2004年2月16日(月) 読売新聞東京本社朝刊
(上) 「海、川、山が一体」
 ◆原生の自然の美しさ

知床半島

 オオワシが舞う空、深い雪に覆(おお)われた山、流氷が訪れる海――。北海道・知床(しれとこ)が世界自然遺産(いさん)に推薦(すいせん)された先月30日、私たちはまさにその場所で、手つかずの大自然の素晴らしさ、厳しさ、そして大切さを実感していました。読売新聞北海道支社が斜里町ウトロに開設した知床流氷臨時支局に滞在しながら、自然遺産推薦の意義や課題などを探ったリポートを、3回にわたってお届けします。(知床ジュニア特派員団 小6・正能茉優、中1・都筑一女、中2・伊藤彩、金瀬篤彦、高1・本庄優理香、松本真実記者)

森を案内してくれた赤沢さん(右)。手にしているのはシカのフン

 スノーシューというかんじきのような道具で、支局が置かれた「しれとこ自然村」の雪深い森を歩きました。「ほら、あそこ」。案内してくれた自然村の赤沢歩さんが早速指さします。なんと、目の前の斜面を駆(か)け上がるエゾシカの群れが! 周辺の木の枝にはシカに食べられた跡があり、雪の上には親指大の丸いフンが散らばっています。

 アカエゾマツやトドマツの森を行くと、木のうろ(空洞になっている所)で死んでいる小鳥を見つけました。ヒガラです。2週間前の“爆弾低気圧”の影響で大雪となり、エサが取れなくなって餓死(がし)したのではないか、と赤沢さんは推測します。「こうした死がいも、フンや落ち葉と同じで土に帰って森の栄養になるんだよ」。自然の厳(きび)しさとともに、すべてが重要な役割を持つ生物のサイクルを知りました。

 空を見上げれば、悠々(ゆうゆう)と飛ぶオオワシが。ワタリガラスも「カポン、コローン」と鳴きながら飛んでいきました。知床半島では、こうした渡り鳥を含め260種以上の鳥を見ることができます。国内で確認されている半分近くの種類がここで見られるというのだから驚きです。

エゾモモンガが飛んだ!

 夕暮れには、エゾモモンガが見られました。森の中で寒さに耐えながら待つこと30分。木の幹にある巣穴から丸い顔を出し、つぶらなひとみで見つめます。体長10センチくらい。辺りの様子をうかがってから、羽のような膜を広げて空中を滑るように飛びました。私たちの頭の上にある木の枝に止まり、冬芽を忙しそうにかじります。かわいいしぐさに見とれてしまいました。
           
 特派員団は1月28日から2月1日まで、現地に滞在しました。

 斜里町立知床博物館館長の中川元さんに、知床が自然遺産に推薦された理由を聞きました。「海、川、山が一体となった原生の自然があるからです」。推薦された地域は、斜里町と羅臼(らうす)町にまたがる半島部分と周辺の海の計56100ヘクタール。すでに自然遺産に登録されている白神山地(青森・秋田)や屋久島(鹿児島)の3―5倍の広さです。海底火山の活動で海の中から山脈が隆起(りゅうき)してできた知床半島は、山の中腹から上だけが顔を出したような地形で、海岸は険(けわ)しい断がいが続きます。

 このため、開発が入ったのはほんの一部だけ。今も道路は半島の半ばぐらいまでしか通っておらず、知床岬(みさき)の周辺は無人地帯です。「知床」はアイヌ語で「シリエトク(地の果て)」。その名の通り、人を寄せ付けない地形が、豊かな自然を残しました。

 エサが豊富なオホーツク海にはシャチやクジラが顔を見せ、海岸は海鳥の楽園です。緯度と気候の影響で、羅臼岳など1500,1600メートル級の山々にはカラフトルリシジミなどのチョウ、知床だけに咲くシレトコスミレなど、高山帯の動植物が息づいています。海のエサで大きくなったサケやマスは川を上り、それを食べるシマフクロウやオオワシ、オジロワシなど、世界的に貴重な生物を支えています。ヒグマも百数十頭生息。まさに、海から山へとつながる多様な生態系を形作っているのです。          
 

待ちに待った流氷がやって来た!(2月1日)

 そして、忘れてはならないのが流氷。知床は流氷が到着する場所としては世界の最南端です。ロシアと中国の間を流れるアムール川の真水が、湖のように閉じたオホーツク海に広がり、シベリアの冷たい風に冷やされて凍ります。海流と季節風に運ばれながら成長した流氷は、毎年1月中旬に知床にやってきます。

 流氷がもたらす栄養分が魚のエサとなるプランクトンを育て、魚を食べるトドやアザラシ、オオワシ、オジロワシなどの様々な生物もやってきます。網走市のオホーツク流氷館営業部長の三島幸子さんによれば、流氷が接岸しなかった1989年は周辺の漁獲量が激減し、改めて流氷の大切さが認識されたそうです。それ以来、地元では流氷祈願(きがん)祭が行われるようになりました。しかし最近は流氷接岸が遅れたり、量が少なくなったりしており、三島さんは「地球全体に何かが起きていることを告げる流氷からの“警告”です」と力をこめます。

 実際、今年の接岸も遅れました。待ちに待った流氷が姿を見せたのは、私たちが知床を去る日。帰り道に立ち寄った海岸から見ると、流氷の第一陣は、青く広がる海に真っ白い横線を引いたようです。青と白のコントラストの美しさ。私たちは言葉を忘れました。このような美しい光景を作り出す自然のすごさを改めて感じていました。 

作成日: 2004年02月24日

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