エヴァンゲリオンで学ぶコーポレートガバナンス
こんにちは、磯崎哲也です。ベンチャーを設立したばかりの人や、これから設立しようという人からよく、「会社を設立したけど、社外取締役って誰かにお願いした方がいいんですか?」「監査役って何をする人ですか?」といった質問を受けます。
今回は、「企業とは何か」「なぜ社外取締役や監査役が必要なのか」について、アニメ「新世紀エヴァンゲリオン(または『ヱヴァンゲリヲン』)」の組織も対比させながら、考えてみたいと思います。
今どきの株式会社
これまでも何回か触れて来たように、イノベーションを起こすようなベンチャー企業は事業のリスクも高いので、資金調達は銀行借り入れではなく株式で行うことが基本になります。会社にもいろいろ種類がありますが、株式を発行できるのは「株式会社」だけですので、現代のベンチャー企業は、最初から株式会社として設立するのがオススメです。
(以前は、資本金のための資金を最低1000万円用意しないと株式会社が設立できませんでしたので、最初に合資会社や有限会社を設立して、その後株式会社に組織変更するケースも多かったのですが、平成18年5月の会社法施行以降は、この最低資本金規制が撤廃されましたので、今では、手持ち資金が少なくても、最初から株式会社を設立することが容易になっています。)
さて、この株式会社の所有者は「株主」ということになっています。
一般的に、株主ができることは、株主総会で議決権を行使したり、配当を受け取ったり、売り時だと思ったら株式を譲渡したり、といったことに限られますので、「所有者だから何をやっても許される」ということではありませんが、ともかく、会社は株主の利益のために行動すべきなのです。
特に、投資家から資金調達をするベンチャー企業は、「会社は株主の利益のために行動すべきである」という点をよく噛み締める必要があります。
エヴァンゲリオンとガバナンス
さて、コーポレートガバナンスという言葉は聞いた事があると思いますが、その概念はあまりよく理解されていないのではないかと思います。
エヴァンゲリオンは、「ガバナンス」の概念が盛り込まれた数少ないアニメの一つだと思いますので、以下、このエヴァンゲリオンに登場する組織を使ってコーポレートガバナンスを考えてみましょう。
作品中で、エヴァンゲリオンを運用する「ネルフ(ドイツ語で『神経』の意)」という組織は、国際連合に所属する組織とされています。このネルフは、碇ゲンドウという総司令官によって指揮されていますが、この碇司令やネルフを監督しているのが「人類補完委員会(≒『ゼーレ』、ドイツ語で『魂』の意)」という機関です。
ネルフと株式会社を対比して図にすると、下記のようになります。
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つまり、
・国際連合←株主総会
・ 人類補完委員会(≒ゼーレ)←取締役会
・ 碇ゲンドウ←代表取締役
といったアナロジーで考えると理解しやすいかと思います。
(もちろんアニメの話ですし、株式会社についての話でもないので、当然ですが、現実の株式会社の運営と完全に一致するわけではありません。悪しからず。)
「魂(ゼーレ)」という概念が非常に象徴的ですが、実は、株式会社における取締役会という機関も、それ自体が対外的なやりとりを直接担当するわけではありません。行動を決めるのは「魂(ゼーレ)」なのですが、それは「体」を通して、はじめて対外的な行動になるわけです。
さらにいえば、株式会社などの「法人」という概念は、「自然人」に対応する概念で、文字通り「法」で認められた「人」、つまり、「人の造りしもの」なのです。「あそこに知り合いの会社がある」と言う場合に目に見えるのは、「会社の所有する(または賃貸する)建物」や「会社が雇用する従業員」であって、「会社(法人)」自体は目には見えません。
「でも取締役って、実際に『業務』をやってますけど?」と思われるかも知れません。会社が外部と契約を交わしたり、取締役が業務を執行したりしているのは、取締役が「代表権」を持っていたり、取締役会で「業務を執行する者」として選任されているからなのです。
アメリカの株式会社や、日本の「委員会設置会社」では、監督をする取締役(director)と、実際の業務執行を行う執行役(officer)が明確に分かれていて、より、この監督と業務執行の対比がわかりやすくなっています。「CEO」はたいてい、取締役会メンバーであり執行役でもあります。(エヴァンゲリオンでも、碇ゲンドウは人類補完委員会のメンバーであると同時にネルフの指揮という業務執行も行っていますが、他の人類補完委員会のメンバーは、「社外」的なメンバーで、ネルフの業務に直接タッチしていませんよね。)
利害の不一致
このように、統治する機関は、代表者に対して委任を行い、委任された代表機関が組織を代表することになるわけです。
エヴァンゲリオンでは、国際連合は人類補完委員会を通じて、碇ゲンドウに対して委任を行い、碇ゲンドウがネルフを代表しているわけですし、株式会社でも、株主総会が取締役会を選任し、取締役会が代表取締役を選任して会社を代表させるわけです。
しかし、このとき、委任した人と受任した人の利害は、必ずしも一致するとは限りません。(これは、経済学などで「エージェンシー問題」と呼ばれます。)
エヴァンゲリオンでも、国際連合と人類補完委員会(ゼーレ)と碇ゲンドウの利害は、それぞれ微妙に異なっています。「ゼーレのシナリオ通り」ということもあれば、「こいつはゼーレが黙っちゃいませんな」ということもあるわけです。
このため、受任者の行動が委任者の意図するところと一致しているかどうかを見張って方向を正す仕組みが必要です。こうした仕組みを「ガバナンス」というわけです。ネルフや碇ゲンドウの活動を監督するのは人類補完委員会の役目であり、碇ゲンドウ司令以外の各委員が、株式会社で言う社外取締役に相当するわけですね。
また、作品では、「監査部門」に所属する人間(加持リョウジ)も登場します。(加持リョウジは、単に「監査」をするだけではなく、「重要なモノ」を運ぶといった「業務の執行」も行っていますし、監査対象(碇ゲンドウ司令やネルフの各メンバー)からの独立性があるとも言えず、あまり株式会社における監査のアナロジーに使うのは適切ではないかも知れません。しかし、ゼーレが、「碇ゲンドウを見張る必要がある」というニーズから送り込んでいるという、根源的な存在意義は同じかと思います。)
創業ベンチャーのガバナンス
創業して間もないベンチャーでも、基本的な考え方は同じです。会社は「株主のもの」であって「社長や創業者のもの」ではありません。経営者は株主から委任されているのであって、「株主に報いる」という意識がないと、「中小企業」にはなれても、株式で資金調達をして、バイアウトされたり上場したりすることを目指す「ベンチャー」になることは難しいと思います。
経営者が「オレの会社だ」と思えるくらい愛情を持って会社に接することは重要ですが、それは「会社を私物化する」こととは違います。また、先日CEOを辞任したアップルのスティーブ・ジョブズ氏は、「独裁的だ」という評価を受けることが多かったと思いますが、彼ほど株主に貢献した人も他に多くはいないでしょう。
「株主のために働く」というのは、決して「株主の顔色をうかがう」とか「株主の意向を気にして萎縮する」ことではないのです。また特に、上場すれば誰が株主になるかわかりませんので、「株主の利益のために」というのは「社会の利益のために」と、ほぼ同義になってきます。「自分が食っていくため(だけ)に起業する」という人は、株式で資金調達をするベンチャーには向かないと思います。
アップルにも、アル・ゴア元米国副大統領をはじめ、すごいメンバーの社外取締役がたくさんいますし、グーグルなどの他のベンチャー企業も、そうそうたる社外取締役のメンバーをそろえていることが多いです。
しかし、創業当時から、そうしたコーポレートガバナンスのための社外取締役を置く必要は必ずしもないですね。
もちろん、ベンチャーであっても、数十億円といった資金を集めていきなり大企業と同じ土俵で勝負をしようというような会社であれば、創業初期から社外取締役や監査役を充実させたコーポレートガバナンスの体制が必要かも知れません。しかし、従業員が数名程度の創業して間もない会社であれば、たまに来て「監督」や「監査」をするだけの社外取締役や監査役は、(私は)あまり要らないと思います。
最適資本金制度と同様、平成18年の会社法施行以降は、株式会社であっても、必ずしも取締役会や監査役を置かなくていいことになりました。つまり、今や株式会社でも「取締役を3人以上、監査役を1人以上置かないといけない」といったことはなく、取締役は社長1人だけでもいいのです。
エヴァンゲリオンの(あまりよろしくない)例のように、組織の形をきれいに作れば組織が統治者の意図通りに動くとは限らないわけで、ガバナンスの設計というのは、人選も含めて非常に難しいことです。
創業当初は、本当に的確なアドバイスをくれる人がいるといった場合以外、形式的な会議は極力減らして、まずはビジネスの形を作ることに専念し、ビジネスが軌道に乗って組織も大きくなった段階で、社外取締役や監査役について考えるのがオススメではないかと思います。(ではまた。)
| 磯崎哲也(いそざき・てつや) |
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| 公認会計士・税理士、システム監査技術者。カブドットコム証券株式会社 社外取締役、株式会社ミクシィ 社外監査役、中央大学法科大学院 兼任講師等を歴任。著書「起業のファイナンス」、ブログ及びメルマガ「isologue( http://tez.com/blog/ )」を執筆している。 |
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