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    独自の「自己表現入試」で潜在力を発掘…女子美付

     女子美術大学付属高等学校・中学校(東京都杉並区)に今年度、石川康子新校長が就任した。入学試験に新しく導入する「女子美 自己表現入試」と、石川校長が目指す「美術を()かした教育」についてインタビューした。

    お互いを認める環境が個性と学力を伸ばす

    • 美術を活かした教育の取り組みについて語る石川康子新校長
      美術を活かした教育の取り組みについて語る石川康子新校長

     石川校長は女子美術大学の卒業生。絵画教室や建築事務所での勤務を経て、30代で高校の教員に転じた。

     「最初は美術やデザインに関連した仕事をしていましたが、当時は今のようにコンピューターなど無い時代。すべて手で描く仕事は大変でした」

     絵画教室で子どもたちに絵を教えることは楽しかったという。「美術と子どもが好きなら美術の教員になろう」と30代で一念発起し、神奈川の県立高校で教職に就いた。教頭、校長を歴任し、全国高等学校美術・工芸教育研究会の副会長や、神奈川県教科研究会美術工芸部会会長も務めた。2014年度からは、古巣の女子美大で教えていた。

     高校教諭を長く務めた石川校長にとって、中学も併せ持つ同校への赴任には、不安があったという。

     「新入生と接したのは入学式が最初でしたが、みんなとても緊張していました。その顔を見ていると、ついこの間までランドセルを背負っていた幼いこの子たちを、どうやって育てていけばいいのか。遠くから来ている子は一人でちゃんと通えるのだろうかとか、いろんな思いがよぎりました」

     しかし、その不安もつかの間、生徒たちがどんどん変わっていく様子に驚かされた。石川校長は、こう振り返る。

     「あっという間に明るい顔になり、友達と仲良くなっていきましたね。当校をわざわざ選んでくる生徒たちは、もともと感受性の強い子が多く、小学校では少し変わっていると思われていたような子もいます。でも、すぐに『自分を出していいんだ』と、子どもたちの心が解放されていくのをひしひしと感じました。違う個性を認め合える雰囲気が、この学校にはあるのだと思います」

     作品を一生懸命仕上げ、発表する。それを繰り返す中で、生徒は自分自身を見つめ、大きく変わっていくという。

     「当校では、自分の作品を人前で表現する機会を多く設けています。自分の作品を人に見せることで、技術も心も鍛えられていきます。さらに友達の作品を、一つ一つ違う個性だと認められるようになる。上手下手ではなくて、『描き方が違う』『いろんな描き方がある』といった生徒の言葉がとても印象的でしたね」と石川校長。それは他人を認めると同時に、自分の価値を認めることでもあるのだろう。

    美術で思考力・判断力・表現力を醸成

    • 美術とスポーツが融合する伝統の運動会
      美術とスポーツが融合する伝統の運動会

     同校は美大の付属校でありながら、あくまでも普通科の中学・高校だ。美術の授業数は他校より多いが、中高生に必要な学力はしっかり身に付けることができる。しかし、これからの時代に必要とされる思考力や判断力、表現力などは、美術教育で養われると石川校長は強調する。

     「以前は、『美術は情操教育』と決めつけられることもありました。でも私は、人間力や学力は、美術で培われる力によって高めることができると以前より考えていました。最近では、思考力や表現力を身に付けるためにアートを活用している有名進学校もあります。当校の生徒は大半が美大に進みますが、全員がアーティストやデザイナーになるわけでありません。ここで身に付けた企画力や発想力、プレゼン力を活かした仕事をしている卒業生も多くなりました」

     女性起業家が多いことで定評がある女子美の卒業生の進路は、実に多種多様だ。本や雑貨をプロデュースする先輩や、人が集まる場を演出し、創造する空間デザイナー。広告デザインやプロダクトデザイン、ウェブショップの企画プロデュースなど、卒業生たちが活躍する分野は幅広い。

     「美術を学ぶことが、子どもたちの将来の可能性を狭めてしまうのではないかと考える保護者もいらっしゃいます。決してそんなことはなく、むしろいろんな可能性を広げてくれるのが、美術なのです。将来必要になるさまざまな力を身に付けられるのが、この学校の一番の良さ。女子美がこれまでやってきたことに、時代が追いついてきたのかなと思います」と石川校長は話す。

    新しい『自己表現入試』で生徒の裾野を広げる

    • 生徒が描いた数々の作品
      生徒が描いた数々の作品

     来年の入試から新たな試みとして取り入れるのが、作文と面談で行う「女子美 自己表現入試」だ。通常の2科・4科選択入試とは別枠で10人程度を募集する予定だ。

     作文の大きなテーマは「これからの私」。女子美に入学後、どのような学校生活を送るかを事前に想像してもらい、具体的な課題内容は試験当日に発表する。その内容に沿って20分間構想し、40分間で450字以上を作文することが課せられる。文字数ではなく、表現力や内容を重視するという。

     自己表現入試を提案・作成した一人でもある国語科の小島礼備教諭は、「小学6年生が制限時間の中でどれくらい書けるのかなど議論はありましたが、中1生に同じように書かせると、ものすごく書く力のある生徒がいるのです。そのような生徒は、後々必ず学習成績が伸びるのです。絵で思いを伝えられる子は、言葉でもちゃんと表現できる。そういう生徒を発掘できたらいいですね」と話す。

     一方、石川校長も、こう期待を寄せる。「教科の学力だけではなく、想像力や夢を膨らませる力がある子を育てていきたいという思いで取り入れました。教員の中でも賛否ありましたが、国語の先生たちがいろんな検証をして作り上げた、とても女子美らしい試験だと思います。たくさんの個性に来てもらうのがとても楽しみです」。

     さらに、「表現力の一つとして英語教育にも力を入れていきたい」とし、石川校長はこう続けた。「使える英語を身に付け、最終的に卒業制作を英語でプレゼンテーションするのが目標です。そのためのカリキュラムをこれから整えていく予定です」

     最後に、石川校長に女子美大付属の魅力を聞いた。

     「卒業生はもちろん、教員の母校愛が強いこと。若い人からかなり年配の卒業生まで、頻繁に学校を訪れて、にぎやかにおしゃべりしているのですよ。私立は教員が同じ学校に長く勤務することが多いので、卒業しても学校に来れば恩師に会えるからなのでしょうね。学校の中心に美術という共通項があり、共有できるのが女子美大付属のよい伝統なのだと思います」

     卒業しても戻ってきたいと思わせる大切な伝統を守りながら、石川校長の下、これからどんな新しい女子美大付属が生まれていくのか楽しみだ。

    (文・写真:石井りえ 一部写真:女子美術大学付属高等学校・中学校提供)

    2017年11月30日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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