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    「武蔵野巡検」で見る・聞く・考える力を養う…桐朋女子

     桐朋女子中学校・高等学校(東京都調布市)は4月、中1の社会科で「武蔵野巡検」と呼ぶフィールドワークを行った。創立当時から行われている伝統の授業だ。京王線調布駅から深大寺まで、さまざまな場所を観察したり調べたりしながら、5キロ余りの行程を歩く。同校の教育の原点である、このフィールドワークに同行した。

    地元から世界へ地理の学びを広げる

    • 武蔵野巡検の目的は、「見る・聞く・考える」
      武蔵野巡検の目的は、「見る・聞く・考える」

     「武蔵野巡検の目的は、見る・聞く・考えることです。なぜだろうと考えながら歩いてください」。4月下旬、出発地点の京王線調布駅前で、社会科の吉崎亜由美教諭は生徒たちにこう呼びかけた。

     普通、中1の社会科の学習は世界地理から始まるが、同校ではまず地元、調布の地理を観察することから始める。「秋には銀座を訪れ、客や専門店の様子を自宅周辺の商店街と比較します。比較することで、調布から東京、関東、日本、世界へと広げて地理を学びます。この学び方は70年以上前の創立当初から変わりません」と吉崎教諭は説明する。

     この日の武蔵野巡検に出る前に、生徒は学校の屋上から街を眺めて観察し、立体地図を見て、地形図や地図記号を学んで準備していた。

    • 農地と住宅が混在している地域で、生産緑地を見学
      農地と住宅が混在している地域で、生産緑地を見学

     調布駅から歩いて5分ほどで、住宅地と農地が混在している地域に差し掛かった。「駅前とはどう違いますか。建物はどんな種類ですか」。吉崎教諭が投げかける質問に、生徒たちが口々に答えていく。「そうですね。1970年代、このあたりは畑でした。航空写真で比べてみましょう。比較が大事です。では、なぜ農地が減ったのでしょう。農家の立場で考えましょう。次は住宅に住む人の立場で考えましょう」

     吉崎教諭は終始、生徒に疑問を投げかけ、考えを促していく。生徒たちは先生の言葉を、一言も漏らすまいとメモを取っては、真剣に風景を見回す。耳と目をフル回転させて初めて、地元の地理について考え、発言するスタートラインに立てる。

     「みなさんが予習した生産緑地がこの農地です。農地の税制が変わったのが1992年。生産緑地に指定された農地は固定資産税が安くなる代わりに、30年間農業を続けないといけない。では、住宅や駐車場は? そうです、生産緑地ではないところが宅地や駐車場に変わったのですね。このように農地だったところに住宅や駐車場がまばらに立ち並んでいる状況を、スプロール現象といいます」

    メモが取れるのは「聞く力」がある証拠

    • 調布市内で唯一の牧場を見学
      調布市内で唯一の牧場を見学

     次の観察地点は調布市唯一の牧場「小野牧場」だ。生徒は先生の話を聞き、観察し、スケッチを始める。

     「1970年代頃までは調布市内には、このあたりに牧場がいくつもあり、牛乳工場もありました。なぜ牧場が減ってしまったのでしょう。住宅地の中で、狭い牧場で飼育するために、どんな工夫をしているでしょう」

     先生が説明を加えていく。牧場では18頭の牛に2種類のエサを与えていること、アメリカから輸入する干し草が値上がりしていること、オスは精子を売るか牛肉にすること、牛の耳に付けられた黄色いタグは、狂牛病が流行した後に導入された牛トレーサビリティー制度に従って、1頭1頭管理するためのものであること、など。

     生徒たちは先生のさまざまな説明に耳を傾け、メモを取る。古川千乃さんは、「狂犬病は知っていたけど、狂牛病は知らなかった。牛トレーサビリティー制度については初めて聞いた」と話す。野村湖春さんは、「調布はよく来るので知っていると思っていたのに、知らないことだらけ。こんな都会で牛を飼っているとは思わなかった」と目を見張っていた。

    • よく見て、聞いて、びっしりとメモを取る生徒たち
      よく見て、聞いて、びっしりとメモを取る生徒たち

     この後さらに、標高を決める基準となる水準点の見学や、甲州街道の旧道・新道(バイパス)と中央自動車道についての交通量調査、湧き水が出る崖の地層観察など盛りだくさんのメニューをこなした。そのたびに生徒たちは真剣にメモを取り、考え、発言していく。

     吉崎教諭は「メモがしっかり取れる生徒と、ノートが真っ白な生徒の間にはかなり力の差があります」と話す。「本校ではノートをしっかり取る力をつけるため、あえて普段でも黒板にすべて書くことはしません。ですから、ノートは一人一人違います。ノートがしっかり書ける生徒は聞く力があるのです。目で見て、説明を聞いたあとに、なぜだろうと考え続けることが大事です」と話した。

     生徒たちはこの日のフィールドワークから自分でテーマを決め、興味・関心に沿って調べ、リポートを仕上げることになっている。長さは400字詰めの原稿用紙で8~15枚。中1にとってはかなりの長さだが、中1の時点からこうして自分の考えをまとめる訓練をしていくのだ。

    創立当時からアクティブラーニングだった

    • 桐朋女子の学習スタイルを語る吉崎教諭(左)と渡邉教諭
      桐朋女子の学習スタイルを語る吉崎教諭(左)と渡邉教諭

     「最近の学生はリポートが書けないと大学教授が嘆いていますが、本校の生徒には当てはまりません」と吉崎教諭は話す。同校は、この武蔵野巡検をはじめ、社会科や理科、家庭科などあらゆる教科で、調べ学習や発表学習をしているからだ。高1の現代社会では、全員がレジュメを作り、先生に代わって授業をする。「教育実習生顔負けの授業をする生徒もいます」

     高校の社会科も同校独自のカリキュラムが組まれている。社会科の渡邉千景教諭によると、高3の総合社会特講では、生活保護、農業などさまざまな分野を、生徒たちがグループで取材して発表するという。高3地理Aでは、弁護士や大学の研究者を招いてワークショップを開いたり、「私が起こしたい変化」をテーマにプロジェクト学習を行ったりする。また、高校の自由選択科目では4泊5日で八ヶ岳高原寮を利用した地理実習を行う。川の水質検査や測量をするなど本格的な内容だ。

     同校は創立以来、観察する力、聞く力、考える力、まとめる力、発表する力を身に付けさせ、創造力豊かな女性を育成してきた。それは近年、必要性が叫ばれているアクティブラーニングにほかならない。大学教授、アナウンサー、作家、写真家、国連職員、医師などさまざまな分野で活躍している卒業生の存在が、同校の教育の先見性を物語っている。

     (文と写真:小山美香)

    2018年05月25日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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