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    先生はJAXAで活躍した宇宙科学者…淑徳

     淑徳中学・高等学校(東京都板橋区)で高校理科を担当する飯島雅英教諭は、東北大学大学院理学研究科の准教授から現職に転じた風変わりな経歴の持ち主だ。宇宙航空研究開発機構(JAXA(ジャクサ))のプロジェクトにも関わった生粋の宇宙科学者だが、子供たちの可能性を愛し、ときには教科書の枠をはみ出して授業する情熱の人でもある。飯島教諭の教育に懸ける思いと、教え子たちの声を紹介する。

    生徒自ら教科書を超えていく

    • 飯島教諭の前職は東北大大学院理学研究科准教授
      飯島教諭の前職は東北大大学院理学研究科准教授

     飯島雅英教諭はこれまで、主に宇宙空間プラズマ物理学(理論)や電波天文学などの研究に携わってきたという。JAXAのプロジェクトにも参加し、ハレー彗星(すいせい)探査機「さきがけ」のデータ解析や、オーロラ観測衛星「あけぼの」の装置ソフトウェア開発なども行っている。

     そんな生粋の宇宙科学者が、一高校教師として淑徳に赴任してきたのは2008年のことだ。中学、高校の教員を志望していたこともあり、大学院で教壇に立つうちに、「もっと若い世代を教えたい」という思いが膨らみ、転身を決めたという。

     「高校生は着想が面白いですね。特に淑徳の生徒は素直な子が多く、疑問があれば遠慮なくぶつけてくる。可能性を感じます」

     物理の授業で運動方程式「F=ma(力=質量×加速度)」の説明をしていた時、ある生徒から「この式はおかしいのでは」と声があがったという。飯島教諭によると、この式は物体の速度が小さい場合の近似式であり、光速に近い状態では成立しないという。高校のレベルを超える知識だが、この生徒は飯島教諭の説明から推測し、このような疑問にたどり着いた。

     こうした発想を「まだ早い」と打ち消すことなく、さらなる学びへと導くのが飯島教諭のやり方だ。この式についても、「確かに完全に正しい式ではない」と答え、その意味を詳しく解説したという。

     「教科書が最新の研究に追いついていない場合もあります。その時は、『教科書にはそう書いてあるが、現在はこう』と補足するようにしています」

    高度かつ、細やかな指導

    • 授業では、生徒からの疑問や発想について詳しく解説する
      授業では、生徒からの疑問や発想について詳しく解説する

     校内では、どんな先生だと受け止められているのだろうか。生徒たちは「広く深い知識を持った先生です。教科書プラスアルファの話をよくしてくれます」と話す。地学の説明に微積分の知識を応用するなど、時に教科書の枠組みを離れた視点を提示し、生徒の興味を刺激しているという。

     こうした授業は、高等教育への橋渡しにもなっている。淑徳の卒業生で現在東京理科大学1年の定榮慶太郎さんは、「授業では大学レベルの内容も盛り込まれるので、正直『もっと受験に即した内容を』と思ったこともあります。でも大学でマネジメントサイエンスを学ぶ今、先生の授業の真価が改めて分かりました」と語る。

     ときに高度な授業を繰り広げる飯島教諭だが、受験指導でも細やかさを発揮する。東京医科歯科大学1年の川口綾菜さんが話す。「各大学の問題傾向にとても詳しく、問題を見て即座に、『◯◯大の問題だね』とズバリ見抜いてしまったことも。志望大学の過去問の類似問題を用意してくれたり、放課後に提出したプリントを添削して翌朝には返してくれたり。物理の勉強はずっと先生を頼りにしていました」

    「自由な」部活に込めた教育観

    • 科学同好会の文化祭での展示・発表
      科学同好会の文化祭での展示・発表

     飯島教諭は科学同好会の顧問でもある。教室で科学を教えるだけでは飽き足りないかのようだ。部員は20人を超えている。「部という呼び方は、目標に向かうとか、競争めいたことを連想します。もっと自由な環境で科学を楽しみたい」。そうした方針通り、飯島教諭は活動に目標やテーマを設定せず、生徒の興味に任せて自由に実験や観察を行わせている。

     同好会部長の浅野葵さん(高1)は、「やりたいことは何でもできます。誰かが実験や観察を始めると、周りの人たちが面白がって集まってきます」と、活動の楽しさを語る。

     文化祭では数人ずつのグループをつくり、各自の興味関心に従って発表展示を行う。浅野さんは副部長の竹原理紗さん(高1)と共同で、四つ葉のクローバーの発生条件を研究中だ。そのほか、粘菌やプラナリア、コンピューターなど、研究テーマは多彩。前年にプラネタリウムを製作した際は、数学の得意な部員が活躍、三角比を駆使してほぼ球体に近いドームを設計した。

    • プラナリアの採集活動をする科学同好会
      プラナリアの採集活動をする科学同好会

     また、福井県の福井工業高等専門学校が発信している電波を用い、流星の電波観測を実施して、そのデータを解析したり、ロボット好きの中2の部員がブロック玩具を用いるプログラミングコンテストに参加したりと、学校外にも活動の場は広がっている。

     8月に尾瀬で行った合宿では、晴れた日を選んで星空観察をした。生徒たちは野外で寝転がり、都会ではほとんど見られない満天の星に思わず歓声をあげた。「放課後には時々、校門のそばに8センチの天体望遠鏡を出します。土星の輪や木星の模様が見えたりするので。部員に限らず、下校する生徒が面白がってのぞいてきます」

    仏教思想と科学する心

     飯島教諭には、もう一つ関心領域がある。宗教や哲学だ。特に、仏教については「普通の人が真理に至るための知恵」として注目している。科学者が自分の研究を深めるうちに、宗教や哲学に関心を持つことがある。飯島教諭も大学勤務時代に仏教思想に共感したといい、これが仏教系の同校で教壇に立つようになった理由の一つでもある。

     「科学万能と言いますが、科学をやると、むしろそれが錯覚だと分かります。たとえば、日本の差し迫った問題として地震対策がありますが、地震予知の技術は確立していません。できないことを前提に対策を考えなければならない。そうした人間の有限性について、ヒントをくれるのが宗教です」

     飯島教諭が大事にしている仏教の言葉がある。「青色青光、黄色黄光、赤色赤光、白色白光」という阿弥陀経の一節だ。色とりどりに輝くハスの花のように人間もそれぞれ、自分なりに輝けるという意味だそうだ。教育の場で、生徒一人一人の個性を輝かせることにも通じる。

     「現在の学校教育は、できないところを補って平均点を上げる発想が強い。私は、一人一人のできるところを伸ばしたいと思っています。得意分野が一つでもあれば自信が生まれるし、他の分野の知識も深まっていくことが多い。個性を尊重して多様さを認めるのが、学問の本来の姿です」

     (文:上田大朗 写真:淑徳中学・高等学校提供)

    2017年10月25日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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