菓子で幸せ残す…パティシエ 稲村省三さん 厚生労働省は9日、卓越した技能を持つ今年度の「現代の名工」150人を発表した。最高齢は80歳、最年少は38歳。 10日に東京都内で表彰式が開かれる。東京・上野公園近くで洋菓子店を営むパティシエ・稲村省三さん(57)に喜びの声を聞いた。 砂糖を熱したアメで作るバラ飾りは金属のような輝きで、ケーキやデザートがぐっと華やぐ。小高い「上野の山」をイメージしながら波模様を施した「上野の山のモンブラン」も人気メニューの一つ。精巧な職人芸への評価は高いが、「一つの道を続けてきただけ」と謙虚に受け止める。 最初に目指したのはフレンチの料理人だった。19歳の時にホテルで修業を始めたが、掃除や荷物運びなど厨房にすら入れない下働きの日々が2年ほど続いた。ホテル内で空いていたベーカリー部門でパンや菓子を作らせてもらううち、小麦粉や生クリームから好きな形を生み出す菓子作りの魅力にとりつかれ、24歳で菓子職人の道へ。「パティシエとしては遅いスタートだった」 追い求めるのは「りんと立った味」。一つひとつの素材の味を生かしながら全体のバランスも崩さない、という意味だ。2000年に上野に洋菓子店「パティシエ イナムラ ショウゾウ」を開店。最近は、週末になると30分以上の行列ができる。野菜でも乳製品でもこれはという味に出会うと、産地を突き止め、全国どこへでも足を運ぶ。 子供の頃、教師をしていた母親とは平日はすれ違いが多かったが、その分、日曜日に一緒にドーナツを作るのが楽しみだった。「懐かしい味や幸せな思い出を残してあげるのが職人としての使命」。人を満ち足りた気持ちにする菓子の力を多くの人に伝えたくて、今日も黙々と作り続ける。 (2009年11月10日 読売新聞)
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