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その魅力は“ポケット”にあり!

壁掛け収納の名作「ウーテンシロ」

Uten.Silo ウーテンシロ
さまざまな形のポケットが並ぶ壁掛け型の収納家具「ウーテンシロ」は、ミッドセンチュリーの名作。デザインは、インゴ・マウラーとドロシー・ベッカー。一時生産中止となっていたが2001年に復刻した。ヴィトラ・デザイン・ミュージアム・コレクション。幅67×高さ87×厚み7センチ。プラスチック製、約4キロ。色は赤、白、黒の3色。各3万4,650円

 ポケットって、どうしてこんなに魅力的なんでしょう。何でも入るから。そして、何でも入るワケじゃないから。引き出しとは違って、自分の手の中に隠しておけるくらいの小さな収納、小さな安心感。引き出しに入れたものは「ちゃんとしまいました」という感じがするけれど、ポケットだと、それが壁掛けのポケットであっても、まだ半分くらいは手から離れてない感じ。

 壁掛け型の収納家具「ウーテンシロ」は、ミッドセンチュリーの名作として長く愛されているアイテムです。誕生したのは1969年。照明デザイナーであるインゴ・マウラーと、その夫人のドロシー・ベッカーによるデザインです。

「WALL ALL」の別名をもつウーテンシロ。質感はこんな感じ。

 インゴ・マウラーは“光の魔術師”と称されるドイツの巨匠。真っ赤なハート型の照明や、電球に羽根が生えたようなスタンドなど、ユニークなデザインで有名です。その妻であるドロシー・ベッカーは、グラフィックスタジオで働いた後、雑貨ショップを経営したりクラフトアートを研究したりと多才な女性。この2人によってつくられた「ウーテンシロ」は、世界中で人気を博した後、オイルショックの影響で1974年に生産中止となりました。が、2001年、スイスの名門ヴィトラ社によって復刻。幅67センチ、高さ87センチの大ぶりな「ウーテンシロ」と、ひとまわり小さな「ウーテンシロ2」の2タイプが、再びつくられるようになったのです。

ウーテンシロよりひとまわり小ぶりの「ウーテンシロ2」は、バスルームやキッチンにも合うポップな質感が特徴。ヴィトラ・デザイン・ミュージアム・コレクション。幅52×高さ68×厚み7センチ。プラスチック製、約2.5キロ。色は赤、白、黒。各2万8,350円

 素材はミッドセンチュリー感いっぱいのプラスチック製。四角からたまご型まで、さまざまな形のポケットがランダムに配置されています。一番の特徴は、身の回りのものをなんでも入れられるようになっている点。子供用の玩具からヒントを得たというだけあって、「何をどう突っ込んでおいても絵になる」というのが名作と呼ばれる理由です。

 例えばリビングや寝室の壁に掛けてみたとして。文房具や眼鏡やCDやメモ、アクセサリーに工具に携帯に懐中電灯。どんなにバラバラなアイテムを入れても不思議なほどさまになる。キッチンの壁に掛ければ、レードルやトングなどのキッチンツールから調味料まで全て引き受けてくれるし、書斎でもバスルームでも玄関でも、これ以上強い味方はないほどの威力を発揮してくれるのです。

容量に整頓のヒミツ

ポケットの宿命である「全部は隠れない」状態、つまり「見せながらしまう」状態なので、知らず知らずのうちにキレイなものだけを選ぶようになるはず
ウーテンシロが表紙に使われた「L’UTOPIE DU TOUT PLASTIQUE(ルトピ ドゥトゥ プラスティーク)1960-1973」。60〜70年代に新たなデザインムーブメントを巻き起こした新素材、プラスチックに着目した一冊。ヴェルナー・パントン、ジョエ・コロンボ、アキッレ・カスティリオーニ、エーロ・アルーニオらの作品が並ぶ。価格7,245円

 「何をどう突っ込んでおいても絵になる」のは、もちろんデザインの力によるところが大きくて、たぶん、配置や大きさのバランスなどがかなり緻密に計算されているのでしょう。そして、それ以上に「ポケット」だというところが重要なんだとも思います。ポケットというのは、何でも入るように見えて、本当は無限じゃない。一つ一つのポケットをよく見れば、しまうものの大きさも数も制限されているし、「これ以上は入らない」という限界点がくるのも意外と早い。でも、だからこそキレイに整頓できるのです。

ウーテンシロを復刻したヴィトラ・デザイン・ミュージアムの新作から、鳥の木製オブジェ「L'Oiseau(ロワゾー)」を紹介。家具や食器などで人気の兄弟デザイナー、ロナン&エルワン・ブルレックが、初めて「用途を持たないプロダクト」をデザイン。メープル材を削り、丁寧に仕上げられたその姿は、北欧のフォークアートを思わせる美しさだ。高さ15センチ×幅24.5センチ×奥行き6センチ。価格1万2,600円

 ウーテンシロのポケットに、まずはなんでもかんでも突っ込んでみる。おそらくそれでも、モノはあふれてくるのです。そのあふれたモノを処分したり別の場所にまとめたり、あるいは見た目が美しいものだけポケットに入れるよう選別したり。そうこうしているうちに、自然と身の回りが片付いてくる――ウーテンシロは、そういう状況へと導いてくれるアイテムなのだと思います。

 そして何よりの魅力は、やっぱり「ポケット感」満載なところ! コートやパンツのポケットに手を突っ込んだとき、そこにコインや鍵やガムやハンカチがあるあのうれしさ。大事なものや親しいものに、すぐ触れることができるあの安心感。そんなポケットがずらりと並んでいる「ウーテンシロ」が、魅力的じゃないワケがないのです。

 
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プロフィール
輪湖 雅江  わこ・まさえ
インテリアエディター
 1968年東京生まれ。慶応義塾大学文学部哲学科美学美術史学専攻卒。大学卒業後アシェット婦人画報社入社。雑誌『モダンリビング』、『婦人画報』の編集者を経て2001年フリー編集者に。独立後は、『和樂』(小学館)、『CasaBRUTUS』(マガジンハウス)、『建築知識』(エクスナレッジ社)などで活動中。
2012年2月8日  読売新聞)


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