狙い目は企業向けソフト
最近、かなり地味めながら、「企業向けソフトの消費者化」という流れがあります。
英語で言うと、consumerization of enterprise software、です。やれ、Facebookだ、Zyngaだ、と消費者向けのサービスばかりが目につく昨今。企業向けはかなりおとなしい感じですが、日本発のベンチャーがグローバル化するのに、あまり悪くない領域ではないか、と思っています。
企業向けソフトの消費者化とは
「消費者化」された企業向けソフトには、大きく言って二つの特徴があります。
一つ目は、クラウドにアプリがあるということ。インストールするソフトウェアは必要ありません。消費者向けでは今や当たり前の形式で、無料のウェブメールを使っている人もたくさんいると思いますが、あれはまさにクラウドアプリ(サービスとも言いますが)。もちろんFacebookもそうですね。
二つ目は、使い勝手がよいこと。最近のよくできた消費者向けアプリは、考え抜かれたわかりやすい設計になっていて、マニュアルなどなくても、すぐに使い始めることができるようになっています。また、 極めてシンプルなデザインで、「メニューや説明がたくさんあり過ぎて、どこから始めていいかわからない」といったことも起こらないように工夫されています。
こうした消費者向けアプリの特徴を企業向けソフトに取り込むのが「企業向けソフトの消費者化」なわけです。
企業向けソフトの消費者化が進む背景
インターネットやモバイルの世界では、起業コストが極めて安くなったことで競合が激化。「死ぬほど使いやすい」ものだけが生き残れる時代となりました。しかし、企業向けソフトの世界では、そこまでの競合がありません。また、ユーザである企業側も、何でも新しいものにすぐ飛びつかない。結果として、消費者向けと企業向けで、使い勝手に大きな差が生じています。
そんな中、消費者向けアプリの使い勝手に慣れ親しんだ社員たちが、業務で使う企業向けソフトの使い勝手のひどさに憤慨することが増えてきました。
一方で、「自分が好きなデバイスを会社の仕事でも使いたい」という従業員のニーズは高まっており、社員のやる気の向上、ひいては生産性の向上のために、社員に自由に携帯やラップトップを選ばせる会社も増えています。シリコンバレーのエンジニアには、「開発部門をざっと見て、マックが少なかったらその会社では働かない」と言い切る人も普通にいるくらい。
デバイスが社員の好みで選べるようになると、ますます消費者向けと企業向けのアプリが横並びで見られるようになります。(たとえ会社用の端末では会社の仕事しかしないとしても、その端末が好きな人は自分用にも同じものを持っている確率高し、です。)
さらに最近は、iPadのビジネスユースでの普及という要因もあります。数日前に、米空軍が1万8000台のiPad購入を検討中というニュースがありました。重さが20キロ近い各種マニュアルなどをiPadに搭載して配る計画のようです。民間では、既にあちこちで業務向けに導入されているのを見かけます。iPadの普通のアプリケーションはどれもとても使いやすいのが当たり前。ビジネスユースでも、この使い勝手に近づけなければユーザはかなりがっかりします。
「消費者化された企業向けソフト」での日本発ベンチャーのチャンス
「消費者向けアプリ」は激戦区です。似たような製品やサービスが数十、ものによっては数百ある中で、勝ち残るのは1つか2つ、どんなに多くても片手で数えられるくらい。Facebookなど、似たようなサービスは数千単位であったかもしれません。日本人だろうがアメリカ人だろうが、誰が始めても成功確率が限られるわけです。
さらに、日本発グローバル、という切り口で考えると、日本の消費者の感性・動向は、外国との乖離(かいり)が広まる傾向があり、日本で受けるものが海外でも受けることは稀(まれ)です。最近では、グリーやDeNA、サイバーエージェントなど、日本で成功した会社が複数アメリカ進出していますが、日本の製品そのままでは受け入れられないものが多く、成功パターンが見つかるまで、巨額の投資をして、次から次へといろいろな手段を繰り出しています。逆に言えば、「次から次へといろいろな手段を繰り出せる」資金力がある会社でないと、消費者向けでの成功はなかなか難しいでしょう。
それに比べると、前述したように企業向けソフトの世界の競合は緩やかです。
一方、日本の企業のニーズと、外国の企業のニーズとの乖離が、消費者の世界の乖離と比較して緩やかかと言われると、ちょっと微妙ですが、分野を限れば世界共通なニーズもあるはず。そうした分野で、
「こんな使いにくいものよりずっとスバラシイものを作ってやる!」
という人が登場し、洗練されたインターフェースを提供できれば、日本にいながらにしてグローバルにスタートすることができます。
「消費者化された企業向けソフト」の世界では、売り込みの仕方も、従来の営業マンによる対面式のものから、オンラインでの活動を中心としたものに移り変わりつつあります。ブログで情報発信したり、オンラインセミナーを開催したり。どれも、世界中どこにいてもできることです。
とはいえ、やはりグローバル展開となると、英語は必須・・・。最後に残るのは国境の壁でも資金の壁でもなく、言語の壁だった、という感じでしょうか。
| 渡辺千賀(わたなべ・ちか) |
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| 東京大学工学部卒、米スタンフォード大MBA。三菱商事勤務などを経て、米シリコンバレーでコンサルティング会社Blueshift Global Partnersを経営。ITの戦略立案などに携わるほか、共同で設立したNPOのJapanese Technology Professionals Associationを通じて、シリコンバレーで活躍する日本人のネットワーク強化にも取り組む。ブログ「ON,OFF AND BEYOND」を執筆中 |
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