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マルク・ペラン氏 Marc Perrin
シャトー・ド・ボーカステル(Chateau de Beaucastel)の5代目当主

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美しい庭に囲まれたシャトー・ド・ボーカステル
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フードルで熟成
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丸い大きな石が表面を覆うシャトー・ヌフ・デュ・パプの畑
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収穫風景
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おじのフランソワ(左)、父のジャン・ピエール(右から2人目)、兄弟たちと
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カーヴに眠る「シャトー・ヌフ・デュ・パプ」
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一族で試飲しブレンド比率を決める

進化する家族経営のワイン哲学

 ワイン造りは歴史の積み重ねだが、ときに階段を3段跳びする才能が現れる。南仏を代表するシャトー・ド・ボーカステルにおいては、ジャック・ペランがまさにその人だった。「シャトー・ヌフ・デュ・パプ オマージュ・ジャック・ペラン」というキュヴェを捧げられているマルクの祖父である。

 ジャックには先見性があった。今から半世紀も前。1950年代に有機栽培に踏み出した。

 「現在はビオディナミやビオロジックがファッションになっているが、そのころは有機農法というだけで、周囲の人々から変人扱いされた。当時は除草剤にしても、肥料にしても化学薬品メーカーの力が強くて、だれもが深く考えずに使っていた」

 考えてみると、長いワイン造りの歴史の中で化学薬品に頼るようになったのは、戦後のたかだか40〜50年のことにすぎない。ジャックは時代の波に流されずに、物事の本質を見つめていたのだ。

ジャックの心の中から生まれた有機農法のアイデア

 「有機農法のアイデアは彼の心の中から生まれた。彼はヨガや瞑想もして、東洋的な哲学の影響も受けていた。ルドルフ・シュタイナーの本も読んでいた。いろいろな造り手と話し合いながら、ビオディナミのカレンダーやプレパラシオン(調合薬)の使い方を自分のものにしていったんだ」

 まさにパイオニア。彼の功績はそれだけではない。古いブルゴーニュの手法に習って、収穫したブドウの果皮を短時間、80度まで熱してすぐに18度に下げる醸造法を考案した。色や香りを抽出し、殺菌することによって、亜硫酸の使用量を抑えられ、長期間の発酵が可能になったという。白ブドウのルーサンヌや黒ブドウのムールヴェドルの可能性を見い出したのもジャックだ。

 「ムールヴェドルが全く流行っていなかったころに、バンドールのドメーヌ・タンピエから苗をもらって植えた。彼は常に自然と土壌を尊重し、ワインがどうあるべきかについて、考えをめぐらしていた。ムールヴェドルを植えた区画は粘土の比率が高くて、栽培に適していたんだ。グルナッシュは新鮮さで、ムールヴェドルは背骨だ。栽培は難しいが、完熟すると素晴らしい個性を持つ。シャトー・ヌフ・デュ・パプは栽培の北限だ。人生でもそうだが、難しいことが成功した方が達成感があるものだ」

 ジャックの息子ジャン・ピエールとフランソワ兄弟は1989年、78年に亡くなった父親の先見の明をたたえて、古樹のムールヴェドル60%を主体にした「オマージュ・ジャック・ペラン」を造った。哲学の継承と尊敬の表現。そこに家族経営ならではのワイン造りの継続性と発展がある。

 5代目となるマルクといつくつかのボトルを試飲した。認可された13品種すべてをブレンドした赤の「シャトー・ヌフ・デュ・パプ」2003年は、猛暑を感じさせない優雅な仕上がり。1990年は黒トリュフや森の下草の香りが爆発する中に、まだまだ新鮮さをとどめていた。

 新たな発見は、ルーサンヌ80%を主体に、グルナッシュ・ブラン(15%)などをブレンドした白「シャトー・ヌフ・デュ・パプ」02年のフレッシュさだった。アカシアのハチミツや甘露を思わせるリッチさに包まれながらも、新鮮な酸とミネラルを保っている不思議な味わい。米国の評論家ロバート・パーカーJr氏が「ローヌのモンラッシェ」と呼んだ古樹ルーサンヌ100%の「シャトー・ヌフ・デュ・パプ ルーサンヌVV」はさらに凝縮しているという。

 「ルーサンヌは最初の5年間はリッチでトロピカルな味わいだが、その後は閉じる。10年以上たつと素晴らしいミネラル感のあるリースリングのような味わいになる。雑誌「ラ・レヴュー・ド・ヴァン・ド・フランス」の試飲会で、マルサンヌ主体のシャーヴのエルミタージュの白も同じように進化していた。その理由は神のみぞ知るだね(笑)」

 収穫の翌年、マロラクティック発酵が終わる頃になると、一族5人が集まる。おじのフランソワ、父のジャン・ピーエル、マルクと2人の兄弟。品種別、区画別にフードルで熟成中のワインを試飲して13種もの品種のブレンド比率を決めるのだ。

 「ヴィンテージによって、比率は変わる。シャンパーニュのように。例えば、03年は猛暑でシラーの出来がよくなかったから割合を減らした。大雨に見舞われた02年は赤のパプの発売を見合わせた。赤は偉大でなければ造らないということで意見が一致したからだ。ブレンドの比率についても意見が大きく食い違うことはない。だが、我々は毎年出来る限り最良のワインを造ろうと努力している」

ワインを造るのは人間ではなく自然

 米カリフォルニアのパソ・ロブレス地区に進出して、「タブラス・クリーク」を興し、米国のローヌ品種隆盛のきっかけを造った。しかし、マルクはそれを鼻にかけたりしない。

 「我々は謙虚でなければならない。偉大なワインを造るのは我々ではない。自然が造るのだから」

 続けて、ドメーヌで専属シェフを雇っている理由を語った。パリの2つ星レストラン「ルカ・キャルトン」出身のシェフだ。小さなドメーヌでは珍しいが、料理とワインの関係を探っている。

 「料理とワインは切っても切り離せない。でも、単なる香りや味わいの相性を分析するためではない。ボーカステルのワインは地中海の風土に根ざした土地の産物。我々は、歴史の前でも謙虚でなければならない。ワイン造りを文化的な文脈の中で位置づけ、長期的な視点で見つめ続けるのが大切なんだ」

 その真剣な口調からは、一族のワイン造りの伝統を背負う自覚と責任が伝わってきた。先進的な祖先の哲学を発展させながら、ボーカステルは進化を遂げていく。

テキスト 山本 昭彦

プロフィール


マルク・ペラン氏  Marc Perrin
シャトー・ド・ボーカステル(Chateau de Beaucastel)の5代目当主

 1970年オランジェ生まれ。偉大な祖父ジャックの孫。パリの大学で経済学を学び、ワインの小売商などを経て、シャトーに参画した。

2007年8月15日  読売新聞)
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