全国の農業高校や高校の農業関係科で学ぶ生徒たちが、学習や研究の成果を競う「第59回日本学校農業クラブ全国大会」(日本学校農業クラブ連盟など主催、読売新聞社など後援)が、先月22、23日、佐賀市など佐賀県内の5市町で開かれました。345校から約5000人が、計6部門の発表会と競技会に参加しました。未来の農業の担い手として、食の問題や環境保護に取り組む高校生たちを取材しました。(ヨミウリ・ジュニア・プレス取材班)
■プロジェクト発表
グループ研究を発表するプロジェクト発表会は、佐賀市文化会館で行われ、食料、環境、文化・生活の3区分に計27校が参加しました。各区分の最優秀賞を紹介します。
◆米粉PR「コメロンパン」

阿蘇市のパン屋さん「古木家」で、「高校生のコメロンパン」を製造する熊本県立鹿本農業高のメンバー |
<食料>農林水産大臣賞「がんばる高校生!食料自給率の向上をめざして〜新たな米粉製品の開発と普及に関する研究〜」(熊本県立鹿本(かもと)農業高)
米粉とメロン果汁を使った「高校生のコメロンパン」を開発、米粉製品の知名度アップに貢献、国内の米農家に元気を与えたと評価されたのは、食品工業科3年松本智美さんら10人です。
食料自給率が約40%と低い中、1人が1日に食べる食事のうち、ロールパン5分の1個に当たる小麦粉食品約7グラムを米粉食品にすれば、食料自給率は1ポイント上がると計算。2004年から米粉食品の開発に取り組み、コンビニと共同で米粉パンと米粉ピザを商品化し、九州で販売しました。今年は全国に普及できる商品を開発しようと、特産品のメロンに着目しました。
一般のメロンパンは、香料と着色料でメロンの風味と色を出します。「本物のメロンパン」を目指して試行錯誤を重ねました。8月に完成した製品は、抹茶でメロン色に仕上げた、メロン果汁入り小麦粉製クッキー生地を表面に、中は米粉生地で、真ん中に果汁入り求肥(ぎゅうひ)が入っています。表面はさくさく、中はもちもち。一般のメロンパンより低カロリー、低脂肪です。
製造には地元のパン屋さんの協力を得て、8月に県内の百貨店で期間限定販売が実現し、1日1300個を完売。今月、東京の百貨店で定番商品になりました。
松本さんは、「私たちの研究をきっかけに、もっと米を食べてもらえたらうれしい」と話しています。
◆ダケカンバで土壌浄化

鉱山跡地の土壌を採取する岩手県立盛岡農業高のメンバー |
<環境>文部科学大臣賞「『母なる大地に緑の衣を』〜スーパー植物を活用した環境浄化に関する研究〜」(岩手県立盛岡農業高)
39年前に閉山した同県八幡平(はちまんたい)市の硫黄鉱山、松尾鉱山からは、強酸性の水が流れ出しています。鉱水中和処理施設が老朽化しているため、森林科学科3年因幡雄太君ら8人は、植物の力で環境を根本的に浄化する研究をしました。注目したのは、汚染物質を吸収し、環境を浄化する「スーパー植物」です。
現地には昔から落葉広葉樹ダケカンバが分布しているため、鉱毒で汚染された地にも生えるスーパー植物ではないかと推論。培養苗を使って実験した結果、ダケカンバは酸性培地でも成長し、苗自体のpHは中性を示しました。現地で酸性度の強い場所に生えたダケカンバの組織も中性で、ダケカンバが酸性水を取り込み、中和する能力を持つことがわかりました。
次は土壌が浄化されるかの検証。酸性培地は苗の成長後、中性になり、ダケカンバが生えている現地の土壌は、根の近くが中性、根から離れると酸性度が高いことがわかりました。ダケカンバが土壌を浄化する可能性が強まり、この発見は森林総合研究所東北支所から高く評価されました。
ダケカンバの苗木を植林する計画を立て、試験管の中で、組織の一部から苗を培養し、培養成功率80%を達成。ペットボトルで苗木を成長させました。
跡地を管理する東北森林管理局に働きかけ、市民による植林の規制が緩和されました。因幡君は、「市民レベルの活動をもっと普及させたい」と今後の目標を語りました。
◆園芸通じ地域が交流

熊本県立八代農業高に作られたコミュニティガーデンで、生徒と老健施設のお年寄り、地元の保育園児、ボランティアが花を植える園芸福祉交流会 |
<文化・生活>文部科学大臣賞「地域をつなぐ園芸福祉の拠点づくりを目指して〜『八農園芸コミュニティ』創設への軌跡〜」(熊本県立八代(やつしろ)農業高)
園芸を通して癒やしを得ようという園芸福祉。フラワークリエイト科3年藤本高拡君ら8人は、ボランティアの「フラワーサークル」を作り、地域の約10人に登録してもらいました。5月から、地元の八代市立鏡小と介護老人保健施設・八祥苑(はっしょうえん)で活動を始め、効果をグラフ化して検証しながら、地域交流を進めました。
園芸の3大効果といわれる身体的、精神的、社会的効果を分析するため、参加者に笑顔が見られたか、協力して取り組めたか、といった観察項目を複数設け、5段階で評価しました。
鏡小では野菜を栽培。交流会1回目では、会話と笑顔が少なかったため、2回目は会話を心がけ、児童の班長に苗を配らせて自主性を促す工夫をした結果、会話も笑顔も増えました。
八祥苑では、花とゴールドクレストの寄せ植えをしました。お年寄りたちは協力し合って意欲的に活動。「若い人と花に触れて元気が出た」という感想も聞けました。身体的効果で「五感への刺激を感じる」という項目の評価が低かったため、ハーブなど嗅覚(きゅうかく)に訴える植物も使う必要がわかりました。施設スタッフは「成果がグラフで明確にわかり、勉強になった」と評価してくれました。
農業高校が地域に貢献できることを実感したという藤本君は、「普通高校との交流や、外国人との異文化交流もしたい」と今後の活動の展望を語りました。
■意見発表
意見発表会は、佐賀市のメートプラザ佐賀で開かれ、食料、環境、文化・生活の3区分で27人が発表、次の3人が最優秀賞を受賞しました。
◆父超える養豚農家に
<食料>農林水産大臣賞「養豚に生きる」(宮城県立小牛田(こごた)農林高・農業技術科3年伊藤竜太君)

宮城県立小牛田農林高・伊藤
竜太君 |
伊藤君の家は養豚農家で、鹿児島県・奄美大島で昔から飼育されている、全身真っ黒な希少な島ブタ約30頭を飼育しています。赤身の繊維が細かく、脂身にこくがあるのが特徴です。島ブタを保存する埼玉県の農家から父親が譲り受けました。
伊藤君は様々な体験学習を重ねています。島ブタの出荷先での職場体験では、配送作業をして、「生産者の顔が見られると安心」などと声をかけられました。
将来、自分ブランドを確立させたいという伊藤君。「父をしのぐ養豚農家になる」と決意を話しました。
◆糞尿を地域で再利用
<環境>文部科学大臣賞「リサイクルから生まれる『美味(おい)しいね!』」(神奈川県立相原高・畜産科学科2年井上美穂さん)
馬が好きで、乗馬クラブに参加している井上さん。都市部のクラブで糞尿(ふんにょう)処理が問題になっていますが、堆厩肥(たいきゅうひ)を使った野菜のおいしさを知り、「糞尿をリサイクルし、地域の人々においしい生産物を届けたい」と思うようになりました。

神奈川県立相原高・井上美穂さん |
1年余り前から農業クラブ養鶏班で、小学校の給食の残飯をニワトリの飼料に加工。堆肥(たいひ)も作り、小学校で利用してもらっています。「地域においしさを届け、リサイクルと命の営みについて伝えたい」と意欲を語りました。
◆園芸通じ人間形成
<文化・生活>文部科学大臣賞「WELL―BEING」(三重県立相可(おうか)高・生産経済科3年西村千晶さん)
西村さんはNPO法人の設立に参加、理事長として、園芸を通じ心を癒やす園芸福祉で地域に貢献しようと活動しています。将来の目標は、保育士になるという夢を発展させ、園芸福祉を取り入れた保育園経営です。

三重県立相可高・西村千晶さん |
活動の中で、園芸福祉の応用範囲の広さを実感。また、地域の課題に安定的に取り組める事業を目指し、ビジネスとしての園芸福祉の可能性を感じるようになりました。「園芸を通し、子どもたちの人間形成ができる保育園を作りたい」と話していました。
◇
ほかの競技会の最優秀受賞者は次の通り(敬称略)
【平板測量】文部科学大臣賞・国土交通省国土地理院長賞=佐賀・佐賀農業高(井上佳史、小柳良太郎、森滉一)【農業鑑定】農業=窪田政行(長野・下伊那農業高)▽園芸=飯村祥伍(岐阜・飛騨高山高)▽畜産・文部科学大臣賞=大城戸優子(熊本・菊池農業高)▽生活科学=中根洋奈(愛知・猿投農林高)▽食品科学=村瀬直樹(岐阜・郡上高)▽農業土木=片桐拓也(岐阜・岐阜農林高)▽林業=二反田しおり(鹿児島・伊佐農林高)▽造園=四十万侑佑(石川・翠星高)▽農業機械=深沢侑希(青森・三本木農業高)【農業情報処理】農林水産大臣賞=山崎友梨(愛知・安城農林高)【家畜審査】農林水産大臣賞=菊池成子(岩手・遠野緑峰高)
◆取材を終えて
大学の農学部への進学を希望しているので、農業高校ではどんなことを学んでいるのか知りたくて、取材に参加しました。予想以上に高度な研究や学習をしていることに驚き、農業への熱意にも圧倒されました。私も負けないように学びたい。(高1・都倉直子記者)
同年代の高校生が「日本の食」を支えるため、頑張っている姿が胸に響きました。食の安全が脅かされ、不安を抱える人は少なくありません。しかし、参加者たちの研究や学習が、日本の食の未来に明るい光を差し込んでくれると感じました。(高2・正能茉優記者)
生徒たちの発表はどれも、活動への自信、将来の明確な夢と実現への志があふれていました。意見発表の内容はわかりやすく工夫され、私にもよく理解できました。高校生とは思えない知識量や意志の強さを知り、自分もパワーを得られました。(高3・瀧宮瑛里子記者)
〈ヨミウリ・ジュニア・プレス〉
読売新聞社が1984年に創設、運営している子ども記者団。公募で選ばれた首都圏の小学5年から高校生まで約60人が、大人記者の指導を受けながら取材活動を行い、記事は本紙・週刊KODOMO新聞の「ジュニアプレス」欄などに掲載されています。
|