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母の形見分け 早すぎたか

 50代女性。昨年、最愛の母を亡くし、形見分けをしましたが、そのことで今も悩んでいます。

 母は実家で弟夫婦と同居していました。強くて優しい人で、私の心の支えでした。四十九日法要が終わって納骨が済んだ時、私は母の死に区切りをつけ、新しいスタートを切ろうと思って母の荷物を整理し、形見分けをすることにしました。

 母の古くからの友人を呼び、皆で母のタンスを開け、小物やそのタンスをその人たちに受け取ってもらいました。私は感情を出さず淡々と対応しましたが、皆喜んでくれたようでした。

 でも最近、形見分けした日を思い出すと、悲しくなります。母の生きた証しだったいろんな物が多くの人に分けられて消えていく。そのことで母が死んだのだと強く感じてしまいます。

 早めに整理をした私は冷たい娘なのでしょうか。遺品をすべて残すことはできないにしても、どう扱うのが故人にも残された人にもよいことなのでしょうか。(東京・S子)

 あなたがおっしゃるように、故人の遺品すべてを残しておくことはできません。いずれは自分自身が世を去るので、そのときどうするかの問題が出てきますが、私はそれとは別に、故人の遺品を独り占めするというのは、故人を知っていた人たちに悪いのではないか、と思うのです。

 よく言われることながら、人が亡くなるというのは、その人の心の中にあった家族・友人その他の人々の記憶も失われるのを意味します。また、亡くなった人は、その人を知っていた人たちの心の中に生き続けるのも確かです。

 そしてすべての人々が、遅かれ早かれ死んでゆくのだとすれば、形見などというものは、故人を知っていた人たち、故人をしのぶことのできる人たちに配られるべきでしょう。その人たちだって年月がたてばこの世を去るのです。

 あなたは形見分けが早かったのではないかと思い、あなた以外の人に形見が渡ってゆくのを、お母さんの喪失と結びつけておられますが、それでよかったのではありませんか? お母さんの死を受け止めるためにも……。

 (眉村 卓・作家)

2011年11月19日  読売新聞)
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