シイタケ(大分・豊後大野) 美しき生命力 人間と同じ「美しいシイタケ」。小野九洲男さん(72)の口からは、何度もこの言葉が聞かれた。栽培歴40年、全国乾椎茸品評会で最高賞を10回も受賞した名人。誰が作っても同じ、というわけではないらしい。 風が吹くたび、見上げる杉の幹が揺れ、こずえがさわさわと鳴る。目を落とせば、高さ1メートルの丸太が見渡す限りびっしり立ち並ぶ。シイタケを育てるためのクヌギの「ほだ木」だ。その数4万本。天をつく杉と、そのミニチュアのようなほだ木の対比が面白い。 標高560メートルの山中にある薄暗い「ほだ場」で、小野さんはカゴを手に収穫を急ぐ。「春は1回でも収穫が遅れると、せっかく出来てるやつが最後まで開ききってしまう。一番いいときに採らんと」。「朝、昼、晩、1日に何回も足を運ぶ」のが美しいシイタケを作る一番の秘訣だ。 雨にぬらさないようにするなど、細やかな気配りも欠かせない。「水分で太ったのは味が落ちるし、乾燥するとぺっちゃんこになる」という。 大分県は干しシイタケの生産量が日本一。寒暖の差が激しく霧が多い気候は栽培に最適で、2007年は1309トンと、全国の37%を占めた。 カサが丸く盛り上がり、亀甲状に白いひびが入ったものほど高級品とされる。2センチ近い厚さの肉をかめば香り高く、プリッとした歯切れの良さはアワビにも似ている。 「これは4歳。もう古くなっちょる」と小野さんが手に取った、菌を植えて4年目のほだ木を触ってみて驚いた。指先で軽くつかんだだけで、樹皮がぼろぼろに崩れ落ちる。片手で簡単に持ち上がるぐらい軽い。木の養分がすっかり吸い尽くされた証拠だ。「ほだ木の栄養をたんまり吸って、その分おいしくなる」 原木にドリルで穴を開けて菌を植え、キノコがやっと生えてくるのは梅雨を2回越してから。いわば、一生の最後に咲く花のようなものだ。「ぬくい朝に見ると、開ききったシイタケから真っ白の胞子が出るのがわかる。キノコにも寿命がある。人間と同じ」。その生命力は確かに美しい。(文・堀内佑二 写真・本間光太郎) (2009年4月13日 読売新聞)
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