2004年4月1日(木) 読売新聞
[会いたい] アンパンマン作者・やなせたかしさん 「善・悪」共存の世界表現
◆人を助けるには自分も傷つく バイキンは全部やっつけない
「正義のヒーロー」といえば、ふつう超人的なパワーや武器を使って縦横無尽(じゅうおうむじん)に悪をこらしめる、かっこいいスーパースターを思い描くでしょう。でも、まんが家やなせたかしさん(85)の描くヒーロー「アンパンマン」は、あんぱんでできた顔を食べさせる、ちょっとユーモラスなキャラクターで、30年愛されてきました。悪者のバイキンマンをこらしめても徹底的に滅ぼしたりはしません。それはなぜなのか。やなせさんに、その意図を聞いてみました。
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東京・新宿区の「やなせスタジオ」で
――なぜ「あんぱん」をヒーローに選んだのですか。
まず正義を行うのに一番大切なのは、悪人をやっつけるだけじゃなく、ひもじい人、飢えた人を助けること。アンパンマンは自分の顔であるあんぱんをおなかの空いた人に分け与えて助けます。そこには、正義を行い、人を助けるには自分が傷つくことを覚悟しなければならない、ということを暗示しています。
あんぱんはまた、甘いお菓子として疲労をいやせるファストフードでもあります。さらに、私たち日本人のヒーローにふさわしく、外側のパンは外国生まれですが、内側はあんという日本製です。いわば「和魂洋才(わこんようさい)」で、洋服を着た日本人を象徴しているんです。
――まず、戦争反対をメッセージにアンパンマンは始まりましたが、今は何を伝えたいですか。
アンパンマンの敵は、バイキンマンですね。食品とバイキンは絶えず戦っている。人間も、かぜや腹痛の時にはバイキンをやっつけなくてはいけない。でもバイキンを全部やっつけてしまうと人間も死んじゃう。だから健康とは、善玉菌(ぜんだまきん)と悪玉菌のバランスがとれている状態。やっつけられてもまたバイキンマンは次回元気に出てくる。アンパンマンの物語は、活力のある共存の世界を表現しているんです。
――まんがに興味を持ち始めたのはいつごろですか。
小学校に入る前からです。当時、父親が子どもたちに一番人気のあった雑誌「少年倶楽部(くらぶ)」の編集者でしたので、掲載されていた小説の、今で言う“劇画風”のさし絵をまねているうちに、描くようになりました。
――まんが家になるまでどんな仕事をされましたか。
最初、製薬会社にいました。戦争中は、中国で兵役につき、戦後、高知の新聞社、そして東京のデパートの宣伝部に勤めました。勤めながらまんが描いていて、その収入が給料の3倍くらいになったので34歳の時、思い切ってフリーになりました。
――まんが以外にも、ミュージカルの演出や作曲、歌手など幅広く活動されていますが?
私はすべて趣味と同じだと思っています。ゴルフや釣(つ)りに行くのと同じでね。やったことのないことに挑戦(ちょうせん)したり、不得意なことを勉強したりするのがおもしろい。今、85歳ですが、元気でいられるのもさまざまな活動がエネルギーとなるからでしょう。
――私たちにメッセージをお願いします。
地球環境や、世界の情勢が悪化して大変な時代に生きていくため、まず心身を健康に保ってほしい。精神を鍛(きた)えるにはまず良い本を、古典と言われているような名作を読んで、良いこと、悪いことを見分けられるようになってください。
◇私たちが取材しました
◆生きる意味を再認識
何気なく読んでいた「アンパンマン」にたくさんの意味が含まれていると知って、子ども以外の読者にも読んでほしいと思いました。物語に出てくる友情や勇気、アンパンマンの優しさ、素直さを見習いたいです。(中1・正能茉優記者)
やなせさんから、ひもじい人や助けを求めている人を助けるのが、本当の正義のヒーローがすることだと教わりました。僕も強い精神とだれにも優しい心を持ちたいです。(中3・近江賢人記者)
アンパンマンに登場するキャラクターの性格づけやストーリー展開が、非常に精巧(せいこう)なことに驚きました。やなせさん自身がモデルの「やなせうさぎ」がまったく戦闘(せんとう)能力のないウサギなのにも人柄(ひとがら)を感じました。(高2・醍醐航記者)
「人を助ける場合は自分が傷つくことを覚悟しなくてはならない。けれど、あんぱんを一部与えて体力が弱っても、毎日新しい焼きたてに変え、元気になる」という物語の裏の哲学を学び、正義や生きる意味を再認識しました。(高3・延山実千鼓記者)
〈プロフィル〉
本名は柳瀬嵩。1919年、高知県生まれ。東京高等工芸学校(現・千葉大工学部)卒。会社勤務後、54年に独立。まんが、テレビやラジオの番組構成・脚本、舞台美術などを手がける。88年、アニメの放送が始まった「アンパンマン」が大ヒット。作成日: 2004年04月04日
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