腐ブドウの付き方と関係している。貴腐菌は1つの房のすべての粒につくわけではない。つく粒もあれば、つかない粒もある。その区画もバラバラだ。毎年変わる。決まっているわけではない。赤ワイン用の畑なら、良質のブドウがとれる区画は歴史的に定まっている。このあたりが、自然の気まぐれでできる貴腐ブドウの難しいところだ。

 「収穫者は4つのチームに分かれて作業する。粒ごとにえり分けるのだから、根気のいる作業だ」

 貴腐菌はもちろん、一時にすべてのブドウにつくわけではない。そのため、収穫者は6週間から8週間にわたって、ブドウ畑を回る。とれなくても、賃金は発生する。64年には13回にわたって収穫しながら、ワインは生産しなかった。これでは価格が高くなるのは当然だろう。

 収穫は短期間に集中して行う方が効率がいい。収穫人への支払いはもちろん、天候が変わる危険もある。こまめに収穫すると、発酵の手間もかかる。08年のボルドーは、安定しない天候だったため、赤ワインのシャトーは長期間にわたっての収穫を迫られた。ところが、イケムの場合は毎年がそういう状態なのだ。

 「イケムは貴腐菌のついたブドウしか使わない。ほかのシャトーでは、ついてないブドウも使っている。でも、それではだめなんだ」

 マルクの言うことは、ワインを飲んでみればすぐにわかった。ピュアさ違うのだ。

2008年8月訪問

テキスト&フォト 山本 昭彦

2009年6月11日  読売新聞)
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