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    ノーベル賞・根岸教授の講義で「知の熱気」を体感…桐光学園

     桐光学園中学校・高等学校(川崎市)で、ノーベル化学賞を受賞した米パデュー大学の根岸英一特別教授の講義が行われた。同校が実施している「大学訪問授業」の一環だ。この講義の特色は、手加減抜きに知の最前線を体感させる点にある。科学研究の最先端に目を白黒させながらも、生徒たちは知のもたらす静かな熱気を味わった。

    一流の「知」とじかに接する体験

    • 穏やかな口調で講義する根岸英一教授
      穏やかな口調で講義する根岸英一教授

     「大学訪問授業」は2004年度からスタートし、14年目を迎えた。今年度の計画では土曜日の4時限目を使い、年間23回、さまざまな分野で業績を築いた著名人、学者を招いて生徒たちに講義してもらう。一番の特徴は、中高生向けだからと手加減することなく、「大学、大学院そのままの授業」を体験させることだ。

     講壇に立つ顔ぶれは文学、経済学、政治学の研究者、作家、作曲家といった「文系」から建築学、科学の専門家などの「理系」までさまざま。知の最前線に立つ錚々(そうそう)たる著名人ぞろいだ。

     取材に訪れた7月29日は、2010年にノーベル化学賞を受賞し、米インディアナ州のパデュー大学特別教授を務める根岸英一氏が約30分間、講義を行った。

     この「大学訪問授業」は必須カリキュラムではなく、出席は生徒たちの自主性にゆだねられている。それでも、詰めかけた生徒は420席の講堂にあふれ、最後列に立ち見が出た。出席したほとんどは高校生だが、中高一貫校だけに、幼さが残る中学生の姿も見られた。

    難解な研究内容を手加減なしに

    • 420席ある講堂は満員。生徒の男女比は半々
      420席ある講堂は満員。生徒の男女比は半々

     この日のテーマは「根岸カップリング」と命名されている「パラジウムなどの元素を触媒とした有機化合物の合成」。根岸教授がノーベル化学賞を受賞した業績だ。高校生向けの「入門化学講座」ではない。緊張感が、生徒たちを包み込んでいた。

     根岸教授は穏やかな口調で、自身の孫とあまり年の変わらない生徒たちを相手に、淡々と講義を進める。専門の化学者でなければわからないような用語や略語も、話の中には含まれている。化学専攻の大学院生でも全てを理解するのは困難と思われる内容だが、生徒たちは皆、話に引き込まれていた。

     根岸教授が主に研究材料として使用していた「パラジウム」について、触媒として車の排ガスに含まれる毒性を消す働きをしていることを説明すると、「案外、身近なところで役立ってるんだ」など、講堂の各所で小さく感嘆の声が漏れていた。

     講義の後、生徒に感想を聞いた。司会・進行役に立候補したという三須大雅君は「事前に先生の著書を読んではいましたが、専門用語などは分かりませんでした。でも、『大学訪問授業』に参加すればさまざまな研究のトップに立つ人たちに会えるというメリットがあります。そんな先生方に会う機会なんて、滅多にありませんから」と話す。

     三須君と同じく仕切り役を務める井上実樹さんは「文系理系に関係なく、大学というのは何をするためにあるのか、何を学べるのかという、これから進む先のイメージを具体的に経験できるので、貴重な機会」とし、「自分が大学で学ぶことになる専門分野だけでなく、いろいろな知識を得て、展望を広げることにもつながると思います」と付け加えた。

     文系志望の2人に対して、理系の進学を目指している中村快君は「ハロゲン元素の説明以外、分からないことが多くて」と苦笑い。「根岸先生も知識を深めるために留学されたそうですが、僕も海外に出て広い視野で物を考えるようになりたいと感じました。そのためには今、勉強している英語も決して無駄ではないと納得できました。理系に進むならノーベル賞が夢ですね」と前向きに話した。

    「自分にプレッシャーをかけて大学選びを」

    • 「本物の大学教育に触れる体験こそ、生徒の未来に必要」と話す峯幸男先生
      「本物の大学教育に触れる体験こそ、生徒の未来に必要」と話す峯幸男先生

     この「大学訪問授業」に当初から関わっている峯幸男先生は「大学進学をブランドで決めるのでは、人生を左右する勉強や目標を見つけにくいと思います」と話す。「生徒たちは、実際に大学で教えている先生方と接することで、内容は専門的過ぎるとしても、何かをつかみます。大学の勉強は高校とはレベルが違います。それに圧倒される体験でもいい。いい意味で自分にプレッシャーをかけて、大学選びをしてもらいたいというのがこの取り組みの目的です」

     講義に出席した生徒には「出席カード」が配られ、生徒たちはこのカードに感想を自由に書くことができる。カードは、学校として生徒の進学の方向性や興味を知り、進学指導するための資料になる。また、講師にもこのカードは渡される。高校生の率直な考えに触れられるということで、好評だそうだ。

     講義後の質問の時間では、生徒たちもようやくリラックスし、根岸教授との会話を楽しんだ。

     ある女子生徒が「先生の人生で大切なことは何ですか?」と問いかけると、根岸教授は「一に健康、二に家庭、三に本業。仕事です」と柔らかに返し、講堂は笑いに包まれた。

     「水と油を融合させることはできますか」という男子生徒からの質問には、さすがのノーベル賞学者も意表をつかれ、一瞬キョトンとした表情を見せた。「原理的にはできます。でも、融合させて何に使うの?」

     また、「実験でいい結果が出ない時はどんな気持ちになりますか?」という質問には「失敗も一つの実験結果。次はその失敗を避ければいい。そうすれば必ず、いい結果は出ます」と根岸教授は含蓄に富んだ答えを返した。

     「何かを作りたいと思ったら、まず自分の頭で考える。すぐに過去の文献などを参考にする人は亜流です」。講義の中で、根岸教授はこう語っていた。中高生たちが根岸教授に投げかけた真っすぐな質問も、彼らのオリジナルな人生をつくる役に立つことだろう。

    (文と写真:上野玲)

    2017年11月08日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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