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駅伝人気 マラソンをだめにした?

研究員の顔ぶれ

調査研究本部研究員  芝田裕一

箱根駅伝・復路の10区で、ゴールする東洋大・アンカーの斎藤貴志(2012年1月3日撮影)

 駅伝があるから、日本のマラソンは強くならない。少なからぬ陸上競技関係者が、そう苦言してきた。大学と実業団における「駅伝偏重」の練習が、マラソン日本代表の弱体化につながっていると。

 関東の大学長距離ランナーの多くがあこがれる箱根駅伝(東京箱根間往復大学駅伝競走)は、1区間の距離が21キロメートル前後だ。求められるのはハーフマラソンを安定したペースで走り抜く力である。

 世界を目指すのなら1周400メートルの陸上トラックでスピード練習を積むか、42.195キロのフルマラソンに備えたスタミナ練習を重ねるべき時期なのに、箱根に特化した練習ばかりを行っていると、トラックの能力もマラソンの能力も伸ばせないまま、大学の4年間が終わってしまう恐れがある。

 だが、今年の1月2、3日に行われた第88回大会は、「箱根駅伝に必要なのはハーフを堅実に走る力」という認識を一変させた。優勝した東洋大学のメンバーは、最初から最後までハイスピードで走る攻めの姿勢に徹し、総合記録を8分以上縮める10時間51分36秒でゴールした。

 これまでの箱根では、1キロ平均3分〜3分5秒程度のペースで走れば優勝が狙えたが、今年の東洋大は平均2分59秒台で走っている。マラソンをこのペースで走ると2時間6分16秒になり、五輪や世界選手権で優勝を争えるタイムになる。箱根駅伝が「高速化」した結果、駅伝強化がマラソン強化につながる可能性が出てきたのだ。最優秀選手に選ばれた東洋大の山登りの達人・柏原竜二選手は、実業団の富士通に進み、マラソンに挑戦することを宣言している。

 そもそも「箱根駅伝の人気が高まったからマラソンが弱体化とした」という説明には納得できなかった。かつてショーターやサラザールらが世界のマラソンをリードした米国に駅伝文化はないが、最近はマラソンのメジャー大会で勝てなくなっている。日本女子に箱根駅伝のような大会はないが、北京五輪ではメダルを逃している。勝てなくなったのは、ケニアを中心とするアフリカ勢が強くなりすぎたからで、駅伝のせいではない。

 そのケニア出身で、北京五輪マラソン金のワンジル選手は、仙台育英高とトヨタ自動車九州で駅伝を走っていた。元米五輪代表ランナーのピート・フィッツィンジャー氏は「ワンジルは多数のレースに出場する誘惑から逃れられ、日本の練習で直観力と自立心を育んだ」と、駅伝を重視する日本の実業団のシステムを評価している。

 スポーツライターの生島淳氏が書いた「箱根駅伝」(幻冬舎新書)によると、長距離陸上界に一流選手を輩出している福島県と兵庫県では、全県を対象とした駅伝が毎年開催され、隠れた才能の発掘に貢献しているという。もしこうした駅伝がなかったら、そして、箱根駅伝がなかったら、長距離を目指す若者はかなり減るだろう。甲子園大会が日本野球のすそ野を広げているのと同じである。

 箱根駅伝を共催している新聞社の社員である私が箱根駅伝を擁護しているのだから、説得力はいま一つかもしれない。しかし、たとえ箱根駅伝がライバル社の主催であったとしても、この考えは変わらないと思う。

2012年1月19日  読売新聞)

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