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    「心を自由にする改革を」校長インタビュー…横浜女学院

     キリスト教女子教育を実践する横浜女学院中学校高等学校(横浜市)は、2018年度から「国際教養クラス」を新設し、従来のクラスを「アカデミークラス」に進化させて新しい教育体制をスタートさせる。国連が推し進めている「持続可能な社会の発展のための教育」(ESD)と、教科学習と英語学習を組み合わせた「内容言語統合型学習」(CLIL)を導入し、これからの時代を生きる生徒に必要な教育を実施していくという。改革を進める平間宏一校長に話を聞いた。

    英語「を」学ぶのではなく、英語「で」学ぶ

    • 横浜女学院が進める教育改革について語る平間宏一校長
      横浜女学院が進める教育改革について語る平間宏一校長

     横浜女学院が建つ横浜・山手の丘は、1873年のキリスト教解禁後、最初に教会が設立された、いわばキリスト教プロテスタントの聖地だ。同校は前身校までさかのぼると、130年以上の伝統がある。

     「当時はキリスト教という新しい西洋の文化を教えていましたが、そのスピリットは今も変わりません。今は、英語『を』学ぶのではなく、英語『で』学ぶことを教えています。物事を考えるにあたって、英語で思考するのと日本語で思考するのとでは、全く違ってくるのです」と平間校長は話す。

     130年前と同様、同校は新しい価値観を生徒たちに教え続けている。

     その一つが、「持続可能な社会の発展のための教育」(Education for Sustainable Development、以下ESD)だ。1992年にブラジルのリオデジャネイロで開かれた「環境と開発に関する国連会議」(国連地球サミット)で、「持続可能な開発」が、世界が取り組むべきテーマとして示された。2002年には南アフリカでのヨハネスブルク・サミットで、その実現のための人材教育であるESDの重要性が強調され、ユネスコの主導で世界に広がっている。

     このESDの考えに基づき、同校は2015年度から、「持続可能な社会を創る価値観」「総合的な思考力」「代替案の思考力」「データや情報の分析力」「コミュニケーション能力」「リーダーシップ」という六つの力の養成を教育目標に設定した。具体的には、国際問題、平和、多文化共生、環境、エネルギー、生物多様性などについて学ぶ。新設される「国際教養クラス」と、従来のクラスを進化させた「アカデミークラス」では、ともにESDを中1から学ぶ。さらに英語で学んだり、英語でディスカッションしたりする「内容言語統合型学習」(Content and Language Integrated Learning、以下CLIL)で学びを深めていく。

    cleverでなく、wiseであってほしい

    • 死刑制度など難しい課題を英語で考えるオリジナルテキスト
      死刑制度など難しい課題を英語で考えるオリジナルテキスト

     「国際教養クラスが目指しているのは、リベラルアーツです。文系理系の区別なく、幅広い知識を持たせることです。そして、その知識は知性になってほしい。cleverではなく、wiseであってほしい。(リベラルアーツは)あらゆることを知ることで、固定観念に縛られずに、自由になるための技なのです。心を自由にする改革なのです」と平間校長は説明する。

     そのために重視しているのが、語学教育の充実だ。「いろいろな文化を理解するために、英語教育や国際教育に力を入れるだけでなく、国際教養クラスではドイツ語、スペイン語、中国語を必修化しています。世の中がナショナリズムに傾こうとしている現在、世界のリーダーというのは、キリスト教でいう『隣人を愛せる人』、世界の人たちを愛せる人だと思うのです」

     国際教養クラスでは中2で、独西中3か国語全てを学び、中3からはそのうち一つを選択して学んでいく。アカデミークラスでも、選択制で第2外国語を学べる。

    失敗して落ち込んだときこそ、寄り添ってあげたい

    • 休み時間や昼休みには多くの生徒でにぎわう壁のない職員室
      休み時間や昼休みには多くの生徒でにぎわう壁のない職員室

     国際教養クラスは、海外大や英語で学ぶ国際教養系大学、国公立大、難関私大への進学を、アカデミークラスは理系学部、国公立大、難関私大への進学をそれぞれ目指すという。しかし、改革の狙いは進学実績の向上には尽きない。

     「クラスは習熟度で分けていますが、目指すゴールは一緒です。50年後、人生を振り返ってみたときに、いい人生だったと思えるような生き方をしてほしい。中高生は自立していく時期で、自我と格闘しているのですね。生徒が失敗して落ち込んだとき、私たち教師は、寄り添ってあげることしかできないのです。知識は伝えられるけれども、教え導くなんてことは、不完全な我々にはできないですから。だから、少しでも生徒が心の壁を取り払えるように、職員室の壁を取り払っています」

     平間校長は、先生が生徒へ寄り添う姿勢を同校の特長の一つだという。担任以外にもメンターの先生がつくことや、生徒と先生が思うことを自由に書ける「交流ノート」にも、そうした姿勢が見てとれる。

     「中1や中2はいろいろなことを書いてくれますが、中3くらいになると、ある日突然、『先生にはもう何も書きたくありません』と書いたりもします。つんけんしているなあと思っていたら、『この間はごめんなさい』って書いてくることもあります」

     長い時間をかけて寄り添い続けていくことで、生徒たちにも変化が見られる。

     「入学したころ、親に強く反発していた子がいましたが、ある時、『あなたの人生の目標は何か』と聞いたところ、『親が死ぬときに、この娘を産んでよかったと思ってもらえること』と答えたのです。感動しましたね。中学生や高校生は親に反発することもあるかもしれません。それが健全な親子のコミュニケーションでもあります。でも、自分は愛されていると気づくことで、変わっていくのです」

    かけがえのない存在だと気づいてほしい

    • 礼拝や行事などを通して、校訓「愛と誠」の人間教育を行う
      礼拝や行事などを通して、校訓「愛と誠」の人間教育を行う

     「この気づきこそ、本校の教育の根底にあるキリスト教教育なのです」と、平間校長は熱を込める。

     「いろいろな改革を進めていますが、その根底には、本校が大切にしている教育があります。愛すること、誰かに愛されていること。そして、自分はかけがえのない存在だと、気づかせてあげることなのです。挫折することもあるかもしれないし、誰かとけんかすることもあるかもしれない。希望した大学に入れないかもしれないし、不慮の事故で障害を負うかもしれない。例えそんなことがあったとしても、あなたの価値は変わらないのだよ、ということに気づいてほしいのです。それでも大丈夫、あなたの居場所はあるのだと」

     こうした思いは、多くの生徒に伝わっている。

     「先日、合唱コンクールで優勝したクラスの子に、『良かったね』と話しかけたのです。するとその生徒は、『先生、結果じゃないのです。その途中が大事なのです』と言ってくれたのです」と平間校長は目を細める。「先日は、交換ノートでけんかした生徒の結婚式に出ましたよ」

     自分が愛されていることに気づき、今度は愛することの大切さを学ぶ。この気づきを大切にしながら新しく始まる教育が、生徒たちを大きく伸ばしていくに違いない。

    (文と写真:小山美香)

    2018年01月25日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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