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    校内美術館で生徒と地域が交流…東京電機大中

     東京電機大学中学校・高等学校(東京都小金井市)は、この夏、フランス国立オルセー美術館公認の超高精細複製絵画の展覧会「オルセースクールミュージアム」を開催した。学園創立110周年と、同校のある東京小金井キャンパスの開設25周年を記念した行事だ。生徒たちにアートの素養を身に付けてもらうとともに、地域の美術愛好家を迎えてコミュニケーションを深めることが目的だという。その展示の様子と、生徒たちの表情を紹介する。

    夏休みの校舎が美術館に変身

    • ペンライトの光をあてながら来場者に絵の説明をする生徒
      ペンライトの光をあてながら来場者に絵の説明をする生徒

     オルセースクールミュージアムは8月5日から9日間、開催された。展示されたのは、同美術館のコレクションを再現した複製絵画30点。この複製絵画は、原画を保護するために、同美術館が展示・研究用として唯一公認した「リマスターアート」と呼ばれる特別な複製で、ほとんど本物と見分けがつかない。

     同校といえば、テクノロジー中心でアートとはかけ離れたイメージがあるが、美術展を企画した大久保靖校長によると、立派なエンジニアを養成するためにはアートのセンスを備えた、幅広い人間教育が必要なのだという。

     校舎入り口に設けられた美術館風の受付を通って、展示のある教室に向かった。入り口で、拡大鏡とペンライトを手渡される。普通の美術展では使わない道具だ。不思議に思いながら教室内に入ると、中2の男子生徒が「よかったらご説明しましょうか」と笑顔で声をかけてきた。

     男子生徒は自分のペンライトで絵の暗い部分に光をあてて見せてくれた。「ここに鳥が描かれていますよね。この絵は高精度で複製した絵画なので、光をあてて見ることもできます」と説明した。確かに室内の照明だけでは、はっきり見えなかった鳥の姿がライトの光で浮き上がって見える。彼は、来場者にガイドをする「アートコンシェルジュ」だ。彼を含めて32人の中高生がこの役目を志願し、事前に絵のことを学んで準備してきた。

     展示作品は、モネの「日傘の女」や、ミレーの「落ち穂拾い」など美術の教科書や図録でおなじみの名画が中心だ。複製画といっても、最新のコンピューター技術を駆使したもので、サイズも実物と同じ。しかも、平面でありながら、質感や立体感まで再現された不思議な複製画だ。

    • 会場に日参し、模写に取り組んでいた美大生
      会場に日参し、模写に取り組んでいた美大生

     近づいて拡大鏡を使うこともできるので、絵筆の微細なタッチも見える。名画のオリジナルを見たことのある人でも、これなら新しい発見や、楽しみがあるだろう。

     美術大学1年の学生が、ルノワールの「陽光の中の裸婦」を熱心に模写していた。「描くことで絵をより深く知ることができます。滅多にない贅沢(ぜいたく)な機会です。先生と生徒の距離が近い感じもいいですね」と話した。

     また、鑑賞者が絵画に近づくと手にしたスマートフォンのアプリが解説を始めるサービスもあった。この仕組みは、東京電機大学の長谷川誠教授が指導する画像処理研究室が作り、解説の内容は生徒たちが考えた。

    解説するだけでなく一緒に楽しむ

     会場には、親に連れられた小学校低学年の児童もいた。アートコンシェルジュの中1の生徒が、背をかがめて児童に目線を合わせるようにして説明していた。

     ガイド役の生徒たちにとっては、こうした来場者とのコミュニケーションが新鮮な経験になっている。この生徒は「今までは、絵画を見て、ただきれいだと思うだけで終わっていましたが、アートコンシェルジュに立候補して勉強したことで、絵画の見方が分かりました」と話した。

     また、別の中1生は「絵が好きな両親に、素晴らしい企画だね、と言われ興味を持ちました。初日は『説明しなきゃ』という気持ちでいっぱいでしたが、お客様に『ここに犬が描かれているね』とか教えてもらったりするうち、一緒に絵を見て楽しむことが大事だと思うようになりました」と、気持ちの変化を話した。

     今回の美術展は、生徒にアートのセンスを身に付けてもらうのが主な目的だが、それに並ぶ大きな目的がもう一つある。生徒に地域の人々と関わる機会をつくることだ。

    • 美術展覧会を企画した大久保靖校長
      美術展覧会を企画した大久保靖校長

     大久保校長は、大学の教員から、「就職活動ではコミュニケーション能力が求められる。せっかく成績が良いのに、大人と話す経験が乏しいために結果が出せないのは残念だ」という話を聞いた。今の中高生たちは、親に大切に育てられている一方、親以外の大人と話す機会が少なく、大人との関わりに慣れていない傾向があるそうだ。

     そこで大久保校長は、美術展のアートコンシェルジュとして、美術を愛好する地域の人たちに作品を説明させれば、生徒にとって良い機会になると考えた。

     アートコンシェルジュの中には、美術展初日に、勇気を出して来場者にガイド役を申し出たが断られ、ショックを受けた生徒もいる。しかし、申し出を快く受け入れる人も多く、この生徒は翌日、「ありがとうと言われ、自信を持ちました」と大久保校長に元気な声で報告してきたそうだ。

     「生徒は2日で伸びます。体験することで生徒は成長するのです」。大久保校長は、地域の人たちと談笑する生徒の様子を見守りながら話した。

    クラブによる関連展示発表も充実

    • 科学部による油絵の具の性質に関する研究発表
      科学部による油絵の具の性質に関する研究発表

     校内の食堂では、科学部、歴史地理研究部、鉄道研究部などのクラブが、今回の美術展に絡めて、それぞれの活動発表を行っていた。

     科学部は絵の具をテーマに、材料の違いや重さについて調べ、展示解説していた。高2の生徒は「油絵の具のコバルトブルーやビリジアンは、有機系の材料を使ったものは安価なのに対して、無機系のものは高価で重量もあります。持ってみてください」と実際に絵の具チューブを持たせてくれた。

     歴史地理研究部は、東小金井駅周辺の町の変化を紹介し、小金井の井戸水でいれたコーヒーを提供していた。来場者たちは美術鑑賞の合間にここで休憩し、温かいコーヒーを飲みながら、生徒たちの説明にゆっくり耳を傾けていた。

    • 鉄道研究部はモネの絵を立体化したジオラマを製作
      鉄道研究部はモネの絵を立体化したジオラマを製作

     鉄道研究部はジオラマを展示していた。この食堂に1点だけ展示されていたモネの「アルジャントゥイユの鉄橋」を立体化した作品で、絵のすぐそばに展示し、見比べられるようにしている。中学2年の部員数人が4月に製作に着手し、美術展が始まる2日前にようやく完成させた力作だ。中2男子の部員は「単線か複線か、そこから考え、絵を頼りに立体にしていきました」と話した。

     ジオラマを見学していた観客が「オルセー美術館は、元は駅舎だったんだよ」と思い出したように生徒に話しかけていた。

    地域と連携する学校

     大久保校長は、展覧会の開催にあたって、行政や地域の商店会、そして東小金井駅へ、説明のために足を運んだ。「学校、特に私学は、今まで以上に地域に開かれた存在であるべきだ」というのが持論だ。在校生や卒業生、受験生とその親に限らず、広く地域との接点を増やしていくことが、学校に対する理解と協力を深め、生徒をよりよく育てることにつながると考えている。

     取材を終えて向かった東小金井駅の駅ビルの一角に、同校鉄道研究部のジオラマ作品が展示してあった。ちょうど部員が列車を走らせるデモンストレーションの準備をしていて、買い物客が次々「走らせるのは何時から?」などと声をかけていく。地域との接点を増やしていこうという同校の取り組みを、地域の人たちも見守ってくれているのだろう。

    (文と写真:水崎真智子)

    2017年11月09日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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