文字サイズ
    中学受験サポートに協賛する会員校の特色や、会員校からのお知らせなどを掲載しています。

    全学的体制で始動「21世紀型教育」…明法

     男子中高一貫校である明法中学・高等学校(東京都東村山市)は今年度、新校長に下條隆史氏を迎え、プロジェクトチームを主軸に「21世紀型教育」を教科横断で実施することになった。この教育のベースとなる「21世紀型スキル」について、この教育思想の発祥地であるアメリカで学んだ鎌倉好男教諭に話を聞くとともに、実際の授業を取材した。

    「21世紀型スキル」の本格導入へ

    • 新校長に就任した下條隆史氏
      新校長に就任した下條隆史氏

     「21世紀型教育」をリードしている英語科の鎌倉好男教諭によると、この教育の土台となる考え方は「21世紀型スキル」と呼ばれる。IT化、グローバル化した社会を生きる能力として2000年代初頭のアメリカで生まれた考え方で、中学・高校の教育においては「四つのC」と呼ばれる中心的なスキルがあるという。「Creativity(創造性とイノベーション)」「Critical Thinking(批判的思考と問題解決)」「Communication(コミュニケーション)」「Collaboration(他者との協働)」の四つだ。

     鎌倉教諭が「21世紀型スキル」の考え方に出会ったのは、明法の教員のまま2009年から11年にかけてアメリカの大学院に留学したときだった。リーマン・ショック後の世界同時不況や進展するグローバル化の空気を肌で感じ、これからを生きる人間には「イノベーション」の資質と「異文化理解」の意識が欠かせないと実感。米教育界に浸透しつつあった「21世紀型スキル」こそ、子供たちが身につけるべき能力と見定めて研究を始めた。大学院修了後も、教育関連のNGOとのタイアップや業種間交流を通して知見を広げてきた。

    • 「21世紀型教育推進部」専任部長の鎌倉好男教諭
      「21世紀型教育推進部」専任部長の鎌倉好男教諭

     このスキルを生徒に身につけてもらうために、2013年に鎌倉教諭が中心となって英語力強化と留学を柱とするプログラム「明法GSP(グローバル・スタディーズ・プログラム)」に、高校2、3年対象のオリジナル文系選択科目「21世紀」を組み込んだ。授業はすべて英語で行い、インターネットでアメリカの高校生と共同学習を行うなど、先進的な取り組みを重ねている。題材は、米大統領選の選挙演説を日本の国益の観点から討論するなど実際的だ。

     そして今春、新校長に就任した下條隆史氏が、この革新に弾みをつけた。従来からの教育方針「本物に触れる体験」「難関大学合格」に加えて「批判的・仮説的思考力の育成」を掲げ、科目「21世紀」で磨いてきた授業手法を、中・高全学的に実践する方針を打ち出した。これが「21世紀型教育」だ。

    「四つのC」を育てる授業

    • 中1GEクラスで行われた英語の授業
      中1GEクラスで行われた英語の授業

     旗振り役である下條校長の信任を受けて、今年度から鎌倉教諭は「21世紀型教育推進部」専任部長に就任し、各教科の担当メンバーと共に授業改革を進めている。「21世紀型教育」は、既に各授業に導入されつつある。まず、推進部メンバーの荒川真教諭による中1GEクラス(12人)の英語の授業を見てみよう。

     授業は英語の早口言葉で始まった。“Peter Piper picked a peck of pickled peppers.”など、何度か練習してきた3つの有名なフレーズを、だんだんテンポを上げて発声する。その後、英語の発音規則を折り込んだ歌を全員で歌い、さらに荒川教諭のギター伴奏でジョン・レノンの「Imagine」を歌うなどした後に、教科書の内容に入った。

     この日の単元は「Is this~」型の疑問文と答え方。デジタル教科書を併用してリスニングや単語確認、音読などを行った後、ペアを組んで会話スキットを演じる。演じる際には、「目を合わせる」「はっきり話す」「笑顔と身振り」という課題が提示されているが、今回はさらに「ペアで話し合って文を一つずつ追加する」が加わった。

     数分間話し合った後、6組のペアが順番に教壇で発表する。主人公が友人の部屋に行き、室内にあるものについて質問するスキットだ。生徒たちは予定のスキットに文を追加していく。「これはゴキブリ!?」「違うよ、ゲームのコントローラーだよ」といった冗談や、「隣の部屋はホームシアターだ。一緒に映画を見よう!」と、ストーリーを新たに展開させるものなど様々だった。荒川教諭はこの発表をiPadで録画し、良かった点や改善点の検討を促す。

     20分ほどの発表だったが、「答えを創造し」「話し合い」「協働して発表」と、「四つのC」の要素が織り込まれていた。

    正解は一つではないことを学ぶ

    • ペアで会話スキットを練習する
      ペアで会話スキットを練習する

     学年が上になると、授業での「創造性」や「批判的思考」の要素が色濃くなるという。その一つが中3英語の「教科書につっこみを入れる」という課題だ。たとえば「This is a pen.」のように、単独では違和感のある表現を見つけて、自然な流れになるよう前後を創作する。例えば、変わった形のペンを持って留学に行った日本の学生が、現地の学生に「それ何?」と聞かれ、「ペンだよ」と答えるなどの状況を英語で考えていくのだ。

     「21世紀型教育」を取り入れるのは英語ばかりではない。中2の数学では、解となるX,Yの値を先に決めて、この値を持つ「オリジナルの連立方程式」を4人1組で討論しながら作成する授業がある。教科書の模範例的な解答もあるが、分数や括弧を多用して複雑な式を作り出し、教員を驚かせることもある。

     高校2年の地学では、「地球は本当に丸いのか?」と、あえて問う授業がある。スマートフォンのGPS機能を活用して緯度、経度を測定したり、歩測で距離を測ったりして、「実は楕円形である」という事実を自力で導き出す。各教科でこうした実践を行い、ノウハウの蓄積を進めている。

    アクティブラーニング、ICTありきではなく

    • 発表の様子を録画し、良かった点や改善点を検討する
      発表の様子を録画し、良かった点や改善点を検討する

     「21世紀型教育」は、同校が研究、開発してきたユニークな教育であるが、アクティブラーニングの考えや2020年大学入試改革にも適合している。実際、授業ではアクティブラーニングの手法も使われるし、ICT機器も活用されるが、鎌倉教諭は「当校ではあくまで『四つのC』の育成が目的です。その手法としてアクティブラーニングやICTを活用しているに過ぎません」と強調した。流行の教育手法を表面的になぞることではなく、その手法を生かす精神が重要なのだという信念がうかがえた。

     明法は、進学校として実績を知られる存在だが、受験だけにとらわれて視野を狭めることなく、来たるべき社会の姿を見据え、これからを生きる子供たちの教育に生かしつつある。2019年度から、国際教養力で貢献できる人材を育てる「国際理解コース」、やり抜く力で社会の中核となって貢献できる人材を育てる「進学GRITコース」、「科学」×「問題解決力」で貢献できる人材を育てる「サイエンスGEコース」の3コースを新設するのも、その考えの表れといえる。

     こうした同校の取り組みが創っていく、日本の新しい若者像に期待したい。

    (文・写真:上田大朗、一部写真:明法中学・高等学校提供)

    2017年08月08日 15時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    おすすめ
    PR
    今週のPICK UP