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    新校長「生徒の人生設計後押ししたい」…品川女子

     品川女子学院(東京都品川区)高等部の新校長として4月、都立三鷹中等教育学校の校長を務めた仙田直人氏が着任した。大正時代から続く女性教育の伝統を踏まえ、「28プロジェクト」など新たな人づくりのプログラムを推進する同校で、仙田校長に期待される役割、教育方針などを聞いた。

    「若き日にバラを摘め」

    • 「生徒の人生設計を後押ししたい」と語る仙田直人校長
      「生徒の人生設計を後押ししたい」と語る仙田直人校長

     仙田校長は、着任して臨んだ4月の始業式で、生徒たちに「若き日にバラを摘め」という言葉を贈った。

     「瀬戸内寂聴さんの『今日を生きるための言葉』から引用したものです。瀬戸内さんは、その意味を『美しいバラを摘むと(とげ)で血が出ますが、若いうちは()めておけば治ります。傷つくことを恐れず、何でも試してみてください』と言っています。校章がバラで、校歌の冒頭にもバラが出てくる上、常にチャレンジする姿勢を持つ品女の生徒にふさわしい言葉だと思いました」

     同校は「私たちは世界をこころに、能動的に人生を創る日本女性の教養を高め、才能を伸ばし、夢を育てます」という「ミッション」を掲げている。仙田校長が贈った言葉は、このミッションに調和して、生徒たちの耳に響いたことだろう。

     仙田校長は大学卒業後、1年間の企業勤務を経験して教職に就き、いくつかの都立高校で教壇に立った。都教育委員会で主任指導主事も務めている。前職は都立三鷹中等教育学校の校長で、学校改革の先頭に立って大学合格実績を上げてきた。また、専門は日本史で、30歳代から日本史用語集や日本史の教科書・問題集を執筆している。

     品川女子学院は、生徒の「学力向上」や「キャリア教育」「受験対策」などを推進するうえで、仙田校長のこうした多様なキャリア・能力に着目した。

     「前任校では『胸は祖国に置き、目は世界に注ぐ』という言葉を生徒たちに伝えてきました。その根幹にあるのは品女の『私たちは世界をこころに――』の教育目標と同じです」

    ミッション実現のため、完全中高一貫校化

     同校は、女性にまだ参政権がなかった1925年、社会で活躍する女性の育成を目指して創立された。その女性教育の伝統は不変だが、現在の同校を語る上で欠かせない二つの大きな取り組みがある。

     一つは1990年代に、先のミッションを掲げたことだ。このことが、2004年の完全中高一貫校化へとつながった。単なる学力を超えて人間づくりを目指す、この高いミッションを果たすには、高校の3年間だけでは短すぎるという現実があったからだ。

     高校入試は、質の高い生徒を確保する貴重な機会であり、財政にも資するものだったが、ミッションを守るために、同校は大きく(かじ)を切った。この決断をしたのは、今年2月、第4代理事長に就任し、中等部校長を兼務する(うるし)紫穂子(しほこ)氏だ。

     同校の創立者・漆雅子を曽祖母とする漆理事長は、「女の子が幸せになる子育て」「女の子が幸せになる授業」などの著書があり、女子教育に情熱を傾けてきた。1989年に都内の私立高校から品川女子に転任し、校長だった父親とともに学校改革に尽くしてきた。そして「学力向上」の課題を解決しようと、漆理事長が招請したのが仙田校長なのだ。

    28歳になった時の自分を思い描く「28プロジェクト」

     同校の「今」をつくったもう一つの出来事は、やはり漆理事長が唱道し、2003年にスタートした「28プロジェクト」だ。

     28プロジェクトとは、28歳を女性にとって重要な人生のターニングポイントと位置付け、その時点を見据えて将来設計を指導する同校独自のプロジェクト。女性が仕事でキャリアを積み、社会に貢献できるようになったり、プライベートで結婚や出産に向き合ったりする年齢は28歳前後とされる。その年齢に向けて、また、そこからの新しい人生を思い描き、今何が必要なのか、どう行動すべきかを模索し、人生を設計していく。

    • 中3で体験する「企業コラボレーション総合学習」
      中3で体験する「企業コラボレーション総合学習」

     仙田校長は「このプロジェクトにはとても共感し、自分がやってきたことを生かせると思って、漆理事長のオファーをお受けしました」と話す。「私も前任校では『人生設計学』を提唱してきました。大学を決めるときは偏差値に基づくのではなく、人生において何をやりたいかから逆算して学部を決めるよう言い続けてきました。これはまさに品女が全力で取り組んでいる、28プロジェクトと重なります」

     28プロジェクトは、ミッションに(うた)われている「能動的に人生を創る」ための、さまざまな取り組みを具体化する面を持っている。

     その一つが、中3で体験する「企業コラボレーション総合学習」だ。毎年1、2社の企業の協力を得て、社員と生徒が新商品開発や広告制作などを行う。これまで、食品やアクセサリーを商品化したり、スマホのアプリを開発したりするなどの実績を上げている。

    • 高1、高2で行う「起業体験プログラム」
      高1、高2で行う「起業体験プログラム」

     高1、高2では、「起業体験プログラム」がある。これは9月の文化祭「白ばら祭」に向けて4月から取り組む学習プログラムだ。生徒による模擬店開催を起業とみなし、クラス単位で活動する。司法書士や税理士、会計士などの協力を得て、株券発行、定款、登記簿作成などの実務を学び、事業計画をプレゼンテーションして投資家を募るなど、実際の起業と同様のプロセスを経験する。

     「中高生のうちから28歳の自分を意識させ、女性としての能力に磨きをかけるという射程の長い取り組みに心から共感し、感心しています。そしてこの取り組みは、日本の未来を救うことにもつながります」と仙田校長は語る。

    「集合知の活用」も成果とするICT教育

    • iPadを活用した授業
      iPadを活用した授業

     ミッションと28プロジェクトの推進という大きな方向付けの中で、新たな動きも生まれている。それがICT(情報通信技術)の活用だ。

     高等部では一昨年、中等部も今年からiPadを導入し、校内のWi-Fi環境を整え、学習への活用が進んでいる。

     ノートを貸し借りするようにiPadでデータを送り合い、データを受け取った生徒は、そこにコメントを書き込む。こうしたコミュニケーションを突き詰めれば、生徒全員による「ノート」を作ることもできる。

     「漆理事長はこれを『集合知の活用』と呼びます。生徒同士で教え合うことが、学力の定着に最も効果的だからです」と仙田校長は解説する。

     AI英会話アプリ「テラトーク」も今年、実験的に導入した。AI(人工知能)で発音を分析するテラトークの活用により、自学自習で個々の実力に合わせ、英語の「話す」能力を伸ばすことが可能になった。

     もっとも、仙田校長は、ICTやAIの活用を万能の処方箋と見ているわけではない。前任校が都立で2校だけ指定を受けたICTパイロット校だったこともあり、ICTやAIを冷静に評価している。

     1学期の終業式に仙田校長は、浅草寺(台東区)のスライドを見せながら生徒に話をした。浮世絵師の広重が描いた浅草寺と比較させながら、雷門の提灯(ちょうちん)の文字や五重塔の位置が違っていることを確認させたのだ。何が違っているのか、どうしてそうなったのかを解説しながら、伝えようとしたのは「問題発見力」の重要性だ。

     「今、話題となっているAIには課題解決力はあっても問題発見力がありません。それに、忍耐力、社交性、自尊心などAIにはない非認知能力も大事です。そのことを私の専門とする日本文化に絡めて話しました。彼女たちには、こういった力も身に付けてほしい。そのためのヒントを授けられたらいいなと思っています」

     秋以降には進路指導の一環として、高2生一人一人と直接面接を行う計画がある。「生徒一人一人と向かい合って、『将来は何をやりたいの、だったらこういう道もあるよ』と、じっくり話をしたいと思っています。品女の生徒たちは中学時代から適性チェックやキャリア講座などを受け、自己の人生設計についていろいろと考えています。私の役割は、それを後押ししてあげること」

     同校は、2016年に導入した「表現力・総合型入試」に加え、来年から東京・神奈川の受験解禁日である2月1日に午後入試として「算数1教科入試」も始める。一人一人異なる資質を持った子供たちを集める試みだ。

     「学校は君たち一人一人を見ているし、応援しているという姿勢を知ってもらいたい」と仙田校長は付け加えた。

     (文と写真:松下宗生 一部写真:品川女子学院中等部・高等部提供)

    2017年11月10日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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