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“職業体験”でつなぐ地域の輪  東京都江戸川区


 東京都の東に位置する江戸川区では5年前から、区内の公立中学校2年生を対象とした職業体験プログラム「チャレンジ・ザ・ドリーム」を実施している。中学2年生がのべ5日間、地域の企業やお店に出向いて実際の仕事を体験するこのプログラムは、子どもたちに職業や仕事に興味を持たせるだけでなく、地域の人々とのコミュニケーションを育むことにも一役買っている。地元での仕事体験を通じて、子どもと地域の人々が交流する現場を訪ねた。

常連客から“差し入れ”も 地域ぐるみで見守る

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蕎麦屋「満留賀」で働く渡嘉敷直康君。常連客からは「一生懸命がんばっているから応援している」との声も
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美容院「HAR’S HAIR」で働く枝美幸さんと島村真綸さん。最初に教わった、ウェイティングフォームでお客さんにごあいさつ

 「いらっしゃいませ!」。元気な声で出迎えてくれたのは、小松川第二中学校2年生の渡嘉敷直康君。JR総武線平井駅から徒歩5分の蕎麦屋「満留賀」で職業体験をしている。地元の駅前商店街にある「満留賀」は9割が常連客。そこでの渡嘉敷君の評判は上々だ。店主の太田五七さんは「(これからもずっと)うちで働いてほしいくらいだよ。常連さんも店で中学生が働いていると応援してくれる」と話す。

 渡嘉敷君の実家は近くで焼鳥屋を営んでいて、普段からお店に立つことがあるためか、てきぱきとお客さんから注文を聞いては料理を運んだり、食べ終わった食器を下げたりして働いている。

 そんな渡嘉敷君に感想を聞くと、「お客さんに『頑張ってね』と言われたときが一番嬉しかった」と笑顔で答えた。

 同じく小松川第二中学校の枝美幸さんと島村真綸さんは、学校の近くにある美容院“HAR’S HAIR”で美容師の体験をしている。創業48年というお店は、古くから地元の人に利用されている美容院だ。

 店主の平川明子さんは、「お客様をおもてなしして、喜んでいただくというサービス業の根底のところをきちんとわかってもらいたい」と、まずはお辞儀の仕方から教える。さらに、店内の掃除や接客、パーマを巻く手伝いなど、本格的な美容師の仕事も体験する。

 常連のお客さんのなかには時々、働いている中学生にと、おまんじゅうなどの差し入れを買ってきてくれる人もいるという。「(お客様も)職業体験のことは知っているので、みんなが温かい目で見守っている」(平川さん)。

仕事の喜びを感じる 学校では見せない顔も

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JR東西線西葛西駅から歩いて5分のところにある老人保健施設「くすのきの里」
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「くすのきの里」で、95歳の橋本ハルさんのオセロゲームの相手をする黒川優貴君と大野哲之進君

 東京メトロ東西線西葛西駅から歩いて5分のところにある介護老人保健施設「くすのきの里」では、西葛西中学校の黒川優貴君と大野哲之進君が体験をしていた。

 この施設は、脳梗塞や脳溢血などの脳疾患や骨折などによって体が不自由な人のためのリハビリ施設。利用者の平均年齢は83歳と地元在住の高齢者がほとんどだ。

 この施設で二人は、入浴後の利用者の髪をドライヤーで乾かしたり、歌などのレクリエーションのお手伝いをしたり、トランプ・将棋・オセロの相手をしたりしている。

 利用者の一人、橋本ハルさんは95歳。ここ10年ほどこの施設でリハビリを続けている。黒川君と大野君とは、オセロゲームの相手をきっかけに出会い、今では「明日も来るからね」と約束をするほどの仲。「(黒川君と大野君は)普段会えない孫と同じくらいの年齢なので、一緒に遊べて嬉しい」と嬉しそうに話す。

 「くすのきの里」の片岡磯和相談員は、「(子供たちがこの体験を通じて)社会にはこういう介護老人保健施設があって、利用している人や働いている人がいるということを知ってもらいたい」と話す。

 二人にとっても、「くすのきの里」での体験はいろいろな発見があったようだ。「おじいちゃんおばあちゃんが『ありがとう』と言ってくれたときは、何故か胸がジーンとした」(大野君)、「お年寄りはちょっとしたことで感謝をしてくれる。他の人の役に立てる仕事がしたいと思った」(黒川君)。職場体験を通じて、子どもたちは職業について考えるきっかけを得たようだ。

 西葛西中学校で2学年を担当している今井由喜教諭は、「(職業体験では)ふだん学校では見せないような、いきいきとした顔で働いている生徒もいます」と話す。

約1,000件の仕事が 将来を考える機会に

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お茶店「立花屋」で接客販売を体験する小松川第二中学校の蛭田未和さんと斉藤汐里さん。「いろいろな種類のお茶があってびっくりしました」
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江戸川区立船堀幼稚園で職業体験する小阪真由さんは、園児たちにも大人気。「自分が卒園した幼稚園なので懐かしい。大変だけど楽しいです」と話す

 江戸川区で実施されているこの「チャレンジ・ザ・ドリーム」は、今年で5年目となる。これまで約5,000人の中学生が区内の企業やお店などで実際に職業体験をしてきた。

 区内33の中学校に対し、この体験学習を受け入れる地元の企業やお店は現在、約1,000件。製造業や販売業、サービス業、教育や福祉関係、農業などの職種はさまざま。中学生はこのなかから、自分が興味のあるものを選んで体験する。

 このプログラムは、子どもたちが様々な職業を体験することで、働くことの大変さや面白さ、さらに社会の仕組みを学び、将来なりたい職業について考えてもらうことが目的。江戸川区教育委員会によると、体験した生徒のみならず、その保護者や受け入れた事業所からも至って好評だという。体験した生徒からは、「自分の将来について考えるようになった」という声が多く、保護者からは「(体験している)日ごとにやる気を出す子供が頼もしく見えた」といった感想が寄せられている。また、受け入れ先の事業者からは、「一生懸命働く中学生を見て、逆にこちら側の刺激になった」といった声も多い。

 「チャレンジ・ザ・ドリーム」の取り組みは、教育現場だけでなく周辺地域の事業者や住民の協力なくしてはできない。忙しい職場に不慣れな中学生を受け入れること自体、事業所によっては負担となることも少なくない。そうした問題を解決するためにも、地域ぐるみでの協力と理解が求められる。

 「毎年ほとんどの事業所が継続して職業体験に協力してくれる。生徒を自分の子どものように大切に考えてくれてとても嬉しい」(小松川第二中学校・高橋和光教諭)と話す。

 江戸川区では、中学生の職業体験を通じた地域の輪が広がっているようだ。(アイーダ・野澤猛)


<取材メモ>
「職業体験チャレンジ・ザ・ドリーム」
江戸川区教育委員会事務局指導室
電話:03-5662-1634
取材協力
株式会社アイーダ  
地域での市民活動や体験・交流型イベント等の情報サイト「チキタビ」(http://tikitabi.com/)を運営する会社。「地域の、地域による、地域のための観光を志向する」を基本理念として地域観光研究所を設立。
2009年6月23日 読売新聞)


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