シチリア・エトナを表現する「イル・カンタンテ」イタリア・シチリア島で伝統的なエトナを生産する「イル・カンタンテ」の最高責任者サルヴォ・フォーティ氏が来日した。 シチリア島は1990年代後半から、プラネタやタスカ・ダメリータが国際品種によりモダンなワインを生産し、注目を集めている。フォーティ氏は対照的に、自社畑と土着品種にこだわる伝統的な栽培により、エトナのテロワールを表現している。 エトナは島西部の都市カターニアの周辺に広がる産地で、エトナ山のもたらす火山土壌の影響を受けている。カターニアの醸造学校で学んだフォーティ氏は、1981年にエノロゴ(醸造コンサルタント)を始めた日に、エトナ山が噴火する事件に出くわした。 「80年代のワイン産業は貧しく、就職先としても人気が低かった。私はマーケティング優先の生産者からのコンサルタントの依頼には消極的だったので、友人からは『仕事がなくなるぞ』とからかわれた。でも、セラーで待っていて、到着するブドウをいじるのは私の流儀ではなかった。畑を変えるのは時間がかかる。ワイナリーを造るのは数年でできるが、畑を変えるのは30年かかる」 ブルゴーニュのドメーヌに近い哲学を持つフォーティ氏。ベナンティをコンサルティングする一方で、エトナのブドウ栽培農家の造り手を集めた組合「イ・ヴィニエーリ」を先導してきた。「イル・カンタンテ」(歌手の意味)もその中の1つ。英国のロックバンド、シンプリー・レッドのリーダーであるミック・ハックネルが畑を購入し、「やりたいようにやっていい」とフォーティ氏に全権を委ねている。この春から日本で発売されている。 「エトナ山の火山性土壌はブドウにミネラルをもたらす。軽い溶岩と砂に鉄やマグネシウム分が含まれ、アルカリ性。弱酸性の石灰岩は粘土が混じり、ブドウの酸が低くなる。火山性土壌では酸が残り、口の中に酸が長くとどまるようなブドウができる。また、害虫フィロキセラが生きられず、自根のブドウもいまだに栽培している」 フォーティ氏は栽培では、アルベレッロ(ゴブレ)と呼ばれる株仕立てにこだわる。一般的なコルドンと違って、支柱も針金も使わない仕立て方。「コストは4倍かかる。生産量は少なく、労働量は多い。でも現在のブドウ栽培は土地の力を利用しすぎている。可能性を吸い上げすぎるのはよくない」という考えに基づいている。 イル・カンタンテの「ビアンコ 2004」(上代8500円)、「ネロ・ダヴォラ 2003」(5800円)、「エトナ・ロッソ 2001」(9500円)、イ・ヴィニエリの「エトナ・ロッソ・ヴィヌペトラ 2005」(7500円)、ベナンティのデザートワイン「ノブレーゼ 2005」を試飲した。 カンタンテのビアンコは、カリカンテ、シネッラ、グレカニコという土着品種で醸した驚くべき白ワイン。ドイツのリースリングの鮮烈なミネラルと、エルミタージュ・ブランの厚みがあり、クーレ・ド・セランを想起させる蜂蜜の香り。イタリア南部とは思えない清涼感がある。「熟成させるとリースリングに近づく」とフォーティ氏。 赤ワインでは、カンタンテのネロ・ダヴォラと、ネレッロ・マスカレーゼ主体のエトナ・ロッソの、しなやかなタンニンの処理と豊富な果実味のバランス感が印象的。「昼夜の温度差が20度以上あるから、酸がのる。火山性土壌のおかげもあって、ネロ・ダヴォラは酸が豊か」とフォーティ氏。ほかのワインも自然な味わいと品格がある。 イル・カンタンテのワインは、土着にこだわる中身とは対照的なモダンなデザイン。ハックネルが「君のワインを造れ」と、フォーティ氏に話したら、「私のワインも、ミカのワインも造らない。エトナのワインはエトナ山が造るんだ」と答えたという。 問い合わせはラシーヌ(電話 03・5366・3931)。 (2009年6月8日 読売新聞)
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