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    ICT教育で2020年大学入試改革を乗り越える…日出学園

     2020年の大学入試改革に向けて、先進的なICT(情報通信技術)教育に取り組んでいる日出学園中学校・高等学校(千葉県市川市)は5月11日、高2の「情報」の教室に新聞記者を講師として招き、出前授業を開催した。「情報」教育では最新のパソコンや情報機器の取り扱いだけでなく、メディアリテラシーの養成が欠かせないからだ。今回の出前授業で生徒たちは、朝刊を広げて、新聞の特徴や読み方のコツ、ネット情報との違い、そして「情報の吟味」の重要性などを学んだ。

    新聞でネットの海に溺れない訓練を

    • メディアリテラシーの大切さを話す高野義雄記者
      メディアリテラシーの大切さを話す高野義雄記者

     「熊本地震が起こった時、動物園のライオンが逃げたという偽の情報がネットであっという間に広がったことを知っている人は?」

     高2生の教室で、講師役の高野義雄記者が問いかけると、一斉に多くの生徒の手が挙がった。今を生きる高校生のネット情報への関心の高さを物語る光景だ。素早く、膨大なネット情報は暮らしに欠かせないものとなっているが、(うそ)の情報が出回っているのも事実。問題はどうすれば、それを見分けられるかだ。講義のテーマもまさに「情報の吟味」にある。

     高野記者はこう答える。「インターネットは情報の海。事実、世界中に広がっており、溺れる危険があります。一方、新聞はプールのような存在であり、確かな情報で作られています。新聞を読むことによって情報の海で泳ぐための訓練ができます」

     高野記者が訴えているのはメディアリテラシーの大切さだ。この授業の眼目は、その力を鍛えるために新聞は最適な教材なのだということにある。とはいえ、「家で新聞は取っているが、どこに何が書かれていて、どんな面があるかを初めて教えてもらった」と、ある生徒が話したように、多くの生徒は意識して新聞を読んだ経験がない。

    読み方のコツは見出しの「つまみ食い」

    • 新聞の紙面構成や、テレビやネットと異なるメディア特性を学ぶ
      新聞の紙面構成や、テレビやネットと異なるメディア特性を学ぶ

     そこでまず、高野記者は新聞の面の構成について説明し、生徒たちと一緒に新聞を広げながら、「これが社説、ここは経済面、こっちは社会面、ここは地方版で千葉の暮らしニュースが詰まっています」などと確認。そのうえで「見出しを『つまみ食い読み』するのが良いんだ」とズバリ、読み方のコツを伝授した。

     とたんに生徒たちの不思議そうな視線が高野記者に集まった。「丁寧に記事を読まなくていいのだろうか」と言いたげな顔だ。日頃、テキストや問題文の精読に慣れている生徒からすれば無理もない。しかし、「朝刊1部には20万字、新書1冊分、アナウンサーが読めば10時間かかる分量が詰まっています。毎朝、すべてを読める量ではないんです」と説明されると、生徒たちも納得の表情を浮かべた。

     「それじゃあ、自分が気になる記事を探してみよう」と高野記者が呼びかける。生徒たちはさっそく、面名をたどり、見出しを「つまみ食い」したり、写真に視線を走らせたりしながら、素早く興味のある記事を探し出すことができた。

     普段はスマートフォンでニュースを見ているという黒田愛弓さん(高2)は「ネットの情報に嘘があることは聞いていましたが、今後はしっかり気をつけたいと思います。新聞を取るよう両親にお願いしようと思う」と語った。

     また、関川隼人さん(高2)は「新聞の読み方を知らなかったことに気づきました。読み方のノウハウ、スキルを学ぶことができてよかったです。生徒会のメンバーなので、情報を発信するときに、今日の授業で学んだことを生かしていきたい」と語った。

    「情報」は文系にも理系にも必要な力

    • 情報は文系理系を問わず必要な知識と話す武善教諭
      情報は文系理系を問わず必要な知識と話す武善教諭

     この日行われた「出前授業」は、日出学園が力を注いでいるICT教育の一環だ。同校はメディアリテラシーについて総合的に学ぶ必修教科の「社会と情報」、理系的観点からプログラミングやシミュレーションを扱う選択教科の「情報の科学」に加え、さらなる学びを希望する生徒に応えるため、独自に選択教科「デジタルコンテンツ演習」も開講している。 

     この科目はWebプログラミングや3Dモデリング、パソコンを用いた作曲などを通じて情報機器を活用した物作りの基本を学び、生徒の創造力を育てる狙いがある。情報授業の開講数は、千葉県の普通科高校でナンバーワンだという。

     「情報」教育を充実させる必要性について、情報科の武善紀之教諭はこう語る。「19世紀の英国の首相ベンジャミン・ディズレーリは『嘘には3種類ある。嘘、ひどい嘘、そして統計である』と言ったそうですが、例えばアンケートのとり方次第で、数字は変わってきます。信頼できる情報源にあたることは、文系理系に関係なく、ネット社会を生き抜くために必要な力です」

     武善教諭が指摘する通り、既にメディアリテラシーは文系理系の枠を超えて不可欠の能力になっている。2020年に迫る大学入試改革でも、問われているのは「新しい学力」だ。武善教諭によると、文部科学省が公表した「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」のモデル問題には、数学だけでなく国語の問題で統計グラフの読み取りや議論に合わせた適切なデータを選択する問題が含まれている。同様に、『高等学校基礎学力テスト(仮称)』のモデル問題にも、インターネットと書籍の情報を比較する問題があるという。

     「これらは従来科目の学習だけでは対応することができません。本校の情報科のカリキュラムはこの入試改革をにらみ、生徒たちに本当に身に付けてほしい力を育成できるよう構成しました」と武善教諭は語る。

     同校は授業だけでなく、入試の面でも「新しい学力」を重視しており、従来型の国語や算数の試験を超えた「新タイプ入試」を2018年度から実施する予定だ。

    統計ポスターの実制作で磨きをかける

    • パソコンで立体を描き3Dプリンターで制作する実習も
      パソコンで立体を描き3Dプリンターで制作する実習も

     同校の「情報」教育には、もう一つ特徴がある。2年前のiPad導入を機にカリキュラムを一新し、映像制作をはじめ、多彩な実習を盛り込んで実制作を通じて「情報の扱い方」を学ぶ構成にした点だ。

     高2の情報の必修授業で行われる「統計グラフ」のポスター制作も、その一つ。生徒は各自、テーマを設定し、アンケート調査や種々の統計資料を駆使してB2のポスターを仕上げていく。

     「グラフを正確に読み取る力は、自分たちでグラフを作ってみないと身に付きません。また、テーマのために多くの情報を収集すること自体が、生徒の可能性を広げ、見聞を広めることにつながっていきます。さらに、授業での制作やデータ分析を通じて学んだ経験はAO入試や卒業後の就職活動、社会人としての生活にも生きるものです」と武善教諭は力説する。

     同校は完成したポスターの中から優秀作品を「千葉県統計グラフコンクール」に出品している。昨年度のコンクールでは千葉県の受賞作16作品中10作品が日出学園の生徒の作品だった。一昨年度は「一人でどこ行ける??」と題した作品が千葉県教育長賞を、昨年度は「意外と知らない?爆買いの真実。」と題した作品が千葉県統計協会会長賞を受賞している。

     統計グラフポスター作りを指導していく中で、様々な課題も見えてくる。たとえば、女子高生の制服のスカート丈を調査対象にした一昨年の作品で、テーマのユニークさは評価できるものの、素材となる情報に、いわゆる「まとめサイト」の情報を使ってしまったため、残念ながら信頼性に不安が残る内容となってしまった。

     今回の出前授業は、この反省を生かし、「誰が、いつ、どこで発信した情報なのか。情報の信憑性(しんぴょうせい)及び信頼性や、情報を取得し、情報を利用する際の注意点を考える」ということが狙いだった。

     出前授業の終わりに武善教諭は「新聞に、政治面、経済面、文化面、社会面といろいろあるように、統計グラフポスターのテーマも様々考えられます。信頼できる情報を用いること、見る人を()きつける見出しや情報のまとめ方の工夫をするなど、参考になることがたくさんありました。今日学んだことを生かして、統計グラフポスターを作っていきましょう」と締めくくった。

     生徒たちの作品は、秋に開催する日出祭で掲示される予定だ。

     (文と写真:水崎真智子)

    2017年06月29日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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