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アンセルム・セロス氏
シャンパーニュのドメーヌ・ジャック・セロス当主

一期一会の芸術に挑むシャンパーニュの求道者

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フラッグシップのブラン・ド・ブラン「シュブスタンズ」
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小樽で発酵・熟成させる。新樽比率は10%
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リュミアージュも手で。セラーの平均気温は10度
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デゴルジュマンは手で。「機械でも手でも品質は同じだが、機械ですると製品になるような気がしていや」と
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アーティストでもあるコリーヌ夫人と

 恵まれた土地と造り手の努力があれば、優れたワインはできる。でも、造り手に哲学がなければ偉大なワインは生まれない。孤高の天才アンセルムはシャンパーニュの求道者である。自分の魂と自然に問いかけながら、一期一会の芸術に挑んでいる。

 年産4800ケースのレコルタン・マニピュラン。世界中の好事家が奪い合うシャンパーニュは、名だたる大手メゾンを畏怖させ、ほとんどの3つ星レストランに常備されている。地元アヴィーズ産のシャルドネを独自のソレラシステムで熟成させたフラッグシップ「シュブスタンス」は品質と完成度の高さにもかかわらず、クリュッグの「クロ・デュ・メニル」の数分の1の価格にすぎない。

 シャンパーニュは良いワインからしか生まれない。そして、良いワインは良いブドウからしか生まれない。アンセルムはグラスを掲げながら力をこめる。「グラスの泡は飾りです。アクセサリーにすぎない。泡がシャンパーニュの目的ではないのです」と。

 「理想のシャンパーニュですか?私はまだ学んでいる途中です。行くべき道はわかっているが、どこまで来ているのやら。そもそも、それを知る必要があるのでしょうか。世界は人間を中心に回っているのではなく、自然と環境がまず先にあります。ワインを造っているのは人間ではなく、土地なのです」

ワイン造りは生きる証し

 一次発酵に小樽を使う彼の醸造に固定化された決まり事はない。使うのは天然酵母のみ。マロラクティック発酵もワイン任せ。1人の人間が生涯に造れるワインは多くても40〜50回にすぎない。アンセルムはだから、毎年、経験という知恵に頼り、最善を尽くす。

 「ワイン造りは一期一会です。同じ作柄は二度とやってこない。システマチックにワインを造るのは植物人間のようなもの。それくらいなら、ワイン造りを止めてしまいます。自分たちは正しい道を歩んでいるのか。自問しながら前に進むのです。ワイン造りとは生きる証しでもあるのだから」

 有機農法のビオディナミをシャンパーニュに導入したパイオニア。農薬や化学薬品を使用せず、天体の動きも考慮しているものの、ビオカレンダーに縛られず、独自の考えでブドウを栽培している。ジェローム・プレヴォーやピエール・ラルマンディエらが彼に続いた。テロワールの表現は収量の低さにも由来する。1ヘクタールあたり100ヘクトリットルが当たり前のシャンパーニュにあって、メニル・シュール・オジェのシャルドネは55ヘクトリットル、至高のブラン・ド・ノワール「コントラスト」を産むマレイユ・シュール・オジェのピノ・ノワールでも80ヘクトリットルに抑えている。

 「ビオディナミは目的ではなく、クルマで走るとするなら、その通り道にすぎません。ワインが生まれた場所を明確に表すために、この手法を使っています。ブドウの根が養分を吸い上げることによって、味の輪郭がはっきりし、ピュアな感じが加えられ、ヴィンテージの違いがよく表れるようになりました。口に含んだときに、泡が口を押し戻す感じ、トロミ、酸味や苦味がよくわかるようになりました」

 彼の真価を伝える代表的なキュヴェが「ヴァージョン・オリジナル エクストラ・ブリュット」だ。アヴィーズ、クラマン、オジェ村のシャルドネをドザージュ(糖分添加)なしでブレンドした。樽発酵・熟成による複雑な味わいはシャルドネの万華鏡の趣。コルトン・シャルルマーニュの鋼の酸、ムルソーの芳醇さ、そして、コート・デ・ブラン地区のミネラルが交錯し、高次元でバランスをとっている。

 「『AOC』(アペラション・オリジン・コントローレ)の『オリジン』とはノーマルとは違うということ。私はオリジナルな文化に引かれている。例えば、写真を見ただけで、どの場所かわからなくてもどこの国かわかることがある。オリジナルとはそういうこと。シャンパーニュ造りとは仕事ではなく喜びです。飲む人が喜んでくれれば、もっと良いものを造ろうという励みになります」

 若手フォロワーから慕われるアンセルムにも尊敬する造り手がいる。「他人と違うことをして、その地方全体の造り手にショックを与えたような造り手が好きです」。それは彼自身でもあるのだが、筆頭に上げたのが、イタリア・フリウリのヨスコ・グラヴナー、続いて聖人エドワルド・ヴァレンティーニ。納得の顔ぶれである。グラブナーは1月の来日中、京都のワイン店で見つけ、パーティーに持ち込んだほどのお気に入りだ。

尊敬する造り手はグラヴナー、ヴァレンティーニ……

 フランスでは、ロワールのギィ・ボサール、マルク・アンジェリ、フランソワ・チデーヌ、アルザスのジャン・ミシェル・ダイス、オステルタグ、ブルゴーニュのアンヌ・クロード・ルフレーヴ。有言実行の人を尊敬すると言うところに彼の性格の強さがのぞく。「表面的なヴォリューム感ではなく、芯があって放射されるような力強さを持つワイン。小石をしゃぶるようなワインが好み」と。

 ビオディナミの造り手の中にあって、そうではない名前を1人だけ挙げた。エグリ・ウーリエのフランシス・エグリである。「彼はビオではないが、好きなようにブドウを栽培している。ポリシーを持って、言うこととすることが一致している」と好きな理由を説明した。セロスのロゼにはウーリエのピノ・ノワールが7%ブレンドされている。

 セロスのボトルの裏にはデゴルジュマン(澱落とし)の年月が記してある。消費者はそれを頼りに、好きな飲み頃を発見してほしいという。「日本に輸入されてから2か月は休めて欲しい。また、デゴルジュマンから8か月はたってから飲んだ方がいい」とも。

 初来日したアンセルムの最大の目的は、世界的に有名な自然農法の福岡正信氏を訪ねることだった。当初、ビオディナミで悩みを抱えていたアンセルムは、彼の著書「わら1本の革命」に背中を押されたのだという。愛媛に暮らす90歳を超す福岡氏の枕元で交わした会話の数々。魂のふれあいから生まれた刺激は、シャンパーニュの哲人の作品に必ずや実りをもたらすはずだ。

テキスト&フォト 山本 昭彦

プロフィール

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アンセルム・セロス氏  Anselme Selosse
シャンパーニュのドメーヌ・ジャック・セロス当主

 シャンパーニュ地方コート・デ・ブラン地区のアヴィーズ村に本拠を置くレコルタン・マニピュラン。アヴィーズ、クラマン、オジェ、メニルにシャルドネ、アンボネイ、マレイユ・シュール・アイにピノ・ノワールの畑を計7・5ヘクタール所有。シャルドネの平均樹齢は38年。ドメーヌは父が1949年に創設。アンセルムは76年ボーヌの醸造学校を出て、86年ごろから木樽の発酵など独自の醸造法を試みると同時にビオディナミに転換。93年からすべてのブドウを木樽発酵に切り替えた。

2006年2月15日  読売新聞)
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