1998年10月19日(月) 読売新聞東京本社発行 夕刊13面


第49回日本学校農業クラブ全国大会

高校生が担う農業の未来


 全国の農業高校生が日ごろの研究とクラブ活動の成果を発表する「第49回日本学校農業クラブ全国大会」(日本学校農業クラブ連盟など主催)が、今月7,8八の2日間、旭川市など北海道の2市1町で開かれました。全国から約5000人が参加、プロジェクト発表、意見発表のほか、農業鑑定、平板測量、農業情報処理の3競技会の計5部門で行われました。今年は公開種目として、北海道ならではの乳牛審査競技会も開かれました。

 

 《プロジェクト発表》A部門(農業の経営、流通に関すること)

 旭川市民文化会館では、全国9ブロックから選ばれた27校が参加してプロジェクト発表会がありました。スライドや作品も持ち込んで研究の成果を発表。ブロック代表校だけに、農業経営や農業技術、環境問題にすぐれた発表が目につきました。

 ◆荒れた雑木林活用 農家の経営を改善

 最優秀賞・農林水産大臣賞「山間地農業に活路を求めて―雑木林をよみがえらせた我が家の経営改善」

 (栃木県真岡北陵高校生物生産科3年市川栄一君ほか11人)

 発表は市川君の家の農業経営について、チームでまとめたものです。市川君の家は茨城県境に近い益子町の山あいにあり、父・栄さんを中心に水稲と葉タバコ、山林、養豚を組み合わせた複合経営をしています。しかし、減反や葉タバコの買い入れ価格の低迷により収入は低下するばかりで、経営改善はなかなか進みませんでした。

 そういう中で市川君は一昨年冬、オーストラリアでの農業研修に参加、同国が進めている適地適作の農業政策に感激、「地域の自然を生かした農業改善こそが生き残る道」と思い、三か年のホームプロジェクトに取り組みました。

 一年目は経営上の問題点を調査し、荒れ地になっていた7ヘクタールの雑木林を活用してシイタケ栽培と炭焼きの導入を決めました。二年目からシイタケ栽培に取りかかりました。シイタケ栽培では経費の四割以上が原木代で占められますが、市川君の家の雑木林は、原木に最適のクヌギやコナラが多く、よい品質のシイタケができ、原木も販売できるようになりました。

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写真=家族と炭焼き中の市川君(左から2人目)

 炭焼きも、祖父の手ほどきで使っていなかった山窯を復元し、クヌギなどを材料に立派なものが出来上がりました。グルメブームもあって注文も多く、生産が間に合わないほどでした。

 伐採後の山林は「株立ち法」という切り株から発生した芽から3本だけ残して成長させる方法で再び林として復元させています。

 3年目は、炭焼きの過程で出る木酢液を葉タバコや水稲の苗作りに利用、病害虫の発生を抑え、豚舎のにおい消しにも効果をあげています。

 市川君は小学生のころから、農業を手伝ってきました。この雑木林をよみがえらせることを中心にした農業経営改善についても、家族と一緒に考え、実行に移しました。結局、市川君の家では資本投下も少なくて済み、粗収入で500万円以上アップさせることができたそうです。

 この家族ぐるみの取り組みは、山間地での農業改善を指導している国や県、農協などでも話題になり高く評価されました。

 市川君は「家族の協力と、生徒のチームワークでいい結果をもたらしました。将来は家を継いで新しい農業経営に取り組んでみたい」と話していました。次代をになう高校生の力で、日本の農業、農村が活性化していくように思いました。

 ◆アツモリソウ培養に成功 A部門(農業の経営、流通に関すること)

 

最優秀賞・農林水産大臣賞「遠野の地でよみがえれ!幻の山野草アツモリソウ」(生産技術科三年菊池陽一君ほか九人)

 今、日本の野生植物の2割が絶滅の危機に追い込まれているそうです。ラン科の多年草アツモリソウは昔、遠野の山にもたくさん咲いていましたが、盗掘などで減り、昨年、動物のトキとともに「種の保存法」に登録されるほど激減してしまいました。

 菊池君たちは「遠野の山にもう一度アツモリソウを咲かせてみよう」と3年がかりで難しいアツモリソウの培養に取り組み、昨年、ついに世界でも数例しかない培養に成功しました。

 初年度はアツモリソウの自生地の保護活動をしている地元の「アツモリソウを育てる会」の全面的な協力を受けながら、栽培地の調査をするとともに、なぜ増殖が難しいのか種子の構造を調べました。

 2年目は培養に取り組みました。自生地の土壌を基に作った培地など100以上の培地で試験した結果、3か月後にはたくさんの発芽が確認されました。

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写真=「アツモリソウを育てる会」の会員と、人工交配をする遠野緑峰高生

 一方、一部は培養、残りは自然の中で発芽させるという「緑峰方式」の自生地保護運動も展開しました。この取り組みは多くの人たちの共感を呼び、栽培相談や資料の提供も殺到しました。こうした活動を一月、千葉大学で開かれた日本生物教育学会で発表したところ、「高校生では日本初の快挙」と新聞などでも大きく取り上げられました。

 菊池君は「大量に増殖できる方法を早く確立して、全国の野山でアツモリソウを増やしていきたい」と話していました。

 ◆ラン植えてはげ山再生/福岡・鞍手農高C部門(地域の文化や生活に関すること)

 

 最優秀賞・文部大臣奨励賞「ふる里宮田町まちづくり―甦(よみがえ)れ六ヶ岳」(生産流通科3年折橋有希さんほか7人)

 かつて筑豊炭田として栄えた福岡県宮田町は、炭鉱の閉山で人口が流出、町のシンボルである六ヶ岳も、樹木が炭鉱の坑木用に伐採されてはげ山になっていました。このため、同校では六ヶ岳を緑で包み自然公園にしようと考え、17年前から登山道の整備などのボランティア活動を続けてきました。1994年度から、ランの一種エビネを増殖して、植え付けています。

 今回は、96年度から取り組んでいる、フウランを増殖し植え付ける活動を中心に紹介しました。フウランは、絶滅危惧(きぐ)種に指定されているラン科植物で、木や岩に着生し、7月ごろ、白いかれんな花を咲かせます。しかし、自生種が少なく増殖はなかなかうまくいきませんでした。

 研究を続けていくうちに洋ランの増殖法が効果が高いことがわかり、6か月で2000個が発芽、苗を作ることに成功しました。

 こうした取り組みも地域の人たちの理解と協力がなければうまくいきません。メンバーは、地域の婦人会や老人ホームなどで活動報告会を開き、「ふるさとの六ヶ岳を錦に染まる山にしていきたい」と訴え、共感を呼んだそうです。

 今回の受賞について、折橋さんは「町の人たちの応援があったから受賞できたと思います」と喜び、「これからはやはり希少植物のセッコク(ラン科植物)など地域の人たちが望んでいる植物の増殖、植え付けにも取り組んでいきたい」と地域を愛する高校生らしい抱負を語ってくれました。

 〈意見発表〉  

 意見発表会はやはり旭川市民文化会館で、プロジェクト部門と同じ分け方でABCの三部門に、計27人が発表しました。

 ◆収益性高い酪農めざす

 A部門で最優秀賞・文部大臣奨励賞を獲得したのは、「『ようへい』のおしえ」を発表した千葉県山武農業高農業科三年の八角洋平君です。

 八角君は、和牛の「ようへい」を11か月間飼育したのをきっかけに、家業の酪農経営に興味を持ちました。そして、父親の後を継ぎたいと決意しました。

 今後は実習で分けてもらった子牛を元に、受精卵移植による牛の改良を図るつもりです。「より収益性の高い乳牛複合経営を目指したい。また地元の和牛のブランド化も進めたい」と夢を語ってくれました。

 ◆日本一の米作るぞ

 B部門の最優秀賞は「農に生きる」を発表した新潟県興農館高営農科3年の山口恵君です。

 自分の作った米を求める声が全国で飛び交う日を夢見る山口君は、幼い時から農業に触れ、将来は父のように「農に生きる」ことを目指すようになりました。

 そのため、一日中農業の勉強が出来る全寮制の農業高校に入学しました。今、実習で水田40アールの管理と運営を任されています。

 夢は「新潟の大潟町で日本一うまい米を作る男」と呼ばれること。「ベテランの父をうならせる新しい感覚の農業経営を実現させたい」と抱負を語りました。

 ◆障害者のケア農業が手助け

 C部門の最優秀賞は「農業が役立つ福祉とは」を発表した青森県三本木農業高農業経済科二年の斗沢由香さんです。

 斗沢さんは、知的障害者が育てた植物を彼らと共に販売した経験から、植物は育てる人に喜びを与えること、農業は障害者のケアに役立つことを学びました。

 そこで将来福祉と結びついた農業をしたいと考え、町ぐるみで園芸療法に取り組む岩手県東和町を訪ねました。これこそが、今後、高齢化がより一層深刻になる日本になくてはならないと感じたそうです。

 「子どもから大人、老人や障害者までもが楽しめるファームガーデンを作りたい」と夢を述べました。

 ◆乳牛鑑定

 乳牛の品質を審査する競技会が名寄市の名寄農業高で行われました。公開種目でしたが、競技会は七年ぶりだそうです。

 各ブロックから選ばれた116人が参加して、成牛、子牛の鑑定を行いました。成牛は乳房、しり、肢(あし)の三つの部位と全体を見て4頭の中から、一番優れている牛を、また、子牛は5頭の中から将来よい乳牛になるものを判定します。参加した生徒たちは、並んでつながれている牛を熱心に観察したり、触ったりしながら解答用紙に記入していました。

 審査の結果、広島県立西条農業高畜産科3年の井上麻子さんが最優秀賞に輝きました。

 ◆リーダー会議

 農業高校生が抱えているテーマについて話し合う農業クラブ員代表者会議は旭川市の旭川勤労者福祉会館で約250人が参加して開かれました。

 3つの分科会で「農業クラブ活動を地域の人たちに知ってもらうにはどうすべきか」「農業の大切さを知り、魅力ある学校生活にするにはどうすべきか」「スペシャリストになるために農業クラブでできることは何か」をテーマに行われました。

 ブロック代表の計9校が、パソコンを駆使するなど工夫をこらして活動を発表、意見をかわしました。

 このほかの競技会での最優秀賞の受賞校・受賞者は次の通りです。(敬称略)

 【平板測量競技会】

 文部大臣奨励賞=新潟・加茂農林高(今井政昭、五百川和嗣、大関慎一、玉木祐輔)

 【農業鑑定競技会】

 農業科=藤岡司(北海道・旭川農業高)▽園芸科=井上拓三(愛媛・伊予農業高)▽畜産科=冨永明美(愛知・安城農林高)▽生活科学科=小坂祥子(秋田・金足農業高)▽食品科学科=平木ゆり(岐阜・岐阜農林高)▽農業土木科・文部大臣奨励賞=川野泰男(京都・農芸高)▽林業科=鳥江太介(熊本・芦北高)▽造園科=三ッ井大輔(京都・農芸高)▽農業機械科=柳田和寿(栃木・真岡北陵高)

 【農業情報処理競技会】

 農林水産大臣賞=谷岡唯(北海道・幌加内高)

 

【特別取材団】高1・山下裕子、伊藤敬子、高2・西山奈央子、柏崎冬鷹記者

(更新担当 柏崎冬鷹)


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