文字サイズ
    中学受験サポートに協賛する会員校の特色や、会員校からのお知らせなどを掲載しています。

    起業家精神を育てる「創造性教育」…瀧野川女子

     瀧野川女子学園中学高等学校(東京都北区)で7月、ベンチャー企業「ウミトロン」代表の藤原謙さんによる講演が行われた。藤原さんの話と同校の教育をつなぐものは「デザイン思考」に裏打ちされた起業家スピリッツだ。2010年に始まった独自の「創造性教育」によって大きく視野を広げつつある生徒たちは、藤原さんの講演を聴いて夢を加速させていた。

    「毎日楽しい!」それがベンチャーを起業すること

    • 起業までの道のりを生徒たちに語る藤原謙さん
      起業までの道のりを生徒たちに語る藤原謙さん

     「毎日楽しい!」。集まった生徒たちの目に飛び込んできたのは、藤原さんが用意した資料作成ソフト「パワーポイント」に大きく書かれた、この言葉だった。

     「Workって仕事という意味もあるけど、作品という意味もありますよね。自分ができること、つまり作品を世の中に伝えることが仕事だと思っているんです。自分の作品を世に出すには、まず第1にアイデアを出す。でも、人に話すだけでは分かってもらえないんです。だから第2に、やって見せる。こういうものがあるって分かってもらう。そして第3に成功を見せる。これが役に立つ状態、成功している状態を見せるわけです。そうすれば、分かってもらえる。大学やJAXAでの研究でも、起業でもそのやり方は同じなんです」

     小さいころからモノづくりが好きだったという藤原さんは、東京工業大学に進み、卒業後は宇宙航空研究開発機構(JAXA(ジャクサ))へ就職して宇宙開発に携わった。その後、カリフォルニア大学バークレー校のビジネススクールにフルブライト留学し、経営学修士(MBA)を取得した。帰国後は商社勤務を経て、2016年、宇宙から観測する海洋データを利用し、水産養殖の効率化をサポートする企業「ウミトロン」を創業した。

     藤原さんがこの日の「キャリア連続講演」に招かれたのは、同校の山口龍介・副校長の東京工業大学時代の後輩という縁によるもの。山口副校長は友人として、藤原さんが留学、起業する姿を見てきて、この人なら生徒に起業家精神を吹き込んでくれると、講演をオファーした。藤原さんも「自分の経験が役に立つなら」と快諾した。

     「世の中こうなったらいいな、という新しいアイデアを仕事にするのは楽しいです。こうしたらもっと良くなるんじゃないかと頑張っていくと、いろいろな人が分かってくれて、応援してくれ、さらに楽しくなります。アイデアは人それぞれ。みなさんもぜひ、まだ誰もやったことのない仕事をしてみてください」

    デザイン思考を教育に取り入れる

    • iPad Proでメモを取る生徒たち
      iPad Proでメモを取る生徒たち

     藤原さんのプレゼンテーションが終わり、司会の山口副校長と藤原さんのトークセッションが行われた。

    山口 起業家というと、スティーブ・ジョブズさんや堀江貴文さんみたいにリーダーシップがある人、派手にプレゼンする人というイメージで、とっぴなことをやる人と思われがちだけど、実は藤原さんみたいに、これをこうやればうまくいくはず、と入念に計画して自分で納得してから事業を始めてるんですよね。

    藤原 そうです。誰もやっていないことをやるときは、アドバイスを聞ける人もいない。だから一人ですごく考えて、細い糸をたぐって太い糸にしていくと、過去の経験とかが生きてきて、新しいことができるんです。起業は一人じゃできないこともいっぱいあって、コンピューターサイエンスや人工知能を専門にしている仲間たちに手伝ってもらうと、すごくよくできる。チームでやると、もっと良くなっていくんです。

     この会話から見えてくるのは、スタンフォード大学などで研究され、世界最先端の思考とされる「デザイン思考」だ。

     山口副校長が解説する。「自分が作ろうと思っているものと、みんなが欲しいと思っているものがどうやったら合致するか。バラバラでやろうとすると難しいかもしれませんが、チームでやればできる。アイデアを出すのが得意な子がいれば、それを組み立てるのが得意な子もいるし、マーケティングや財務が得意な子もいる。思考や意識、考え方を変えれば、それが起業家精神、創造性につながります。中高生から教育することで、誰でもその能力が育つのです」

     瀧野川女子の教育には、このデザイン思考が取り入れられている。その実例が、高2の事業化実習だ。学園祭での出店に向け、生徒がデザイン思考を使ってチームで模擬会社を「起業」する。出資して事業を立ち上げ、商品開発からマーケティング、財務マネジメント、株主総会といった、一連の流れを疑似体験できる。

     「当日の販売により、資本が178%に達した模擬企業もあります。また、修学旅行先のハワイ大学で行うチャリティーバザーでは、生徒たちのオリジナル商品が口コミで人だかりができるほど好評で、880ドルを売り上げたこともあります。やればできるという経験が、自分のやりたいこと、好きなことを、情熱を持って全力でやる力を育てていると感じています」

    「私も起業したい」「留学で何が変わるの」

    • 活躍分野は違っても、世の中に貢献したいという気持ちは共通する2人(右は山口龍介副校長)
      活躍分野は違っても、世の中に貢献したいという気持ちは共通する2人(右は山口龍介副校長)

     講演会が終わった後も、藤原さんのまわりには生徒が何人も集まり、質問攻めにしていた。高2のN・Uさんは興奮気味に聞いた。「中学生のころから起業したいとずっと思っていて、高校生になってからは、プログラミングを学んだり、ウェブサイトを作ってみたり、いろいろなイベントに参加しています。海外ボランティアにも興味があります。自分が好きなものを仕事にするには、どうしたらいいですか」

     藤原さんが答える。「自分のやりたいことは大事だけれど、それが世の中に受け入れてもらえるか、いいねといって応援してくれる人がいるか、ということも大事。最終的には、自己実現と世の中の役に立つということはイコールになってくると思っています。世の中でこれが足りないな、こういうものがあるといいなと自分が思うことが実現できれば、世の中も良くなるはずですから」

     中3のM・Mさんは「来年、留学に行く予定なのですが、留学前と後でどう変わりましたか」と質問した。「アメリカでは、自分の興味を持っていることをいろんな人に話していくと、その人がそれに近いことをやっている人を紹介してくれたりして、どんどん人脈が広がっていきます。JAXA時代よりも人脈が広がりましたね」と藤原さんは答えた。

    生徒の視野、進路選択にも大きな変化

    • 丘の上にそびえる瀧野川女子の校舎
      丘の上にそびえる瀧野川女子の校舎

     同校がデザイン思考を取り入れ、起業家精神を育てる「創造性教育」などの取り組みをスタートしたのは2010年。同時に授業のICT(情報通信技術)化を推し進めた結果、授業風景は大きく変わった。1人1台のiPad Proを使うことで、クラウド上の共同編集ができるようになり、数学なら、他の生徒が答えた別の解法を瞬時に見ることなどができる。山口副校長は「これによって数学は、数字を使って考え方を表現するコミュニケーションツールとして捉えられるようになるのです」と話す。こういった意識や培った力も、チームの力で課題を解決するデザイン思考に生かされていくのが分かる。

     生徒の視野、進路選択にも大きな変化が生じている。以前に比べて、工学部や医学部など理系を目指す生徒が増えてきた。また、中2が出場した日本機械学会主催のロボットグランプリで、理工系の大学生や社会人チームが並みいるなか準優勝を果たした。これも、授業のICT化と創造性授業の相乗成果と言えるだろう。

     「こうした力は2020年の大学入試改革にも対応でき、さらにその先の将来、今ある職業の多くがテクノロジーによって置き換わったときにも、今はない新しい職業を自分で作る力になるのです」と山口副校長は話す。

     生徒たちに芽生えている起業家精神、グローバル精神は、藤原さんの講演会で大きく膨らんだことだろう。同校を卒業していく生徒たちが、藤原さんのように起業して、今はない新しいWorkを作る未来は、そう遠くはないのかもしれない。

    (文と写真:小山美香)

    2017年08月22日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    おすすめ
    PR
    今週のPICK UP
    中高生新聞「練習手帳」に挑戦!