2007年11月14日(水) 読売新聞朝刊特集
第58回日本学校農業クラブ全国大会
「農」が照らす未来
 全国の農業系高校で学ぶ生徒が、日ごろの学習や研究の成果を発表する「第58回日本学校農業クラブ全国大会」(日本学校農業クラブ連盟など主催、読売新聞社など後援)が、先月24、25日、広島市など広島県内の6市町で開かれました。341校から2000人余りが参加し、プロジェクト発表、意見発表など計6部門で競い合い、交流を深めました。地元の農産物を使った特産品作りに挑戦したり、都市の温暖化防止策を考えたりと、未来を見つめ、地域に貢献している高校生を取材しました。(ヨミウリ・ジュニア・プレス取材班)
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県産の小麦粉と山葡萄でフランスパンを作った岩手県立盛岡農業高のメンバー

 ■プロジェクト発表 
 プロジェクト発表会は、福山市のふくやま芸術文化ホールで行われ、食料、環境、文化・生活の3区分で計27校が発表しました。岩手県立盛岡農業高が食料、文化・生活の2区分で、京都府立桂高が環境区分で最優秀賞に輝きました。
 
 <食料>農林水産大臣賞「山(やま)葡萄(ぶどう)にかける!〜地域と共に開発する特産品を目指して」(岩手県立盛岡農業高)

 ◆県産小麦と山葡萄フランスパン開発 
 パン作りの中でも難しいとされるフランスパン。しかも、外国産に比べて膨らみにくい岩手県産の小麦粉と、地元の山葡萄を酵母に使って成功させたのが、食品科学科3年中村睦子さんら9人です。

 山葡萄は、ジュースやワインに加工されています。その消費拡大をねらう県内の生産者から「山葡萄でパンを作れないか」と依頼を受けて、昨年度からフランスパンに取り組みました。まず、外国産の小麦粉だけで作り、少しずつ県産小麦「ゆきちから」の配合を多くしていきました。最初のころは、細いゴボウのようなパンでした。低タンパクのゆきちからに有効な発酵種を使ったり、発酵温度や時間を変えたりして46回も試行錯誤を繰り返しました。形が美しく、断面に大小の穴が開いて風味も良いフランスパンにたどり着くまでに、7か月かかりました。

 次に、山葡萄から酵母をおこして、フランスパンを作りました。その過程で、山葡萄は生や乾燥、冷凍のいずれも発酵力が安定して、パン作りに適していることがわかりました。粉の温度と水の温度の最も適した関係を調べて方程式を編み出すなどして、パン屋さんに技術支援も行いました。

 審査員からは「酵母の活性の変化などを科学的に分析し、商品開発に生かしている。全国高校生パンコンテストで優勝し、専門的な技術力も高い」と評価されました。「地域の方に『このパンをもっと普及していきましょう』と言われた時が、一番うれしかった」と中村さん。メンバーが開発した製法を基にパン工房が作った山葡萄天然酵母パンは、今月から県内で販売され人気を呼んでいます。
 
 <文化・生活>文部科学大臣賞「世界のかけ橋を昆虫で〜昆虫を活用した新しいボランティア活動」(岩手県立盛岡農業高)

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オオチャイロハナムグリを観察する岩手県立盛岡農業高のメンバー

 ◆夢ある取り組み昆虫と人の共存
 「独創的で夢のある取り組み」と審査員に高く評価されたのは、生物工学科3年沢口頼太(らいた)君ら9人の発表です。

 メンバーは、カブトムシやクワガタに近い生態で、ブナ林に生息しているオオチャイロハナムグリの人工繁殖に挑戦しました。防腐剤などの添加物を一切使わないエサを作って与えましたが、最初はなかなか近寄ってきません。桃を搾ったジュースに黒糖やヨーグルトなどを加えた、栄養価の高いゼリーが、ようやく2年目に完成。このゼリーを与えたオオチャイロハナムグリの寿命は平均90日で、市販のエサを与えたものに比べて30日も延びました。2組の雌雄からは、48匹の成虫を繁殖させることもできました。

 また、オオチャイロハナムグリのオスが発するフェロモンには、飼育マットにカビが生えにくいなどの抗菌作用があり、桃の香りもします。そこで、夏の間、成虫をトイレで飼育したところ、「リラックスできる」と、生徒に好評でした。

 また、ケニアにある子どもの施設などにお金を寄付する「カブトムシ募金」というボランティア活動も行っていて、学校の堆肥(たいひ)を使って育てたカブトムシを地域の夏祭りなどに並べ、募金に協力してくれた人へプレゼントしています。

 沢口君は「これからも昆虫と人間の共存を目指して研究を続けたい」と話していました。
 
 <環境>文部科学大臣賞「地球(ほし)に生きる!〜暑くなる環境に挑む」(京都府立桂高)

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校舎の屋上でノシバを張る京都府立桂高・草花クラブのメンバー

 ◆温暖化防止に挑戦屋上緑化システム 
 園芸ビジネス科3年西野冴(さえ)さんら草花クラブの8人は、都市の温暖化を防ごうと、土を使わずに日本在来の芝を短期間で育てて維持、管理できる、軽量の屋上緑化システムを開発しました。

 高温や乾燥などに強いノシバに着目。硬い種皮を乳鉢(にゅうばち)ですって傷をつけ、葦(あし)と竹を繊維状にした育苗マットの上にまきます。20度以上の安定した温度を保ち、水蒸気で満たされた育苗容器で栽培したところ、1週間から10日後に発芽し、最短60日で芝マットが完成しました。土で育てる一般的な方法では約2年かかるので、大幅な短縮に成功したことになります。

 次に、この芝マットを張る土台のシステム開発に取り組みました。ポイントは、余分な水分を含んで重くならないようにすること。発泡スチロールの板に筒状の穴を所々に設け、先の育苗マットの素材を詰め込みます。水はこの穴を通じて芝に供給されます。芝マットとシステムの重さは1平方メートル当たり50キロ・グラムで、土を使った既製の屋上緑化システムの半分程度に抑えることができました。

 メンバーは、縦56センチ、横28センチの芝マット約300枚を作り、今年の夏、汗だくになりながら校舎の屋上に張りました。温度の変化を調べたところ、コンクリート面が70度の時に、緑化面は30度前後。緑化面の真下の教室の室温は、コンクリート面の下の教室よりも5度前後低くなりました。

 「温暖化防止に役立つ屋上緑化を多くの人に知ってもらい、広めていきたい」と西野さん。この実践は「企業並みのレベル」と審査員に高く評価されました。
 
 ■意見発表 
 意見発表会は、福山市の広島県民文化センターふくやまで開かれ、食料、環境、文化・生活の3区分で27人が発表、次の3人が最優秀賞に選ばれました。
 
 <食料>農林水産大臣賞「酪農にかける私の夢」(愛媛県立野村高・畜産科3年下岡優君)

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下岡優君

 ◆畜産「僕もできる」 
 下岡君の家は酪農家で、29頭の搾乳牛と育成牛を飼っています。高校1年の時、乳牛の祭典「全日本ホルスタイン共進会」に、学校で飼育している牛と参加し、上位入賞を果たしました。

 その後、家畜人工授精師の資格を取得し、父から牛の種付けを任されるように。しかし、受胎率が全国平均よりも低いことがわかり、繁殖に関係の深いビタミンの与え方について改善を進めました。固形から液体のものに変えるなどした結果、2か月で5頭の牛を受胎させることに成功。「私にもできる」と、自信を持つことができました。

 生まれた子牛を来春の乳牛共進会に出品することを当面の目標に、「勉強を続け、納得のいく牛作りをしていきたい」と意欲を見せていました。
 
 <環境>文部科学大臣賞「地域環境を守るために、私ができること」(熊本県立芦北高・林業科3年土手本美香さん)

 ◆環境問題に全力

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土手本美香さん

 エネルギーの無駄遣いやゴミの散乱といった環境の悪化を見るにつけ、「自分にできることはないか」と考え、行動力を身につけたいと思った土手本さん。様々な挑戦を重ねて現在は、学校近くの八代海で地域や漁協の人たちと一緒に、海草の一種「アマモ」の分布・生育調査や植栽作業に携わっています。

 冬の夜の作業で、手がかじかんでしまうなどつらい時もあります。でも、アマモ場は少しずつ増えて、タコやイカなどを発見。タツノオトシゴを見つけた時は「活動を続けてきて良かった」と思いました。

 将来は、「林野庁の職員になり、環境問題の解決に向けて精いっぱい努力したい」と頼もしく語りました。
 
 <文化・生活>文部科学大臣賞「祖母の心に応えたい」(奈良県立五條高賀名生分校・農業科3年西岡未央さん)

 ◆農で知った人情 

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西岡未央さん

 西岡さんは「農業で得られる感動を介護の現場に生かし、ささやかな幸せに満ちた日常を提供したい」と、介護士を志しています。

 4歳の時、家庭の事情で親と離れ、祖母と暮らし始めました。祖母に反抗し、小学校卒業を目前に児童養護施設へ。ここで、自分を見つめ、祖母の心を傷つけたことを悔やみ、「祖母のように優しい心の持ち主になり、人を支える仕事がしたい」と強く思うようになりました。キャベツ栽培などの農作業を通して、収穫の感動と人の温かさを知り、農業高校に進学。施設で生活しながら、農業実習や障害児福祉施設での介護の手伝いに励んでいます。

 受賞を「祖母へ真っ先に伝えたい」と喜ぶ西岡さん。まぶしい笑顔でした。
 
 〈フラワーアレンジメント〉
 ◆前田さん小西さん「おもてなし」輝く

 2年ぶり2回目のフラワーアレンジメント競技会は、花の観光農園で知られる世羅町の県立世羅高校で開かれました。2人1組の都道府県代表46チームが、学校や地域で栽培されている花などを使い、自由なテーマ、制限時間1時間で制作。花器とアレンジのバランスや配色、チームワークなどが審査されました。

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 最優秀賞・文部科学大臣賞に選ばれたのは、兵庫県立有馬高・人と自然科3年前田有梨さん、同2年小西加奈さんのペア。ニュウサイランの葉と華やかなグロリオーサをメーンに、学校で育てているカーネーションも飾りました=写真=。「ホテルの入り口に飾る想定で、おもてなしの気持ちを表現しました」と話していました。
     
 ほかの競技会の最優秀賞受賞者は次の通り(敬称略)
 【平板測量】文部科学大臣賞・国土交通省国土地理院長賞=群馬・勢多農林高(今井慶介、川畑達也、吉沢彩香、立木亜実)【農業鑑定】農業=渡辺智之(新潟・加茂農林高)▽園芸=稲垣春花(愛知・安城農林高)▽畜産=文部科学大臣賞・杉本卓也(同)▽生活科学=秋山恵実(千葉・流山高)▽食品科学=市野恵(愛知・半田農業高)▽農業土木=小林広人(三重・相可高)▽林業=椙本杏子(長野・木曽青峰高)▽造園=小林司(長野・須坂園芸高)▽農業機械=小笠原大知(青森・三本木農業高)【農業情報処理】農林水産大臣賞=白坂睦美(鹿児島・市来農芸高)
 
 ■取材を終えて
 生徒たちの堂々とした発表や大人顔負けの知識、あきらめない情熱に圧倒されるばかりでした。「無気力な若者」と大人からひとくくりにされてしまいがちな私たちですが、そんなことはない! 私も日本を担う若者として励んでいきたいと思いました。(高1・紺野雅子記者)

 フラワーアレンジメント競技会では、参加者のイメージする世界が形になっていく過程を間近で楽しむことができました。完成作品からは、それぞれの個性が感じられました。大好きなことに熱中し、輝いている高校生から、エネルギーを分けてもらいました。(高2・井田香菜子記者)

 取材前は、日本の食料自給率の低迷や、環境の悪化の報道ばかりに注目していました。しかし、自分と同じ高校生が、農業から環境におよぶ幅広い分野で、しっかりと意見を持ち、積極的に行動していることを知り、うれしくなりました。日本の未来は明るい。(高2・等庸子記者)

作成日: 2007年12月12日

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