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    寄稿・インタビュー

    「箱根」成績と大学改革との“相関関係”は

     大学入試シーズンの直前に行われる箱根駅伝での注目度が、その年の受験生の増減に影響を与えることは、いまさら言うまでもない。それに加え、大学(学園)改革への力の入れようが、箱根駅伝の成績に影響しているとの見方もあるという。私学の学校事情に詳しい中学受験誌「進学レーダー」編集長の井上修氏が、「箱根」と大学改革との“相関関係”を考えた。

     中学受験雑誌『進学レーダー』(みくに出版)の編集長という仕事柄、首都圏の私立中高には足(しげ)く通っている。中には大学付属校も多く、近年は付属中高の先生だけでなく、大学の関係者と会うことが多くなった。

     というのも、近年大学を有する私学は、総合学園としての在り方を強く意識するようになり、中高のみならず、小(時には幼稚園から)~中高~大までの一貫教育を実践するようになったからである。自ずと学園の一体感は強まり、スポーツイベントへの応援はひときわ盛り上がることになる。

     中でも箱根駅伝は、「非常に応援したくなる」特別なイベントだ。まず時期が正月なのでテレビなどで視聴しやすい。1日の放送時間が5時間以上の長丁場なので、どこかの時点で接触する機会が多い。

     さらに、出場大学が20大学(プラス関東学生連合)あり、自分の出身大学、もしくは家族の大学が関係しやすい。自分の出身大学でなかったとしても、子どもの大学、孫の大学など近親者が通う大学及び私学だったら、応援したくなるものだ。ただでさえ、最近の受験は、小中高のみならず大学まで「親がかり」なので、それだけ思い入れも強くなり、応援にも拍車がかかる。

    PRや募集への効果が計り知れない「箱根」

    • 第91回大会で初の総合優勝を果し、胴上げされる青山学院大の原晋監督(2015年1月3日撮影)
      第91回大会で初の総合優勝を果し、胴上げされる青山学院大の原晋監督(2015年1月3日撮影)

     世間の注目度が高まり、募集などの面で大学関係者にとって箱根駅伝の重要さがより増す中、次回第93回のシード校と予選通過校を眺めていると、大学や付属校の立地や学園改革の動きとの関係性も感じられたので、以下記す。

     シード校のなかで付属高校のみならず、中学まで有するのは、青山学院大、東洋大、早稲田大、東海大、帝京大と半数を占める。面白いことに、実は昨年総合優勝の青山学院大と2位の東洋大は、大学改革と付属中高の動きで今最もホットで、総合学園として最も勢いが感じられる大学なのだ。

     まず青山学院大学は、2013年に文系学部を青山キャンパスに集結させ(理工学部と社会情報学部は相模原)、都心回帰の進む大学の象徴的存在となり、人気を博している。また青山キャンパスには付属小中高があるのに加え(こちらも大人気)、16年に横浜にある横浜英和女学院と連携校とし、併せて青山学院横浜英和と校名を変更し、18年からは共学となる。つまり「青山学院」は規模が拡大することになる。

     青山学院横浜英和には併設小学校もあり、横浜南部に位置する。箱根駅伝のルートである国道1号線も近く、応援がとてもしやすい。「青学ブランド」のPRや生徒・学生募集への効果は計り知れない。

    新学部を続々と増設の東洋大

    • 第85回大会で初の総合優勝を果たし、ガッツポーズでゴールする東洋大学のアンカー・高見諒(東京・大手町の読売新聞東京本社前で。2009年1月3日撮影)
      第85回大会で初の総合優勝を果たし、ガッツポーズでゴールする東洋大学のアンカー・高見諒(東京・大手町の読売新聞東京本社前で。2009年1月3日撮影)

     “山の神”柏原竜二を擁し初優勝した09年の第85回大会以降、4度の総合優勝を果たしている東洋大学も、新学部を続々と増設する一方で、付属中高の整備を一層進めている。茨城県の東洋大付属牛久(15年中学開校)、兵庫県の東洋大姫路(14年中学開校)、そして大学本部のある白山キャンパスそばに東洋大学京北(11年に男子校・京北を併設校化、15年に校名変更、共学化)と年ごとに拡大を続けている。さらに大学も白山以外にも朝霞・川越・板倉に加えて、赤羽にも17年に新キャンパスをオープンする。

     「大学の実力」を測る指標としては、古くから研究実績、教育内容があり、最近では就職実績も加味されるようになった。それに加え忘れてならないのは、学業以外の実績である。スポーツにも力を入れている、文武両道の学校であるということは、大いに学校の好感度を上げてくれる。青学大、東洋大の箱根駅伝での好成績は、それらも視野に入れた総合的な学園改革の成果ともいえよう。

    大学運営で意外と大事な改革のスピード

     一方で、積極的な学校改革に箱根駅伝の結果が伴わなかったのが中央大だ。予選会突破ならず、最多連続出場記録が87回で途切れてしまった。

     中央大が都心の駿河台から多摩エリア(八王子市)に移転したのが、1978年のこと。(理工学部のみ後楽園)。箱根駅伝のコース周辺には、これまで付属校はなかったのだが、2010年に横浜山手女子中高を合併し、中央大学付属横浜中高と改称した。

     さらに12年に中学共学化、翌13年には横浜山手の地から、港北ニュータウンへと移転した。この付属校設置は、中央大への横浜からの学生を確保する目的もあったのだ。

     ただ、当初は他大学進学にも力点を置こうとしていた流れもあり、方向性がぶれていた。他大学と比すると、中央大は進むべき方向性に「迷い」が見られる傾向がある。時代に対応すべく学内でじっくり考えているうちに、時代が先に変化してしまったという形だ。

     実は、改革のスピードが大学運営では意外と大事だったりする。もっとも、拙速の必要性はないが、駅伝同様に、次の時代にたすきを確実に渡していく速さは必要なのだ。

     いずれにしても、中央大学においては学校新設の効果をより発揮させるには、再来年18年の箱根駅伝復帰は、至上命題だろう。

    逸材が揃って入学した東海大

    • 第66回全国高校駅伝で1区を走る關颯人(京都市内で。2015年12月20日撮影)
      第66回全国高校駅伝で1区を走る關颯人(京都市内で。2015年12月20日撮影)

     学校の立地と箱根駅伝といった視点から見て今回注目したいのが、“湘南の暴れん坊”こと、東海大だ。高輪、湘南といった2キャンパスがコース沿いに立地している。地元の大学として、自ずと箱根駅伝には力が入るというものだ。

     今年、東海大は大幅に戦力を増強させた。關颯人(佐久長聖)、鬼塚翔太(大牟田)、阪口竜平(洛南)、館澤亨次(埼玉栄)といった昨年末の高校駅伝で“花の1区”を走った逸材が(そろ)って入学したのだ。箱根の前哨戦となる出雲駅伝では、結果3位に終わったものの、鬼塚、館澤、關が1~3区を走り、4区までトップで、優勝した青山学院大を慌てさせた。

     まだ1年生ということで、箱根のような1区間が20キロ近い長距離への適応はまだだと思うが、2,3年後には青山学院大を脅かす存在になることは必至。学生募集にも追い風になるだろう。

     ちなみに、東海大は、付属中高と大学との強い一貫教育を実施していて、学校運営にまったく「迷い」がない。あえて時代に迎合しないという、「潔さ」も、実は同大学の強さかもしれない。


    プロフィル
    井上 修
     1967年、愛媛県生まれ。横浜国立大を卒業後、91年、日能研に入社。同社の進学情報室長などを経て、中学受験誌「進学レーダー」(みくに出版)の編集長に。実際に足を運んで取材した学校の数は、300を超え、中学受験、および中高一貫校選びなどについての保護者の相談に数多く応じている。
    2016年12月05日 12時55分 Copyright © The Yomiuri Shimbun