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    ITジャーナリスト三上洋さんが、サイバー犯罪から身を守る術や情報流出対策などを解説します。

    ドローン少年の収入とネットライブ配信

    • 長野・善光寺でのドローン飛行禁止を記した看板(読売新聞掲載)。15歳の少年がドローンを飛ばし、落下させた事件のあとに掲示された
      長野・善光寺でのドローン飛行禁止を記した看板(読売新聞掲載)。15歳の少年がドローンを飛ばし、落下させた事件のあとに掲示された

     逮捕されたドローン少年に、様々な臆測が流れている。筆者もインターネットライブ配信を仕事と趣味で行う立場にあるので、個人のライブ配信のしくみと収入についてまとめておきたい。(ITジャーナリスト・三上洋)

    ネットライブ動画配信での収入:「アフリカTV」では投げ銭に似たしくみあり

     まずは申し上げておきたい。筆者は、仕事や趣味でインターネット上でのライブ動画配信を行っている。今回の事件は、そのネットライブ配信でのトラブルであり、そのために主観的な意見が入ってしまう可能性がある。できる限り、客観的にまとめるように心がけたが、筆者がネットライブ配信に関わる立場であることをご承知おき願いたい。

     逮捕された15歳の少年は、ノエルというハンドルネームで、ネットライブ動画配信を行っていた。東京・浅草の三社祭でドローンを飛ばすとほのめかし、主催者に警戒させたという業務妨害の容疑で逮捕されている。これより前にも、善光寺(長野市)の御開帳でドローンを落としたり、警察官との口論を生配信したりするなどのトラブルを起こしていた。

     15歳の少年は高価なドローンを使っていたが、どこから収入を得ていたのだろうか。収入源は2つ考えられる。1つはファンからの寄付(後述)と、もう1つは配信自体での収入だ。まずは配信自体での収入を見てみよう。

     一部の生放送サービスでは、配信自体で収入を得ることができる。日本で使われている主なネットライブ動画配信サービスをまとめておこう。15歳の少年は、以下のサービスを使っていたが、収入を得ていたのはアフリカTVと呼ばれるサービスだ。

    ●ニコニコ生放送(株式会社ニワンゴ)

     古くからあるネットライブ動画配信サービス。個人のライブ配信者が多く、「生主」と呼ばれる有名な配信者が多数いる。運営側が認めた生主は公式チャンネルを開設でき、そこで課金(月額・都度)し、手数料を除いた上で収入を得ることができる。

     15歳の少年も配信していたが、チャンネルは開設できていないので、ニコ生での収入はなかっただろう。彼のアカウントは、運営側によって何度か削除されている(問題のある配信を行ったためと思われる)。

    ●ツイキャス(TwitCasting:株式会社モイ)

     スマートフォンに特化したライブ配信サービス。配信する側、見る側どちらもスマートフォンが中心。ユーザーがとても多く、中高校生にも人気がある。ただし配信者が収入を得るしくみはない。

     15歳の少年は、このツイキャスでも配信していたが、宣伝や予告などが多かった。運営側によって、すでにアカウントを削除されている。

    ●アフリカTV(afreeca tv:株式会社アフリカTV)

    • アフリカTVでの15歳の少年のチャンネルは、一連の事件を受けて削除された
      アフリカTVでの15歳の少年のチャンネルは、一連の事件を受けて削除された

     韓国のライブ配信サービスで、2014年から本格的に日本に参入。他社と異なり、視聴者からの「投げ銭」で、配信者が収入を得ることができる。そのためニコニコ生放送やツイキャスなどの人気配信者が、収入のために利用することが多い。

     15歳の少年は、大きなイベントの配信ではアフリカTVを利用していた。最近までチャンネルが生きていたが、現在は削除されている。

     アフリカTVでは、リスナー(視聴者)が気に入った配信者に「投げ銭」をすることができる。投げ銭とは、視聴者がお金を配信者に送ること。つまり配信者が、お金を稼げるのだ。実際には、リスナーはアイテム(星風船)をクレジットカードなどで買って配信者に送り、配信者は()まった星風船をAmazonギフトカード・iTunesカードに交換できるというしくみだ。

     現金化するには、そのギフトカードを何らかの方法で換金する必要がある。換金よりもAmazonで直接使ったほうが有利なので、Amazonで買いたいものがある場合は直接利用する人が多いだろう。

     15歳の少年は、イベントでの中継ではアフリカTVを使っていた。投げ銭のしくみで収入を得る、もしくはAmazonで配信機器やドローンなどを購入するためだったろう。

     アフリカTVは、後発だったこともあり、他社よりもアカウント削除の基準がゆるいと言われていた。他社ではすぐに削除される配信でも、アフリカTVではそのままということがあったからだ。またアフリカTVでは、利用者を増やすために、ニコニコ生放送やツイキャスの人気配信者をスカウトしていた。そのため基準がやや甘くなっていた可能性がある。

    ファン・リスナーである「囲い」からの寄付・支援と「ストリーミングハイ」

    • 15歳の少年のウェブサイト。振り込みでの支援募集・グッズ販売などを行っていた
      15歳の少年のウェブサイト。振り込みでの支援募集・グッズ販売などを行っていた
    • ウェブサイトで口座を公開し、配信への支援を募集していた
      ウェブサイトで口座を公開し、配信への支援を募集していた

     15歳の少年の収入源のもう1つは、ファン・リスナーからの寄付・支援だ。これは彼のウェブサイトを見るとよくわかる。

     ウェブサイトには「生主ノエルへの支援はこちら」として、銀行の口座番号が公開されている。視聴者からの現金による支援を募集していたのだ。これは彼だけでなく、他の配信者の一部も行っている。口座をさらしてお金を集める行為を嫌う配信者が多いが、中にはそれで生計をたてている女性配信者もいる。

     ウェブサイトでは、15歳の少年が作ったグッズも販売していた。ミサンガや消しゴムハンコのセットを販売しており、購入することで支援できた。

     15歳の少年は、配信で自分の家庭環境を語ったり、親とのケンカを配信したりするなど、かなりプライバシーを公開していた。配信を熱心にすることもあって、ファンが多く集まっていた。このファン・リスナーは、「囲い」とも呼ばれている。「囲い」とはファン・リスナーが、配信者を囲い込んで自分たちの思うとおりに動かそうとすることを揶揄する用語。それが転じて、熱心なファンのことを指すこともある。

     この「囲い」が、現金での支援、場合によっては高価なドローンを寄付することもあったと推測できる。彼がいろいろな場所に配信しに行けたこと、高価なドローンや配信機器を持っていたのは、これら「囲い」からの支援があったためだろう。

     現金やモノでの支援だけでなく、精神的な支援もある。ネットライブ動画配信は、視聴者からのコメントをリアルタイムで見ることができるのが特徴だ。コメントを読むことで、双方向にコミュニケーションできるのが最大の魅力である。しかし、そのコミュニケーションが、行動をエスカレートさせてしまうことがある。

     「もっと見たい」「あそこへ行って配信しよう」などとコメントが流れると、配信者はそれを読んで、流されてしまうこともある。「面白い」と言われれば、図に乗って過激なことをしてしまいがちだ。

     筆者も経験があるが、「ストリーミングハイ」とでも呼ぶべき状態になることがある。ストリーミング(生配信)中に、興奮状態になるということだ。これはテレビの取材カメラマンが、事件の現場だと前へ前へと突っ込んでしまう状態に似ている。

     15歳の少年の場合も、一連の事件を経験し、ストリーミングハイに入ってしまった可能性がある。ファン・リスナーがけしかけたことも原因の一部だろう。

    法的な規制は無意味…運営サイト側のチェックが必要か

     彼の目的は、金(もう)けではないだろう。ネットライブ動画配信でお金を儲けることはむずかしく、ごく一握りの超有名人だけが、ようやく配信だけで食べていける状態だからだ。また「有名になりたい」という欲望はあっただろうが、それだけが目的とは考えにくい。単純に事件を起こして騒がせるのではなく、ライブ配信のための行動をしていたからだ。

     筆者が推測するに、彼は彼なりの正義感で、現場を伝えようとしていたのではないか。見やすい位置からの撮影をしたいからとドローンを使い、きれいに配信したいからと高価な配信機器をそろえる。そして遠方の取材のために、旅費を支援に頼っていたのだろう。

     ただし、それがエスカレートして、トラブルを何度も繰り返してしまった。彼の常識のなさと、周りのリスナーからのあおりが、過激な配信を繰り返す原因となっている。

     このような事件を防ぐためには、どうしたらいいのだろうか。ネットライブ動画配信への法規制は意味がないと筆者は考えている。スマートフォン一台で誰でも配信できる時代に、法規制をかけても抑止するのは難しい。

     それよりも運営サイト側がチェックをきちんと行うこと、及び青少年の利用には一定のルールを決めることが重要だろう。すでに運営サイト側ではチェックを厳しくするなどの監視を行っているが、現在よりも有人の監視を増やすなどの対策が必要だ。

     青少年の利用には一定のルールが必要だろう。ネット配信では、肖像権、著作権、場合によっては撮影許可といった知識が欠かせない。他人やイベント主催者に迷惑をかけないといった社会的な常識も必要だ。未成年者の場合は、一定の知識とルールをマスターしていることを運営サイト側が確認する、もしくは親の同意を必要とするなどのしくみを作ることを望みたい。

    2015年05月22日 15時03分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    プロフィル
    三上洋   (みかみ・よう
     セキュリティ、ネット活用、スマートフォンが専門のITジャーナリスト。最先端のIT事情をわかりやすく解き明かす筆力には定評がある。テレビ、週刊誌などで、ネット事件やケータイ関連の事件についての解説やコメントを求められることも多い
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