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    教授の特別授業で「違った視点」を開く…秀明八千代

     秀明大学学校教師学部の附属中である秀明八千代中学校(千葉県八千代市)は、そのメリットを生かして、同大教授陣による特別授業を実施している。専門知識を背景に工夫を凝らした講義は、生徒たちに普段と違った切り口で知識の世界を開き、新鮮な驚きを感じさせるという。大学の教室で学ぶ、生徒たちの様子を紹介しよう。

    どっちの糸が切れるかな?

    • 田中教授による物理の特別授業
      田中教授による物理の特別授業

     特別授業は、同校が2015年に附属中となったのを機にスタートした。英、数、国、理、社の5教科について、学年ごとに1回ずつ計15回、実施している。生徒たちは、バスで10分ほどの距離にある秀明大の学校教師学部を訪れ、アカデミックな雰囲気の中で大学教授たちの講義を聴く。

     取材に訪れた7月12日は、中2生を対象に、田中(はじめ)教授による物理の実験が行われた。さまざまな専門器具に囲まれた理科実験室で、生徒たちは3人ずつ9班に分かれ、それぞれのテーブルを囲んだ。

     各テーブルの周囲には、背丈以上の高いスタンドの間に、鉄のポールを水平に渡した実験装置が置かれていた。生徒たちは、田中教授の指導に従い、このポールに糸を結び付け、その先にガムテープのロールを結んで()り下げた。さらに、このロールの下の方にも糸を結び付けて、こっちは垂らしておく。これをポール1本につき、3セット用意した。

     準備を終えた生徒たちが、今から何が始まるのかと興味津々の表情で田中教授に注目していると、「さて、この下の糸を引くと、どうなると思う」と質問が飛び出した。ある生徒が、「ロールの上の糸が切れる」と答えた。

     田中教授が、素早く糸を引いて見せると、ロールの下の糸がプツッと切れた。「種明かしをすると、君たちが『上の糸が切れる』と答えたから、素早く引いて下の糸を切った。『下の糸が切れる』と答えたら、ゆっくり引いて上の糸を切るつもりだったんだ。ちょっと意地悪だったかな。でも、なぜそうなるのか、糸を素早く引いたり、ゆっくり引いたりしながら考えてごらん」

    • ガムテープのロールを利用して「慣性」の法則を学ぶ
      ガムテープのロールを利用して「慣性」の法則を学ぶ

     やがて、田中教授は黒板に「〇〇の法則」と書き、「この〇〇に入る言葉が分かるかな」と、一人一人の顔を見回した。「聞いたことはあるんだけど」「えーっと、なんだっけ」と首を(かし)げる生徒もいれば、「あっ、分かった」と得意げに声を上げる生徒もいる。

     「そう、これは『慣性』の法則。糸の引き方の強弱で切れる個所が違ってくるのは、慣性の法則が働くからです。物体には、止まっているものは止まり続け、動いているものは動き続けようとする力が働きます。なかなか運動を変えようとしない力、とも言える」

     糸を素早く引くと、上に結んであるガムテープのロールの質量が慣性として働くので下の糸が切れ、ゆっくり引くとロールの慣性が働かず、むしろその分の質量も引く力に加わるので、上の糸が切れる仕組みだ。

    一番速く移動する球はどれかな?

    • 「一番速く移動する球はどれか」を考える実験
      「一番速く移動する球はどれか」を考える実験

     今度は、「一番速く移動する球はどれか」を考える実験だ。実験装置は、黒板にテープで貼り付けた透明な樹脂製パイプ。パイプは、向かって左方向へ緩やかに傾きを付けてある。実験では、パイプの右の口から直径10センチのスチール球と、同じ直径のガラス球、直径3センチのガラス球の三つを転がし、どれが一番速くパイプ内を通過するかを調べた。生徒たちの予想はさまざまだったが、正解は「同じ時間で移動する」だ。

     「物体が落下するのは、引力=重力が働いているからで、物体は大きさや重さに関係なく同じ加速度で落下し続けます。三つの球がパイプの出口まで同じ時間で移動したのは、この力が働いたから。さっきの糸を切る実験と違って、こっちには慣性の法則は当てはまらない。なぜなら、引力という別の力が働き続けるからです。ちょっと難しかったかな」

     理科の実験を終え、秀明大の学生食堂でランチを取りながらくつろいでいた生徒たちに、授業の感想を聞いてみた。「自分で手を動かして実験するので、分かりやすかった」「慣性の法則って、名前だけは知っていたけど、ちゃんとは知らなかった。今日は慣性の法則を体感した気がする」「特別授業は今日で7回目。毎回ワクワクする」と、明るい答えが返ってきた。

     大学で授業を受けることについても、「アカデミックな環境に身を置くと緊張感があっていい」「中学生のうちに大学で学べるのは得難い経験」と、やる気まんまんだった。

    「高度であっても分かりやすい」

     「田中先生は化学が専門ですが、ぜひ中学生に物理の面白さを教えたいと、毎回、生徒たちの目が輝くような実験を考案してくれます」と、富谷利光校長は話す。学校教師学部に在籍する教授たちは、「教えること」の専門家だ。「高度ではあっても、分かりやすい」と富谷校長は太鼓判を押す。

     「昨日は、中3生が和算の特別授業を受けました。ねずみ算など日本古来の数学の知恵を学んだわけですが、アンケートに『計算が苦手だったけど、数学に興味を覚えた』と答えた生徒もいました」

     中2生を対象として、5月に行われた国語の特別授業では、推理小説を教材にして、随所に張り巡らされた伏線をひも解き、文学の「仕掛け」について学んだ。同じく5月に中3生を対象とした社会の特別授業では、「チョコレートから世界史を眺める」をテーマに、南北問題やフェアトレードの考え方にまで話が及んだ。

     「和算を学んだ生徒が言うように、違う環境で違うふうに事に当たると、苦手意識が緩和される傾向があるようです。それに、生徒たちの間に『大学っていいな、大学で学びたいな』という素朴な憧れが醸成されるのも、この特別授業の成果の一つでしょう」

    教育改革の最先端を行く授業

    • 秀明大教授陣による特別授業について語る富谷利光校長
      秀明大教授陣による特別授業について語る富谷利光校長

     生徒たちが、この特別授業についてしばしば口にする感想は、「違った視点から教えてもらうので新鮮味がある」ということだそうだ。「最近、この『違った視点』が、とても重要だと分かってきました」と富谷校長が話す。

     「教育改革が進み、学習指導要領が変わることで、今後は、正解のある学びから、正解のないことにチャレンジする学びにシフトしていきます。そのとき必要なのは、教科書に載っている個々の知識ではなく、各教科を横断する知識や、それぞれの教科特有のものの見方や考え方。それがまさに、『違った視点』なのだと思います」

     富谷校長によると、小・中・高の教科書の内容は、大学で研究されている親学問を背景としているが、生徒が教科書から親学問の考え方をうかがい知るのは難しいという。その点、特別授業のメリットは、教授たちが、その親学問の本質を生徒たちにどう教えるかを考えて展開している、という点だ。「これはまさに、教育改革の先端を行っているのではないでしょうか」

     特別授業を通して、生徒たちは大学への素直な憧れを育んでいる。「違った視点」を学ぶことは、進学だけでなく、その先を見通すキャリア教育にも役立つことだろう。

     (文・写真:松下宗生、一部写真:秀明大学学校教師学部附属 秀明八千代中学校提供)

    2018年02月01日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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