◆大学助教授・菊池さんと中学教諭・名越さんに聞く
「海の日」(7月20日)が、やって来ます。今年は「国連国際海洋年」でもありますが、いったい海って
何でしょう? 不思議な生物が生息していたり、原因不明の大事故が起きたり。宇宙ロケットが飛ぶ科学
の時代なのに、まだまだいろんなことが解明されないまま地球上の3分の2を占め、最深が1万メート
ル以上にも及ぶなぞの地域。そして、小・中学校や高校の教科書にはほとんど紹介されていないところ
――。私たちの好奇心をかきたてる「海」へ接近する方法を探ってみましょう。(高1・伊藤敬子、高2・西
山奈央子、大1・玉井夕海記者)
◆広めたい「地学」
1回目は、昨年の「海洋学会・教育シンポジウム」で、「海」を含む「地学(地球の科学)教育」をすぐにも
小・中・高校で広めなければダメ――と訴えた横浜国立大学教育人間科学部の菊池知彦助教授と東京
都町田市立武蔵岡中学校の名越利幸教諭に聞きました。
☆
――「海に関心があるのに、私の学校には地学の授業がない」「進学コースを取ると、地学が選択出来
ない」という声をよく聞きますが。
菊池 96年度の神奈川県高校教科研究会理科部会の調査では、神奈川県内で地学を教えている高
校は35%。学んでいる生徒はわずか14%(全国平均22%)。海の科目を学んだ高校生は1割未満だ
ったんです。
名越 小・中学校もそうですよ。ある時を境に教科書から「海」を教える内容が削除されてしまった。地理
の教科書に「黒潮」「親潮」が載っている程度。小学1、2年生は理科を合わせた「生活科」を勉強します
が、実験をあまりやらないから理科嫌いの子供を生んでいます。
「地学」とは「生物」「化学」「物理」以外の理科的領域。海洋、気象、天文、地震、地質、鉱物学など「地
球の科学」です。中学までの義務教育で「地学」を教えないと高校や大学へ進んでも、関心がないままに
なる。
菊池 日本は地震や津波、台風、土石流などの災害が多い。防災対策や環境問題が叫ばれています
が、こうした基礎知識がなければ、情報の理解や判断が出来ない。
――教科書に「海」のページを増やすだけで、若者の海に対する関心が高まるでしょうか。
菊池 いいえ。海に触れる体験が大切です。物理や化学は実験室でも学べますが、海の科学はフィー
ルド・サイエンスと言って、現場へ行って実物を見ないと分からないことが多い。
今の学生は海水浴以外にほとんど海へ行ったことがない。大学の2、3年になって海の生物を見て感
動する人が多いが、それでは遅いのです。
◆潮流など尽きぬ興味
――夏の海へ行く若者は多いと思いますが、レジャーから海へ関心を持ってはいけませんか。
菊池 いいですよ。青い海、サンゴ礁、最高ですね。しかしそれを出発点にして、海流もあり、危ないこと
もある海の本当の姿に関心を抱いてほしい。
名越 ぼくは海洋調査船「白鳳丸」に乗って、太平洋で台風に出合った。3千トンの船が木の葉のように
ゆれた。夜ライトをつけたら、船の周りにイカがたくさん集まってきた。2メートルもの大イカもいた。すると
サメが現れ、弱肉強食の戦いが始まった。
――個人的にどのように海の勉強をしたらいいですか。
菊池 海のことを知っている人と一緒に行って、イソの生物を観察したり海や船を見る。興味に導かれ
て歩き回り、疑問をためておき、専門家に聞く。水族館で調べる。
名越 神奈川県の観音崎自然博物館が小・中・高校生を対象に行っている観察プログラムへ参加した
ら。海洋プランクトンを観察したり、海藻や貝類はなぜ岩にくっついているかなどを調べたりします。
(このシリーズは、毎月1回連載します)
◆20日に標本展示や講演
「海の日」の20日正午から、東京大学海洋研究所(平啓介所長)は、「国際海洋年特別企画」として、東
京・中野区南台1の15の1の同研究所で、中学生以上を対象に海の観測装置や海洋標本、研究成果な
どを公開展示します。また午後1時から、2つの講演を行います。〈1〉「エルニーニョのなぞ」(木村龍治教
授)〈2〉「地球規模の環境汚染」(宮崎信之教授)。問い合わせは同研究所((電)03・5351・6346)
へ。
(高1・伊藤敬子、高2・西山奈央子、大1・玉井夕海記者)
[今週のひとこと]
海は広くて大きい。海の研究も奥深い。夏、若者は海のレジャーに関心を寄せるが、2人のお話はレジ
ャー以上に興味深い「海」があることを示している◇晴れた日の東京湾。青く澄んだ海面には、光線が金
色の雨となって降り注ぐ。しかし、おだやかな天気の海に突然あらしがやって来たという話がある。「海は
幻のような現象を引き起こす。深海には多くの未知の生物が潜んでいる。謎(なぞ)は残されたままだ」と
◇私たちは、大学受験のため、興味のある無しにかかわりなく、有利なコースを選びがちだ。だが、学校
は興味のある科目を学べる場であって欲しい◇学校が完全五日制になれば授業時間が減る。内容も圧
縮されるだろう。海洋・地学の内容はさらに薄くなるのだろうか。現在、中学地理の教科書にわずかに書
かれた内容だけでは満足できない。(高1 K・I)
(高1・伊藤敬子)