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    【講演】深く、長く考え続けること…宮本哲也<2>

    低学年の間にやるべきでないこと

    • 「『できない』『分からない』経験が学力を育てる」と話す宮本氏
      「『できない』『分からない』経験が学力を育てる」と話す宮本氏

     お子さんが低学年の間にやるべきでないこと。それは、小学校の内容を先取りするタイプの学習塾での算数とそろばんです。先取り型の塾の国語や英語は、ありかもしれません。否定しているわけではないのです。その教材に心底ほれこんでいるのなら、最終教材までやればいいし、そろばんが大好きなら、そろばん塾で一番を目指せばいいのです。でも、皆さんが目指しているのは、その方向ではないですよね。

     なぜ低学年の間にそれらをやるべきでないのか。そういうタイプの塾は、そもそも学校の成績を上げるためのものです。先取り学習をしていれば、学校で出される問題はすらすら解けますし、テストでは簡単に100点が取れる。

     でも、この場合の成績とは、学力とは一致しません。そこで先取りしても、しょせん教科書レベルなのです。頭をフル回転させることはないし、分かることより、できることが優先されます。本来、ある程度の学力にたどり着くには、たくさんの「できない」「分からない」を経験しなければならないのです。公式にあてはめて答えを出しても意味がないし、楽しくもない。

     性質がまったく異なる年子の姉妹がいました。2人同時に先取り型の塾に入れたところ、姉は、開塾以来見たこともないくらいよくできる、「天才だ」「神童だ」ともてはやされました。妹は、「こんなのは絶対いや」と1日で逃げ出しました。その後、2人とも当時私が勤めていた大手進学塾に入ってきました。姉は算数がさっぱりできません。自分の頭で考えることがまったくできないし、そもそも算数に興味がない。6年生の後半になっても、授業中に問題を解かずに漫画を描いていました。

     一方、妹は、「これは面白い」と私の算数にはまりました。姉は文系に進み、作家になりました。妹は理系に進み、医者になりました。「習っていないからできない」という子が、先取り型タイプの塾の出身者には少なからずいます。意味が分からなくてもすらすら解けるのは簡単な問題だけなので、そこでいくら先取りをしてもレベルの高い中学の入試問題を解けるようにはなりません。

    すらすら解けることはいいことなのか

     そもそも算数の問題をすらすら解けることはいいことなのでしょうか。うちの教室には算数のものすごくできる子が、たくさんはいませんが各学年に1人はいます。彼らのほとんどは、学校の算数の授業が「楽しくない」と言います。どうして楽しくないのか。問題が簡単過ぎて頭に負荷がかからないから楽しくないのです。すらすら解けることを目指すのは大間違いなのです。

     速くできることがいいことだという価値観を小さいうちに植えつけてしまうと、算数の学力を高めるために最も重要な資質が、あっという間に失われてしまいます。それは、こらえ性です。こらえるという言葉から、「辛いけど頑張る」というイメージが湧くかもしれませんが、そういうのではありません。この場合のこらえ性とは、「考えを温める」と言い換えることができます。

     こらえ性がないとどうなるのか。問題を出されたら1秒でも速く答えを出して、終わりにしようとする。理解できているかできていないかは、どうでもいい。考えずに答えを出すから見直しもできない。答えを書いたら自分の役割は終わり。「速くできることはいいことだ」を裏返すと、「速くできないことは悪いこと」となるのは当たり前です。

    問題を解いた後、もう一度解く

     小6の娘を持つお父さんから、夏休み前に1通のメールをいただきました。「算数の成績がどうしても伸びない。先生の教室に入れてください」。試しに1学年下の5年生のクラスに入れてみました。問題を出すと、ものすごく焦ってすぐに答えを出そうとする。そして、答えを書いた瞬間、気が抜ける。見直しもしないし、書いた答えも間違えている。非常に分かりやすい子でした。

     授業後、私からお父さんへアドバイスのメールをお送りしました。「問題を解いたら、もう一度同じ問題を読み返す、もう一度解く。家庭学習でこれを習慣づけてください。解く問題の数が半分に減ってもかまいません」。とても素直な子で、それを実践しました。2回目の授業では、焦ることなく問題を解き、答えが出たらもう一度解くようになりました。授業中の問題が、徐々に解けるようになりました。1か月も経たないうちに、算数の偏差値が10以上上がりました。夏休み明け、6年生のクラスに移しました。順調に伸び続け、第1志望の桜蔭に合格しました。大事なのは速く解けることではありません。深く、長く考え続けることです。

    • (C)Wakaba Hoshino Miyamoto
      (C)Wakaba Hoshino Miyamoto
    プロフィル
    宮本 哲也( みやもと・てつや
     早稲田大学第一文学部卒業後、当時日本一の進学塾だったTAPに入社。SAPIX横浜初代教室長を経て、1993年、横浜に宮本算数教室設立。2009年に教室を東京に移し、今日に至る。2006年に出した「賢くなるパズル」(学研)はシリーズトータルで220万部を越えるベストセラーに。「賢くなるパズル」のメインである「計算ブロック」は英名KenKenで、世界10か国で翻訳出版されていて、読売新聞、NewYorkTimesなど国内外の多くの新聞、雑誌に連載されている。

    2018年06月11日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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