近い将来、サイバー戦争は起きるの?
すでに起こっていると言えるのが実情
防衛産業大手の「三菱重工業」のコンピューターシステムに大規模なサイバー攻撃が仕掛けられ、サーバーやパソコンなど83台がコンピューターウイルスに感染していたことが明らかになりました。
警視庁は、何者かが原子力や防衛関連の機密情報を抜き取ろうとしたスパイ事件の疑いがあるとみており、不正アクセス禁止法違反容疑などを視野に捜査を進める方針です。
日本国内で、大規模なサイバー攻撃が発覚したのは初めてですが、民間企業側はなかなか被害を公表しようとはせず、これも「氷山の一角」といえます。
世界中で、様々な攻撃事例が明らかになっており、インターネットの介在によるサイバー犯罪やサイバー空間の軍事化が脅威となってきています。まずは、膨大な経済情報や知的財産が企業から盗み出されて、ライバル国の経済にそのまま借用されていることが大きな問題です。
そのうえ、軍など政府機関の情報が盗まれた事例もあり、陸上交通や航空管制、原発や水力発電所などの電力供給、上下水道処理の制御システム、電子通信システム、金融システムなど国家の重要インフラがサイバー攻撃の標的になってしまう可能性もあります。
インターネットに国境はないのに、国の法律が適用されるのはその国内だけです。ハッカーや攻撃者はこの点につけこんで、法体系や捜査力の弱い国を拠点として、他国へのサイバー犯罪を仕掛けています。これがハッカー個人でなく、国家が主体となって、他国の政府機関や国の重要インフラを対象にした攻撃を始めると、「サイバー戦争」の様相を帯びてきます。
その実例として、2007年4月、バルト3国の一つ、エストニアが国全体を標的とするサービス妨害(DDOS)攻撃を受けたのはロシアの仕業ではないか、と専門家の間で分析されています。このときは、1週間にわたってインターネットのラインが途絶、首相官邸や銀行のウェブサイトが閉鎖に追い込まれてしまい、政府業務をはじめ、通信、金融ネットワークに大きなダメージを受けました。ただし、エストニア政府はロシアが犯人であると突き止めることはできませんでした。ロシア政府はもちろん、否定しています。
その翌年、2008年8月のグルジア紛争の際にも、ロシアはグルジアを対象にサイバー攻撃を行ったようだと専門家は指摘しています。グルジア政府は紛争発生直後、「政府機関のコンピューターがロシアのハッカーに乗っ取られ、グルジア外務省はウェブサイトを移動せざるを得なかった」と声明を出していました。しかし、当時、最初に発砲したのはグルジア側だった、という報道もなされ、国際社会ではグルジア側が不利な情勢でした。
その後、米国の専門家たちの分析によって、グルジア紛争は、「ロシアが攻撃的サイバー戦を政治・軍事戦略に統合した初めてのケース」であり、将来、軍部がサイバー戦をどのように使うかの下調べだった、と位置づけられています(米フォーリン・ポリシー誌1月号)。
その分析によると、グルジア紛争が発生する数週間前、ロシアはグルジア側に対し、攻撃的サイバー戦を開始。ロシアのサイバー情報機関がグルジア軍や政府のネットワークに潜入し、重要サイトの偵察を行い、きたる戦闘に備えて有効な資料を収集した、といいます。
同時に、ロシア政府は民間のハッカーたちを「ロシア・サイバー民兵」として組織化し、事前にサイバー攻撃のリハーサルを行うなど、戦闘を支援させたといわれています。
同年8月7日に戦闘が始まると、ロシア政府とサイバー民兵は、グルジア政府、軍のサイトに対してサービス妨害攻撃を仕掛け、政府機関同士、軍組織同士の情報伝達ができないようにしました。とくに、軍事作戦を展開する近くの民間サイトも攻撃することで、グルジアの民間人にパニックを引き起こしました。グルジア人ハッカーたちのフォーラム・サイトも攻撃し、ロシア側のサイトに報復攻撃をできないよう予防線を張りました。
その一方で、グルジアにとって最重要のバクー油田パイプラインや関連インフラへのサイバー攻撃を手控え、グルジア側が早期の戦闘終結に向かうよう仕向けたそうです。
「宣戦布告なきサイバー戦争」は、すでに始まっているといえそうですね。米政府は、政府や軍のサイトが中国からのサイバー攻撃にさらされていることに懸念を表明しています。
わが国では、昨年12月に定められた新しい「防衛計画の大綱」の中で、サイバー攻撃に対して「自衛隊の情報システムを防護するために必要な機能を統合的に運用」して高度な知識・技能を集積する方針に触れていますが、具体的な防護策やサイバー部隊の編成はまだまだ、これからの課題です。
政府の「情報セキュリティ政策会議」では、官民で情報共有を進めていく方針ですが、米国をはじめとする先進諸国同士で、さらなる国際協力体制の強化を図る必要がありそうです。
(調査研究本部主任研究員 笹島雅彦)
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