「卵掛けご飯」 コシノヒロコさん創造力駆使 服も同じ「ずっと仕事中心の生活。献立を考え、買い物をして、料理するなんてしたことない。ただ『窮すれば通ず』で、冷蔵庫にあるものや残り物で何か作ることは得意やな」と笑う。 そんな自信作のひとつが卵掛けご飯だ。とても料理とは……と侮るなかれ。「私の顔を見るたびに、卵掛けご飯が食べたいと言う人がいるほどなんだから」 用意するのは、もちろん、ご飯と卵。ご飯は炊きたてだろうが、冷えていようが、丼とともに電子レンジに入れて加熱する。ご飯だけでなく、器も「アツアツ」にすることが大切だ。そこへ生卵をポンと落とす。「普通ならある程度溶いたら食べるんでしょうけど、違うねん。グワーッと、もう手がだるくなるまでかき混ぜるのよ」。米粒に絡まった卵が半煮えのようになったところで、薄口しょうゆを加え、細かく刻んだ塩昆布やのりをパラパラッと振りかける。 「味も香りも何とも言えずふくよか。今まで食べてきた卵掛けご飯とは全然違うはずよ」。昼間のパーティーで食べ過ぎたときの夜ご飯、酒を飲んで深夜に帰宅した際の夜食などに、欠かせない一品だ。 世界を舞台に活躍するコシノ3姉妹の長女。洋装店を営む母親は「根っからの仕事人間」で、その姿を見続けていた少女が、ファッションを志すのは自然の成り行きだった。専門学校を卒業後、27歳の若さで自前のアトリエを設立。デザインやプリント柄など、どこかに日本の文化を感じさせる洋服が支持された。その評判はやがて海外へ。イタリア、フランス、中国などへ活躍の場を広げ、日本を代表するデザイナーになった。 「よく働き、よく遊び、おいしいものもいろいろ食べた。それでも突然、無性に食べたくなるものって、誰にでもあるやろ。私の場合、それが卵掛けご飯」 パリコレクションに参加していた20年ほど前、日本料理店はほとんどなかった。「どうしても米が食べたくなって、友人宅でご飯を炊いてもらい、卵掛けご飯を作ったこともあった」 限りある材料と時間で、どうやって良いものを作るか? その点で、料理と服作りは似ているという。「違いは、舌で楽しむか、着て楽しむかだけ。良いもの作りには、創造力とコーディネート力が問われるわけよ」 卵掛けご飯にとどまらず、湯がいたインスタントラーメンをいためて花がつおとザーサイをまぶした焼きそば、アンチョビーソースを生地の下味に使うお好み焼き……。発想は自由で、奇想天外。だが、その不思議な手料理は、食べた人をたちまちファンにしてしまう。 見た目にもこだわる。「どんなにおいしい料理でも、食器や盛りつけなどのビジュアルが悪いものはダメ。味が変わってしまう」というのが持論。 大きめの真っ赤な漆や土ものの風情あるおわんに、控えめに盛りつけられた黄色が映える。脇に置かれているのは、柄の長いスプーン。「きれいで、おいしそうで、どこの一流店の高級料理かと思うよ。ただの卵掛けご飯やけどな」。こだわりの一杯は、デザイナーとしての生き方そのものを表しているようだ。(斎藤圭史) こしの・ひろこ ファッションデザイナー。1937年、大阪府生まれ。文化服装学院卒業後、82年にヒロココシノインターナショナルを設立。2007年にデザイナー歴50周年。今年3月、15年ぶりにパリコレクションに参加した。絵画や書、長唄、ゴルフなど、趣味の多彩さでも知られる。 (2009年7月14日 読売新聞)
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