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    新校長語る「家族を守れる男になれ」…芝中

     100年以上の伝統を誇る中高一貫男子校、芝中学校・芝高等学校(東京都港区)の第15代校長に、武藤道郎先生が就任した。新時代の教育を率先して支えてきた武藤先生が今考える、教育方針、理想の生徒像などを聞いた。

    目標は教員の質のさらなる向上

    • 第15代校長に就任した武藤道郎先生
      第15代校長に就任した武藤道郎先生

     「僕はおしゃべり好きですから、校長室に一人でいるのが寂しくてしょうがない。今も高3の化学の授業を持っているので、休み時間に生徒が校長室に来ることもあるし、他の先生が顔を出して、『校長、寂しいんでしょ』なんてからかわれることもあります」と武藤校長はにこやかに語った。

     この4月、第15代校長に就任したばかり。学園の広報を担当していたので、こんな軽妙な語り口を、学校説明会などで耳にした受験生や保護者も多いのではないだろうか。

     「副校長を1年務めたところで前校長の春日利比古先生が退任することになり、後継の校長に指名されました。副校長を何年か務めてから就任するのが普通なので、僕自身も意外でしたし、周囲からは『ホップ・ステップ・ジャンプで校長になった』と言われています」

     同校は、アクティブ・ラーニングやグローバル教育の流れが一般化する以前から、体験型の校外学習や海外との交流事業に力を入れてきた。武藤校長は、現場の教員たちと力を合わせ、今年で5年目になるベトナムの農村でのホームステイなど、ユニークなプログラムを次々実現してきた。新たな時代の教育の柱として、武藤校長への期待はますます高まっている。

     「生徒には、とにかくいろいろなことをやらせたい。歴史ある学校ですから、教育理念は曲げませんし、良い伝統は残していきますが、新しいものを導入する余地も残していかなければなりません」と、将来の展望を語る。

    • 東京タワーが間近に見える校舎
      東京タワーが間近に見える校舎

     その中で新校長として特に取り組みたいことは、教員の質のさらなる向上だという。学校という場では、生徒が入れ替わっていく一方、教員たちは同様の年間スケジュールを繰り返すことになりがちだからだ。

     「成長していく生徒を見送るだけでなく、教員も新しいことを学んだり、視野を広げたりするべきです。生徒に一番近い大人である我々が日々、研鑽(けんさん)を積むことで、成熟した学校教育が成り立つのだと思っています」

     より良い教員になるには研鑽の中身も重要だ。専門分野だけでは事足りない、というのが武藤校長の考えだ。

     「教科の指導ができるというのは、教員として当たり前のことです。ただ、同じことを教えるのでも、生徒によってアプローチを変えないと伝わらないことがある。ですから、教員には、自分の教科以外のことも学んでほしいんです。例えば、理科の教員が英語を勉強しに行くとか、全く異なる分野の企業研修に行くとか、そういうことができたらと考えています」

     デリケートな青少年期の6年間を過ごす中学高校は、ただ勉強するだけの場所ではない。それだけに教員の人間的な厚みが教育を大きく左右する。「学校は、勉強だけでなく、心を教えないといけない。教師の能力として大事なのは、心に話しかけるような、伝える力なんです。教員には、良い意味でのいい加減さとか、相手を見てのさじ加減が必要です」

     将来、発達したAI(人工知能)が、人間の職業の多くを代替し、教師という職業も不要になるという論議があるが、武藤校長は真に受けない。「僕は、教員という仕事は絶対になくならないと思っています。機械では心を教えられないですから。校長という仕事はなくなるかもしれないですけどね」

    志望校は子供が決めるのが一番

     30年近く、芝学園の教壇に立ってきた武藤校長だが、自身は都立高の出身だ。「母校も今は中高一貫校になっていて、僕の時とは雰囲気が違うと思いますが、都立高生活も楽しかったですよ」と、こだわりがない。その武藤校長に、志望校をどう選ぶかについて尋ねた。

     

     「実際に行って、見て、子供が自分で決めるのが一番です。男子校には男子校の良さ、共学には共学の良さがあります。私立の良さ、公立の良さもある。まずは、いろいろな学校の学園祭に行って、在校生の様子を注意して見てみるのがいいと思います。一人の生徒を見てもわかりません。何人かの生徒を見て、雰囲気をつかんでほしいですね」

     もちろん、志望校の門をたたいても、必ずしも入れるとは限らないのが中学受験の厳しい現実だ。「本校だけに絞って受験してくれたのに、結果は残念、というケースもあります。3倍超の倍率で、毎年1000人もの受験者に、ごめんなさいと言わなければならない現実があります。それでも、本校を目指して頑張った経験は、無駄にならないはずです。結果はどうあれ、頑張って良かったと心から思ってもらえるような、質の高い入試を常に心しています」

    日本の中堅となる人材を生み出す

    • 学校の入り口にある第3代校長の渡辺海旭像
      学校の入り口にある第3代校長の渡辺海旭像

     芝学園は、徳川家ゆかりの名刹(めいさつ)である増上寺を母体とし、江戸時代からの長い歴史を受け継いでいる。武藤校長は伝統をどう受け止めているのか。

     「学びの場としての歴史ははるかに古く、室町時代から、数千の学僧が机を並べていたようです。芝中学としての創立は明治39年(1906年)ですが、僕は、本校の環境は、いわば学びのパワースポットとでもいうような、歴史の不思議な力に満ちているんじゃないかと思っています」

     仏教系男子校らしい穏やかな校風から、同校は「芝温泉」というあだ名もある。「本校は、社会のトップエリートを続々と輩出するような学校ではありません。俺が俺が、というタイプの生徒は少ないと思います。生徒に対して時には『もう一歩前に出てみようよ』と言うことはありますが、世の中、全部が全部前に出て行っても、うまくいかないですからね。芝の卒業生の多くは、堅実に、世の中の下支えをしているのではないかと思います」

     この堅実な校風は、学僧で社会事業家でもあった渡辺海旭(かいぎょく)第3代校長によるところが多い。乳酸飲料カルピスの命名者としても有名だ。

     渡辺校長は毎年の年頭訓示で、「諸君は将来、日本の中堅になる人だから、心身ともにしっかり修行しなければならぬ」と、生徒たちに呼びかけたという。「100年前の言葉ですが、これが芝の教育の根幹だと思っています」と、武藤校長は確信を深めるように語った。

    人間力と折れない心を養う

     同校は進学校としても知られるが、大学の合格実績を前面に押し立てて生徒を募ることはしない。それも、校風の表れだ。

     「前校長も、学校説明会などで、自分から『今年は東大○○人でした』と言ったことは、一度もなかったと思います。東大に入った、医学部医学科に入った、というのは、それぞれの生徒が、自分で決めた目的に向かって努力した結果であって、学校の実力とは違います」

     武藤校長が考える中学高校の役割は、進学実績を上げることではなく、生徒が自分に合った目的を見つけ、能動的に生きていく力を養えるようにすることだという。

     「たとえばベトナムで研修するのは、日本などの先進国ではできない体験をさせるためです。農村でのホームステイなので、衛生面ではかなり衝撃的な体験もします」。参加した生徒は、日本語はもちろん、英語もほとんど通じないホストファミリーと生活するうちに、多くのことを学ぶのだという。

     エネルギーに満ちた青少年期に、何よりも身につけるべきなのは「しっかりした人間力と折れない心」。「それがあれば、これから社会がどう変わっても、人生においてどんな難局に直面しても、対応できます」

    男の子を育てるプロ

     「在校生の保護者会では、『任せてください。お子さんをいい男に育てます』と言っています。保護者の中には、教員より高学歴だったり、社会的地位が高かったりする人もいますが、男の子を育てるということに関しては、僕らはプロフェッショナルだと自任しています」

     武藤校長は生徒たちに、「いずれ父となった時、家族を守れる男になりなさい」と言い聞かせている。そして自身が心がけていることは、「自分が育てた子どもたちの母校を守ること」と語った。

    (文と写真:織江理央)

    2017年07月07日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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