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    危機乗り越え、絆を深めた野尻湖キャンプ…東洋英和

     東洋英和女学院中学部・高等部(東京都港区)は今夏も、長野県の野尻湖湖畔でサマーキャンプを実施した。戦前から続くこの「野尻キャンプ」なしには、東洋英和の教育は語れないという重要行事だ。生徒、卒業生、教師、保護者らが文字通り、汗を流し、実り豊かな伝統につくり上げてきたキャンプの様子を見てみよう。

    豊かな自然と充実のキャンプ施設

    • キャンプサイトのすぐ前に野尻湖が広がっている
      キャンプサイトのすぐ前に野尻湖が広がっている

     「東洋英和野尻キャンプサイト」は、野尻湖東岸の奥まった入り江に位置している。観光エリアから離れた静かな場所だ。中学3年生から高校生3年生までの希望者計90人が、今年7月31日から8月5日の5泊6日、ここでキャンプ生活をした。

     キャンプサイトの収容人員は150人。生徒たちが泊まる10棟のキャビンや管理棟、食堂を兼ねたメインホール、各種の水上スポーツ施設などから構成されている。中でもメインホールはキャンプサイトの象徴的な施設で、ノアの箱船を伏せたような天井デザインや、素材な木の感触が印象的だ。景観も素晴らしく、ここから一望できる湖のかなたには、雄大な黒姫山がそびえている。

     取材に訪れた8月2日は、水上アクティビティーの選択プログラムが実施されていた。エンジンボートに同乗し、湖上で生徒たちの姿を探すと、ヨットを操って湖上のコースを周回するチームや、伴漕(ばんそう)のボートに囲まれ隊列を組んで遠泳するチーム、カヤックやボートで対岸へ遠征するチームに分かれ、奮闘していた。

    • ボート、カヤック、ヨットなどさまざまな船をそろえている
      ボート、カヤック、ヨットなどさまざまな船をそろえている

     キャンプサイトに用意されているのは、3人乗りローイングボート21隻、カヤック17隻、カッター2隻、8人乗りビッグカヌー1隻、ヨット12隻、エンジンボート2隻。これらを活用し、ヨット、カヤック、ボート、スイミングから1種目を選んで毎日約3時間、湖上で汗を流す。

     期間中にこのプログラムを4回行い、段階を踏んで力をつけていく。最上級の遠泳チームは、実質2時間も湖面を泳いでいたといい、そのたくましい姿に目を見張らされた。

    教員がスキルを磨いて安全管理

     

    • キャンプディレクターの北崎・高等部教頭(右)とキャンプマザーの黒澤路子教諭
      キャンプディレクターの北崎・高等部教頭(右)とキャンプマザーの黒澤路子教諭

     水上プログラムの指導は外部インストラクターに任せることなく、教員と卒業生が引き受ける。キャンプディレクターの北崎勝彦・高等部教頭によると、5年ごとに教員向けのリーダーズキャンプを実施し、専門家から技術や安全管理の指導を受ける。そこで、伝統として培ってきた東洋英和の野外教育の精神を教師間で共有する。

     安全管理においては常に最新技術の習得に努めており、心肺蘇生法やレスキュースキル、サバイバルスイミングなどの訓練を行っている。これまでのキャンプで、事故は起きていないという。

     同校に務めて3年目という英語科の家永和己教諭は、「採用の最終面接で『泳げますか』と聞かれ、不思議に思ったのですが、夏になって質問の意味が分かりました。海の日に初めて野尻を訪れ、開寮作業、教員向けリーダーズキャンプ、中2夏期学校、訓練キャンプ、そして野尻キャンプと一夏、野尻で過ごしましたからね」と振り返る。

     設備面でも、校名の入ったボートはもちろん、キャビンやホール、ヨット施設など、すべてが自前だという。まさに手作りのキャンプなのだ。

    OGのリーダーは憧れの存在

    • リーダーは毎朝、生徒の健康などの状況を報告し、教員と対応を確認する
      リーダーは毎朝、生徒の健康などの状況を報告し、教員と対応を確認する

     キャンプで伝統となっているのは、教員とともに卒業生の大学生たちが生徒の指導にあたることだ。彼女らは「リーダー」と呼ばれる、頼もしい存在だ。

     キャンプ中、90人の生徒は学年混合で10人ずつのグループに分かれて行動する。この9グループに18人のリーダーが2人ずつ付いて、生徒たちの体調や行動に細かく目を配る。生徒たちを見守るリーダーの存在があるからこそ、生徒たちは安全に、伸び伸びとキャンプ生活に集中できる。

     アメリカの大学に通う吉田恵さんは、リーダーとして参加できるように、野尻キャンプの時期に合わせて帰国した。「リーダーは、在校生にキャンプを楽しませるだけでなく、時には叱りもします。先生ではないけれど生徒の中に入って、まとめる役割です。リーダーは憧れの存在で、私は高1のときリーダー育成のための訓練キャンプに参加しました。水泳、ボートなどの技術習得だけではなく、安全に関する知識やリーダーとしての心得などをたたき込まれました。また、リーダーとして帰ってくる私たち卒業生自身が一人の女性として年々育っていくのも、英和のキャンプです」

     早稲田大学1年生の野口華子さんは「女子校だからこそ、思いっきり自分を出すことができます。野尻キャンプでは心の底から笑えるし、泣きもする。感情の振れ幅が思いっきり広がります。大好きな野尻に、リーダーとして帰ってこられたことがうれしいです」と話した。

     どのリーダーも、自分が味わった野尻での良い思い出を、在校生に味わってほしいという気持ちでいっぱいのようだ。

    歌い継がれるキャンプソングの数々

    • 朝夕の礼拝は戸外で行われ、湖畔の涼しい風の中で祈りの時間を過ごす
      朝夕の礼拝は戸外で行われ、湖畔の涼しい風の中で祈りの時間を過ごす

     プログラムで力を出し切った生徒たちは、各キャビンでぐっすり眠り、8月3日は朝5時半に起床した。掃除の後は礼拝。朝食を済ませ、午前のアクティビティーへ。昼食の後、軽く昼寝をして、再び午後のアクティビティーへ。戻ってくると入浴し、夕の礼拝。聖書を読み賛美歌を歌い、牧師の言葉に耳を傾ける。豊かな自然のなかで自分を見つめ直す。そして夕食だ。

     「午後9時半の就寝前にリーダーや仲間と話す、キャビンアワーが楽しみ」「良い意味で暇がない」など、生徒たちはキャンプ中、あわただしくも充実した日々を過ごす。高1のYさんは「昨年初めて参加しました。毎日が楽しくて、スマホなしでも平気なんだと驚きました。今年は私からみんなに声をかけています。昨年そうしてもらって、とてもうれしかったから」と話す。

     今回初めて参加した高1のKさんは「こんなにたくさん歌があるんだって、驚きました」と、キャンプソングブックを見せてくれた。70ページもある冊子には、かつて学院で音楽教員を務めた音楽家の富岡正男氏による「美しい湖水よ」をはじめ、英和生がキャンプで歌い継いできたオリジナル曲が多数載っていた。

     社会科の松木強先生は「長時間のカヤック漕艇(そうてい)は単調なので、生徒は歌いながらこぎます。それに食事の後片付けとか、ちょっとした隙間時間にもキャンプソングを歌いますね。それも、『さあ、歌いましょう』というのではなく、リーダーが歌いだすと、生徒たちが唱和して自然と歌声が広がっていきます。プログラムとして歌を指導するのではありません。英和の文化なのです」と話した。

    父親や卒業生たちの行動が「野尻」を救った

    • 最終夜のキャンプファイアでは、涙する生徒も
      最終夜のキャンプファイアでは、涙する生徒も

     豊かな自然環境、整備されたキャンプサイト、リーダーの伝統など、生徒たちを支えるキャンプ環境は今でこそ充実しているが、過去には2度大きな危機があったという。それをいかに乗り越えてきたか。北崎教頭は、最終夜のクロージングキャンプファイアで、生徒たちに話した。

     最初の危機は、第2次世界大戦の翌年だった。「初めてのキャンプは1937年に行われました。日本のキャンプ教育の草分けといえる時期です。しかし、終戦の翌年、生徒が少なく、あまりにも学校経営が厳しかったため、持っていたキャンプ場を手放すことを余儀なくされたのです。1950年には野尻湖畔のYMCAのキャンプ場で再開しましたが、それまで行ってきた英和らしいキャンプをするには、やはり独自の施設が必要と考え、1970年に購入したのが現在の場所です」

     2度目の危機を迎えたのは、1990年代の半ばだ。教科指導や生徒指導の大幅な改革が図られ、夏の始まりに行うキャンプサイト開寮準備に、十分な時間を割く余裕がなくなっていたという。この流れを変えたのは、生徒の父親や卒業生たちの行動だった。

     事情を知った父親たちが「できることがあればお手伝いしますよ」と学校側に声をかけてきた。これをきっかけに始まったのが、今年21回目を迎えたオープニングキャンプだ。最初は十数人で始まったが、現在では在校生から卒業生までの父親有志80~90人が7月中旬に野尻へと足を運び、さまざまな作業にあたっている。

     また同じ頃、施設の老朽化も問題となった。安全のための維持管理費は多大で、建て替えを前提に検討した費用は膨大な額に上ることが指摘されていた。そのため、キャンプサイトを手放し、大きな経費がかからない施設を新たに設ける案も出され、実行に移される寸前だった。このことを知った卒業生たちが「英和のキャンプ教育、私たちの野尻を守ろう」と「野尻基金」を発足させた。

     最初9人の卒業生が声をかけ合って作った基金は、その後大きな広がりを見せ、野尻Tシャツなどオリジナルグッズの販売収益を合わせると、野尻の教育活動を支えるまでの規模になった。野尻湖で使うボートなどの備品は、この基金を利用して購入されている。

     「この卒業生たちの思いが学校に伝わり、『野尻』の存続が決まったのです。ボートをはじめとした備品を充実させ、2007年にはメインホールも完成しました。『野尻』には人を引き付け、大好きにさせてしまう力があります」

     「敬神奉仕」の標語を掲げる同校の精神は、互いを愛し、隣人のために尽くすことにある。この精神が「野尻」という場をつくっている。生徒たちだけでなく、参加するすべての人がそれを確かめ合い、支え続けている。

     (文と写真:水崎真智子 一部写真:東洋英和女学院中学部・高等部提供)

    2017年11月01日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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