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(4)勝負師向き、立ち直りの早さ

 昨年度、王座戦の本戦で快進撃を続けた渡辺明(20)は、当時五段ながら、王座の羽生善治(34)に挑戦した。

 羽生優位と思われた五番勝負だったが、渡辺は初戦に敗れた後二連勝し一気に王者をカド番に追いつめた。その第三局は、優勢な将棋を確実に勝つ羽生にしてはあまりにも珍しい逆転負け。一瞬の空白をつき、渡辺が返し技を決めた。

 羽生が投了後、両者ともに五分以上沈黙が続き、別室のモニター越しに見ていた記者たちは終局したのかどうかが分からず、しばらく入室を見合わせたほど。

 結果は、羽生が第四局から二連勝し辛くも防衛したのだが、その最終局の終盤は異様な緊張感に満ちていた。苦しい将棋を逆転した羽生が決め手の一着を放とうと駒を持ったが、その右手の震えがどうしても止まらず、最後は駒をわしづかみにして盤のマス目に放り投げるように着手するほど平常心をなくしていた。以来、渡辺は「羽生を震えさせた男」と呼ばれるようになった。

 羽生は「渡辺将棋は、現代の若者らしく多くのデータの中から良質のものを選び出す能力が高い。棋譜、定跡、研究、手筋などあふれかえるほどの情報量をうまく質に転換できている。粗削りという表現が似合わない完成度」と分析する。

 また、竜王戦七番勝負で初の二日制の対局ながら竜王だった森内俊之(34)を破ることができたのは、「テレビでも生中継され、多くの人が見る対局で自分のペースを貫けたことが大きい。私が十九歳で竜王に出た時は、指す以前に前夜祭から緊張していた」とも。

 実際、慣れない前夜祭を渡辺が負担に感じないよう私たち竜王戦担当記者が「対局の抱負はインタビューに答えてもらう形式にしましょうか」と提案しても、新鋭はやんわりと断り、ファンを前にしたあいさつ直前まで子供たちとの記念撮影に応じるほど余裕があった。

 羽生はさらに、「彼の特長はすぐ立ち直れること。七番勝負では第二、三局と連敗したが、その後の伸び伸びとした将棋を見ていると気持ちを切り替えるという意識さえないのでは。若者特有というより、彼だけが持つ勝負師向きの資質」と断言した。(敬称略)

2005年1月24日  読売新聞)
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