2003年10月6日(月) 読売新聞東京本社朝刊
[会いたい!]  テノール歌手・中鉢聡さん
現実厳しくても夢を

 ◆オペラ、生の感動知って

 昨年と今年の夏、東京・新国立劇場が開いた高校生のためのオペラ鑑賞教室『トスカ』公演で、トスカの恋人・画家カバラドッシ役を演じたテノール歌手、中鉢聡(ちゅうばちさとし)さん(37)は実力が認められ、今月14日、東京・上野の東京文化会館で開かれる藤原歌劇団の『ロメオとジュリエット』のロメオ役に抜てきされて、注目を集めています。オペラの主役といえば、これまで海外のコンクールでの上位入賞者か、欧米の有名歌劇場で活躍してからデビューするのが普通で、中鉢さんは珍しい例ということです。オペラに対する情熱などを聞きました。

中鉢聡氏

 ――どんな中学、高校時代を過ごしましたか。
 中学時代はブラスバンド部でトロンボーンを吹いていてプロ奏者になりたいと思っていましたが、高校で音楽大学を受験することにした時、先生に「声楽なら大丈夫かも」と言われ歌に転向しました。

 ――芸大卒業後、横浜の私立学校(中・高校)の教師になったそうですね。
 誰もが卒業後すぐにプロ歌手になれるわけではありません。バイトをしながら夢を追う人がほとんどです。僕もまずは生活に困らないようにと、両親と同じ教師になりました。でも、授業中しゃべりっぱなしで、のどに悪いので、2年でやめました。両立は難しかった。

 ――オペラ歌手を目指したのは?
 もともとオペラのソロ歌手はカッコいいとあこがれてましたが、現実は厳しい。まず仲間と8人のポップスのアカペラ・コーラスグループを結成し活動したけどあまり売れず、結局、一番やりたいのはオペラだ、と歌劇団の研修生になりました。貯金して30歳ごろに、イタリアのミラノに何回か勉強に行ったりしました。

 ――それで、昨年の『トスカ』で脚光を浴びた。
 ぼくは最初から華々しくデビューしたのではなく、脇役(わきやく)をずーっと演じてお客様の前で舞台経験を積んだ後、太い声の役も歌えるようになって抜てきされました30代前半まではまだ声ができていなくて、コンクールも受けませんでした。

 ――外国の作品を演じていて、どう感じますか。
 しぐさも発声も西洋人とは違う。でも、オペラは音楽だから言葉や民族を超える。ぼくは「泣ける」とか「幸せ」とか歌う時、旋律(せんりつ)や音色で伝わると思っています。

 ――『ロメオとジュリエット』はフランス語だそうですね。
 そう。一字一句を辞典でひいて覚えました。言葉のもつ情感をつかむためです。でも音楽が自然と感情を導いてくれるので困ることはありません。本当は、日本語が一番難しい。よく分かるからこそ感情が入りすぎるのです。
 そして、オペラは一人で出来るものではなく、共演者がいる。歌ばかりでもお芝居ばかりでもない。声ももちろん大切ですが、いろんな意味で、バランスを保つことがとても大切です。

 ――日本の音楽教育について、どう思いますか。
 音楽の成績を、よくペーパーテストで決めるけど、ぼくの授業ではそれはいっさい行わず、どのように音楽を楽しんでいるか、表現しているかで評価しました。逆に大変でしたが、理屈で音楽を理解しても仕方ないと思う。

 ――子どもにとってオペラはとても遠い存在ですが、オペラの魅力は何ですか。
 スピーカーやマイクを通さないで、生の声で感動できるのが、一番の魅力です。そして、舞台と観客との一体感を体験して欲しい。オペラには喜劇、悲劇などいろいろなものがあるから、ぜひ生の公演を一度見て欲しいですね。

取材風景


 《プロフィル》
 ◇ちゅうばち・さとし 37歳 1966年、秋田県生まれ。東京芸術大卒。藤原歌劇団正団員。95年に同歌劇団の『椿姫』、97年に新国立劇場の開場記念公演『建・TAKERU』でデビュー以来、さまざまな役で出演。来月25、26日にはゲルギエフ指揮の読売日響公演・ベルリオーズの『レクイエム』に出演、来年1月にはオペラ『椿姫』で主役アルフレード役を演じる予定。
 

 《私たちが取材しました》
 ◆音楽への愛感じた


 中鉢さんは、音楽を心から愛していて、取材の時も目がキラキラしていました。練習で聴いた歌も感動的で、遠い存在だったオペラが近くなった気がします。(小6・浦田雅子記者)

 最初気難しそうな人かなと思いましたが、中鉢さんはとても面白く、フレンドリーに話してくれました。普通と違う何かを持った歌手だと感じました。(中2・大寺健登記者)

 オペラ歌手の声は私にはなぜか“堅い”という印象でした。しかし中鉢さんは違った。苦労や努力を重ねてきた人には輝きがあると、改めて気づかされました。(高1・佐々木路菜記者)

 美しい歌声だけでなく、中鉢さん自身からオーラが放たれていて、女性ファンが多いわけが分かりました。やはり秘められた才能が努力で花開いたのだと思いました。(高2・齋藤玲花記者)

 大勢の人が一つの舞台を作り上げるエネルギーを、全身で感じて感動できるオペラが、もっと好きになりました。中鉢さんのお話には温かさを感じました。(高2・小迫由衣記者)

作成日: 2003年10月09日

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