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円高は中国の謀略か

研究員の顔ぶれ

調査研究本部主任研究員 笹島雅彦

 新興国の一角を占める中国は、今や、低迷する世界経済のエンジンにたとえられている。

 その中国経済が減速し始めているのではないか、という観測が流れ始めた。最近になると、1月23日から始まる「春節(旧正月)」の消費が低迷し、経済成長率が伸び悩むだろうとの予想まで国内で報道されているほどだ。お正月気分に浸っている中国人庶民の懐具合まで、日本側が心配する。それほど、経済的相互依存関係は深まっているということだろうか。

 昨年3月ごろ、円相場が円高・ドル安に大きくふれ、1ドル=76円台まで急上昇したことがあった。別に日本経済が強かったわけではなく、米国経済に問題があったため、ドル売りが進んだという解説が当時、多かったように思う。ちょうど、そのころ、中国を専門とする大学教授から、「円高は、中国の仕業ですよ」と、耳打ちされた。中国政府系のファンドが世界一の外貨準備高を背景に、NECや三井物産など日本の大手企業の株を買いあさり、その投資のためにドルを売って円に替えていることで円高が進んだ、という。しかも、「これは、外資系投資銀行に勤める教え子たちから聞いた話ですよ」と、情報源まで教えてくれた。

 そう聞かされると、経済に疎い筆者としては、なんだか、中国謀略説みたいだなあ、と思ってしまい、半信半疑のまま、会話がとぎれてしまった。その後、中国経済に詳しい学者に中国政府系ファンドの動きについて、尋ねてみたが、秘密のベールに覆われていて「よくわからない」という回答しか得られなかった。

 ところが、本紙経済面の連載「通貨大乱」の5回目「中国マネー膨張続く」(今年1月9日付)の記事で、その一端をうかがい知ることができた。それによると、中国は日本への投資を進めており、NECや三井物産などの大株主になっているのは、中国政府系ファンドとみられる「OD05 オムニバス」なのだという。このファンドが出資する日本企業は2010年9月時点の148社から、11年9月末には264社へ急増した。中国から日本への国債を含む債券投資残高は10年末には1年前の約3倍の10・5兆円に達している。「こうした投資のため、中国が手持ちのドルを売って円に替えることが、歴史的な円高を増幅させている」という。

 また、昨年11月下旬、日中首脳会談を前に、中国人民銀行の副総裁が東京・霞が関の財務省を訪問。日本が中国国債を購入する案を打ち合わせた。日本側の目的は、中国が進める人民元の国際化を後押しし、両国経済の関係を強めることと、中国国債購入で「人民元を買う流れを作り、円高を食い止めることを狙っている」という。

 周到な取材に基づく記事であることが随所にうかがわれた。仲間内をほめるようで恐縮だが、思わず、ひざを打って納得した。やはり、中国が1枚かんでいたのか。しかし、円高は中国の意図的な謀略だったのかどうか、この現象からだけではわからない。

 世界第2の経済大国・中国マネーの力は、確かに高まっている。それは、日中間の経済的相互依存の深まりを示す一方、経済活動の中に政治目的が潜む中国の手法への警戒感も高めている。それは、レア・アース(希土類)の輸出制限問題でも明らかだ。中国の対外行動に対しては、政治・軍事と経済を複眼的にみることが大切だろう。

2012年1月26日  読売新聞)

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