2005年11月17日(木) 読売新聞
第56回日本学校農業クラブ全国大会 「農」の未来へ若き情熱 全国の農業高校生が、日ごろの学習や研究の成果を発表する「第56回日本学校農業クラブ全国大会」(日本学校農業クラブ連盟など主催、読売新聞社など後援)が先月26、27日、岐阜市など岐阜県内の6市1町で開かれました。約350校から3200人が集まり、プロジェクト発表、意見発表、それに今回初のフラワーアレンジメントなど、計7部門で競い合いました。環境を守りながら安全な果物を栽培したり、特産物を利用してお菓子を作ったり、と地域に密着した高校生の活動を取材しました。
●プロジェクト発表
プロジェクト発表会は大垣市スイトピアセンターで行われ、食料、環境、文化・生活の3区分に、各ブロックから選ばれた計27校が発表しました。最優秀賞は次の3校です。
〈食料〉農林水産大臣賞 「メロンづくり150万円への挑戦」(北海道岩見沢農業高)
◆農薬減らし、高い収益
学校のある空知地方は「夕張メロン」で知られるメロンの一大産地です。生産農家は、10アール当たり150万円の粗収益を目標にしています。そこで農業科学科3年米内彰吾君ら4人は、減農薬栽培によって、安全で、ハウス内の土壌も悪化させないメロン作りに挑戦して、粗収益が約165万円と、目標を大幅に上回る成果を上げました。
出荷用メロンを手にする岩見沢農業高の生徒(昨年9月)
まず、農薬の使用量を減らすため、有機質肥料や、病原菌の発生を抑える拮抗(きっこう)微生物を土壌に混ぜるなどした結果、昨年度はうどんこ病などの発生を前年度の3分の1程度に減らすことに成功しました。
また、必要最低限の肥料をタイミング良く追加していく「リアルタイム診断法」を取り入れることで、肥料の与え過ぎによる土壌環境の悪化を防ぐことができました。
栽培中に最も苦労したのは、「夏の暑い中、不要な孫づるを取るなど、枝を整える作業」と米内君。昨年度は、子づるを摘心せず、ハウスの内側にネットを張って、つるがはい上がれるようにしたところ、糖度が16・8%と、前年度よりも2%高い、甘いメロンが実りました。
150平方メートルのハウスで地道に取り組んだ研究は、「メロンとしての完成度が高く、地域の振興に貢献した。調査データもしっかりまとまっている」と、審査で高く評価されました。
〈環境〉文部科学大臣賞 「地球環境に配慮した『微生物ミネラル資材』の開発とその普及に関する研究」(熊本県立鹿本農業高)
◆土着菌で栄養豊か
発表したバイオ工学科3年竹熊隆蔵君はじめ10人は、農薬や化学肥料の代わりに、地域固有の天然微生物の土着菌と、米ぬかなどを混ぜ、半発酵させた手作りの有機質肥料「土着菌ボカシ」を使ってホウレンソウを栽培。成分分析の結果、マグネシウムが約2倍、カロチンが約1・4倍などと、通常よりもビタミンやミネラルが豊富な野菜作りに成功しました。
また、水生生物のカブトエビ、ホウネンエビの分布を調べたところ、農薬使用水田では全く見られなかったのに対し、無農薬で10年たった水田では大量に発生。土着菌ボカシを1年使った校内の水田でも生息が確認されました。
研究は、地域に密着した、高度で厚みのある内容と、高く評価されました。「土着菌ボカシを使い無農薬栽培を行うことで、安全でミネラル分豊富な食料を作り、環境を守ることもできる。地域の生態系を守る活動を続けていきたい」と、竹熊君は話しています。
〈文化・生活〉文部科学大臣賞 「“あんこよ”今ここに甦(よみがえ)れ!!」(北海道帯広農業高)
◆子ども向け 7色あん
食品科学科3年国枝佑衣さんら5人は発表の時、「これが私たちの開発したあんです」と披露しました。それは赤、黄、緑などきれいな7色のあん。緑黄色野菜が入っているので、お菓子の材料として野菜嫌いの子どもにもぴったりです。
自分たちで育てた小豆を収穫する帯広農業高の生徒
学校がある十勝地方は、あんの原料の小豆(あずき)や、白いインゲン豆「手亡(てぼう)」の大産地。そこで、昨年から、子ども好みのあんを作り、地域の食文化を伝える活動に取り組みました。まず、地元の幼稚園児に豆とあんを知ってもらう紙芝居を演じた後、一緒に豆の種をまいたり刈り取ったりしました。
収穫した小豆で黒あんを、手亡で白あんの2色を作りました。さらに白あんにピーマン、ニンジン、カボチャ、トマト、ホウレンソウをこしたものを加えて、計7色のあんが完成。あんを入れた薄皮まんじゅうのほか、あんをギョーザの皮で包んで油で揚げたり、ホットケーキのもとに混ぜてタコ焼き器で焼いたり、作ったお菓子はユニークなものばかりです。
審査員からは、「研究内容とともに、発表の方法も優れていた」と高く評価されました。
国枝さんは「野菜が多いと特有のくさみが出て、子どもたちに食べてもらえないので、20回以上試作を繰り返した。子どもたちにおいしいと言われた時はうれしかった」と喜びをかみしめていました。
〈フラワーアレンジメント〉
◆「わが故郷」表現
今回初めて行われたフラワーアレンジメント競技会の会場の県立恵那農業高には都道府県の代表87人が集まりました。
安井さんと受賞作品「恋する真珠」
競技内容は学科試験、ベーシックスタイルとフリースタイルの作品制作。興味深かったのは、「わが故郷」をテーマに、好きな花や器を使って、50分間で制作するフリースタイル。くいだおれ人形に花を飾る(大阪)、特産のリンドウを使う(岩手)、花の後ろに和服を飾る(京都)など地域色豊かな作品ばかりでした。
最優秀賞・文部科学大臣賞などに輝いたのは、三重県立久居農林高生物生産科2年の安井智里(ちさと)さん。ピンク色のミニバラの花びらに、県特産の真珠をあしらった作品「恋する真珠」は、清らかな女性らしい雰囲気。「形を左右対称にまとめるのに苦労しました。来年も頑張ります」と笑顔で語っていました。
●意見発表
意見発表会は美濃加茂市文化会館で、食料、環境、文化・生活の3区分に27人が発表、次の3人が最優秀賞を受賞しました。
◆笑顔生んだ里いもアイス
〈食料〉農林水産大臣賞 「挑戦から始まった私の夢」(岐阜県立岐阜農林高流通科学科2年吉川真理さん)
吉川さんは昨年、岐阜県の「健康によい食品作りコンクール」で、2位の「県農林水産局長賞」を受賞したアイスクリーム「里いもジェラート」について語りました。
吉川さん
お菓子作りが得意な吉川さんは、祖父が栽培している里いもに、食物繊維や、免疫力を高める働きなどがあることに着目。里いもをこして滑らかにした後、ヨーグルトで味付けし、さらに、県特産の枝豆をこして、生クリームと混ぜた「枝豆ソース」をかけ、「里いもジェラート」を完成させました。試作品を持ち込んだ郷土料理店でも好評で、メニューに加えてもらいました。
「お菓子は人を笑顔にしてくれる。家族や友だち以外の人にも食べてもらえてうれしい」と吉川さん。大学に進学し、健康的でおいしい食品の開発と販売を目ざしたいと、夢を膨らませています。
◆ため池は地域の宝
〈環境〉文部科学大臣賞 「池を守るモノ」(兵庫県立農業高生物工学科3年増田理央(りお)さん)
「地域の宝、ため池を微生物とともに守る者になります」と、力強く発表を締めくくった増田さん。その原点には、小学生のころ、ゴミやヘドロで汚れた池を見て、悲しい気持ちになった体験があります。
増田さん
増田さんは、学校近くの池で水質調査に取り組んだ結果、化学農薬が汚染源のひとつであることを知り、池の生物にも農家にも害の少ない、微生物を利用した生物農薬「BT剤」に関心を持ち始めました。
農家を訪ね歩くと、BT剤を知らない人ばかりで、30軒も回ってやっと、化学農薬と併用しているイチゴ農家に出会います。ここの用水路の水質を調べると、化学農薬の成分はほとんど検出されず、イチゴも害虫や病気の被害が少ないことが分かりました。「併用することで、互いの欠点を補えるのではないか。微生物の能力を多くの人に証明し、環境問題解決の一歩を踏み出す手助けをしたい」と張り切っています。
◆菊人形の技伝えたい
〈文化・生活〉文部科学大臣賞「伝統技術の継承と私の目標」(大阪府立園芸高フラワーファクトリ科3年西依束(つかね)君)
西依君は昨年から、色とりどりの菊で美しい衣装を着せる「菊人形」に興味を持ちました。
西依君
そこで、仲間と、創立記念祭での菊花展を目ざして菊人形作りに挑戦。習得するには最低20年はかかると言われる伝統技術を短期間で身につけるため、菊師さんを訪ねて教わりますが、茎が折れたりして苦労します。菊付け作業中、肺炎を起こしましたが、点滴を受けながら続け、2体の菊人形を飾り終えました。
「自らの手で菊が着物に姿を変えていくところや、展示したまま菊を生かしておく技術の素晴らしさにひかれています」と西依君。菊師は、高齢化と後継者不足が深刻だと言われていますが、将来は、菊の伝統技術を教えられる農業の教師になり、菊人形の文化を伝えたいと語っていました。
ほかの競技会の最優秀賞受賞者(敬称略)
【平板測量】文部科学大臣賞・国土交通省国土地理院長賞=愛知・稲沢高(則竹一輝、蔭山慎介、荒木哲也、遠藤佑樹)
【農業鑑定】農業=下境由香(愛知・猿投農林高)▽園芸=文部科学大臣賞・加藤慶太(岩手・盛岡農業高)▽畜産=中村光里(宮崎・高鍋農業高)▽生活科学=田島さおり(広島・西条農業高)▽食品科学=原田有紀子(愛知・安城農林高)▽農業土木=浮階沙織(千葉・茂原農業高)▽林業=長谷川香織(鹿児島・伊佐農林高)▽造園=石橋宏一(千葉・流山高)▽農業機械=小田切秀彰(長野・上伊那農業高)
【農業情報処理】農林水産大臣賞=沢口友愛(青森・三本木農業高)
【家畜審査(肉牛の部)】農林水産大臣賞、岐阜県知事賞、全国和牛登録協会長賞=村松俊幸(神奈川・平塚農業高初声分校)
■取材を終えて■
プロジェクト発表会は、元気なあいさつで始まり、10分の持ち時間を存分に生かした発表ばかりで驚きました。今までの研究成果を、余すところなく出し切ろうとする勢いに圧倒されました。(高1・原田友莉子記者)
フラワーアレンジメント競技会で、バラバラだった花や器などが、みずみずしく美しい一つの作品に仕上がっていく様子を見て、高校生の豊かな感性や情熱を実感しました。自分を表現する一つの方法としても、素晴らしいと思いました。(高1・浮津亜由美記者)
農業高校生たちが、アイデアを発表し、意欲的に専門分野の知識を共有し、お互いに高め合う様子に感銘を受けました。同世代の若者が、日本の農業の未来を真剣に考えている姿に、頼もしさを感じました。(高2・関根万里子記者)作成日: 2005年11月22日
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