果実の芳香 舌触り滑らか岡山県は、瀬戸内海沿いの平坦(へいたん)な地形という印象が強く、特徴を表す話題に苦労する。地酒に関しても同じで、県内の蔵元は60社以上を数えるが、全国的な知名度を持つ銘柄となると5種前後かも知れない。中で利守(としもり)酒造の純米大吟醸「酒一筋」の名は、酒屋や日本酒専門の居酒屋を中心に広まっており、酒造米として復活させた赤磐雄町(あかいわおまち)米と名杜氏の功績が評価されている。 元々、雄町米は100年以上も前から酒造りに使われていたが、栽培効率の悪さから衰退していたものだ。ここ数年、各蔵元がこぞって雄町米の純米酒を造るようになった。とは言え県外の身には、希少な商品に変わりない。独特で神秘的な旨(うま)みとさえ漏れ聞く雄町米の酒を、地元で味わいたいと旅程に組んだ。けれども、岡山に対する知識は、備前焼と倉敷の町の美しさぐらいしか持ち合わせがない。結局、倉敷へ降り立ち、美観地区にある備前焼ギャラリーを起点とした。 なまこ壁の土蔵造りの町並みを抜け、おっとりと流れる倉敷川の石橋に佇(たたず)む。折からの雨は、大原美術館の賑(にぎ)わいを抑えてくれ、エル・グレコの名画『受胎告知』も“鼻先”の距離で鑑賞出来る。海外から作品を借りたイベント展などのように、ガラス越しに見物する味気なさが無い。こういう美意識は、質に拘(こだわ)る酒造りと一脈通じるはず、と弾む思いで観光客相手の地酒専門店を巡り、試飲させて貰(もら)った。当然、特別旨い酒は値段が張る。そこへいくとこの「酒一筋」は、純米大吟醸酒なれど、我が懐に見合った。 吉田 類(酒場詩人) この一本「赤磐雄町・純米大吟醸」(岡山)淡い酸味を含んだ果実の芳香をまとい、滑らかな舌ざわりと洗練された深みがとろける。赤磐雄町米は、最高級の雄町米であると同時に貴重な酒造米の一つ。 720ミリ・リットル 3150円 (2006年12月4日 読売新聞)
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