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    ワクワク理科実験、仮説も検証も生徒自ら…鴎友

     「新女子御三家」に数えられる鴎友学園女子中学高等学校(東京都世田谷区)は、難関大学への合格実績の高さはもちろん、理系の進学者が文系に迫るほど多いことが特徴だ。この理系進学実績を支えているのが体験重視の理科授業。その中には、自分で仮説を立て、実験で検証していく科学本来の楽しさがある。中2、中3の3学期に行われる学年総まとめの実験授業を取材した。

    物理実験うまくいく度に大歓声

    • 中2の物理の授業で、力学台車の水平移動を実験する
      中2の物理の授業で、力学台車の水平移動を実験する

     1935年に設立された鴎友学園は、初代校長・市川源三の「社会の中で自分の能力を最大限発揮して活躍する女性になれ」という教えを今に受け継ぎ、主体性・協同性を重視したアクティブ・ラーニングの教育を重視している。中でも理科の授業は、実体験を通して自然の正しい認識と理解を目指すという考えで、実験と観察を重視している。

     中学の理科の授業は、中1が週3時間、中2は週5時間、中3では週4時間。時間のかかる実験もできるよう、2時間連続の授業を組み、毎週必ず実験を行う。さらに、中2の物理と中3の化学では、3学期に1年間の総まとめとして、5、6週間続けて一つの課題に取り組む集中的な実験授業を行っている。

     総まとめの実験授業のうち、中2の物理の授業は「仮説検証実験 それはなぜか」というタイトル。生徒が自ら仮説を立て、自ら検証するという、実際の研究に近い形で進められる。生徒たちは3、4人の班に分かれて、力学に関して与えられた三つのテーマから一つを選んで取り組む。

     テーマ1は「物体の運動について」。力学台車の水平移動とボールなどの落下運動について、それぞれ速さの変化に着目して運動の性質を調べ、その理由を探る。テーマ2は「跳ね返るボール」。床に落としたゴムボールがバウンドしてはね上がる高さや、描く軌跡の法則性を調べる。机から転がり落ちたボールが床でバウンドし、その先にある台上に静かに乗る仕組みを作ったりもする。テーマ3は「転がる缶」。直径10センチほどの円筒形の空き缶に単1乾電池を重りとして入れ、斜面を転がす。乾電池の数や缶内での固定方法などをさまざまに変え、転がり方を調べる。

     いずれのテーマも生徒は教員から具体的な指示を受けず、全て班内で話し合って実験を進める。テーマ1の「物体の運動について」では、押す力が強すぎて台車が机の端から飛び出したり、テーマ2の「跳ね返るボール」では板を積み上げて作った着地台が崩れてしまったりなど、思わぬ失敗もあって、ときに大笑いとなる。友達同士の会話や冗談も交えて、着実ながらも(にぎ)やかに実験は進む。

    • 井村教諭を前に「1分間プレゼン」を行う生徒
      井村教諭を前に「1分間プレゼン」を行う生徒

     また、授業で習っていない学習内容も含まれるので、各班の実験は試行錯誤の連続。それだけに、試行がうまくいったときはしばしば大きな歓声が上がる。「授業と思えない盛り上がりでしょう。毎回こんな感じです」と、この授業を担当する物理の井村洋子教諭は話す。

     毎回、授業の最後には「1分間プレゼン」を行い、実験の内容、実験を通して分かったこと、また今後の課題などを発表する。ときには全員の参考になる報告やアイデアもある。「計測した結果を数値で発表すれば」という意見が出て、クラス全体の検証の質が上がったこともあるという。

     教員は全体を見守り、ときにフォローする。井村教諭は、「行き詰まった生徒には、答えを教えるのではなく対話によって気付きを促します。その場の成功、失敗より、対話の中で少しずつ進んでほしいと思っています」と話した。

    本格的な実験手法を使う中3化学

    • 実験授業の目的や取り組みについて語る大内教諭
      実験授業の目的や取り組みについて語る大内教諭

     中3の化学の実験授業のタイトルは「これはなにか」。既に30年以上続いている授業だ。当初は高1の4月に行われていたが、2012年から中学の授業に組み入れた。授業では、名前を隠した10種類の白い粉末状の試料が用意され、生徒は2人1組で実験しながら、硝酸バリウム、塩化アンモニウム、硫酸水素ナトリウム、ブドウ糖など、それらの正体を推測していく。

     最初の2週(計4時間)は実験プランを立てる。この実験プランには、実験方法や手順の考察だけでなく、器具や試薬の種類、必要数量も書き込んで教員に申請し、OKをもらわなければならない。途中で器具などが不足したら、その理由も示して新たに請求しなければならず、かなり厳格な手続きになっている。

     「実際の実験には2日間4時間しか充てていないので、ロスなく計画する必要があります。不備の多いプランは練り直させますが、間違いや失敗も含めて学習と考えています」と理科担当で入試広報部の大内まどか教諭は説明する。

     取材日は、実験も後半戦となる4週目だった。授業が始まると、生徒たちはまず腰掛けを机の下に収納した。「薬品などが顔にかからないよう、立って実験するためです。非常時の通路を確保するためでもあります」と大内教諭。こうした実験の作法は中2の最初の実験授業で学ぶ。実験室での避難訓練も行ったという。

     各班はすぐに、試験管やフラスコ、アルコールランプなどの実験器具を用意し、作業に入った。私語を交えず、必要な作業を速やかに行う様子は中2の物理授業の盛り上がりと対照的だ。

     使われる実験手法は、炎色反応実験、pH試験紙やフェノールフタレイン溶液による液性の判定、水やエタノールへの溶解性の観察、硝酸銀水溶液による塩化物の判定など高校レベルの内容だ。たとえば、ナトリウムを含む物質は熱すると黄色の炎色を示すのに対して、ブドウ糖は熱すると焦げるなど、実験結果の違いを見て試料の正体を推測していくのだが、それぞれの実験を全物質について試す時間はない。まず試薬でpH値を調べて候補を絞り込むなど、実験を効率よく組み合わせる計画性が腕の見せ所になってくる。

     この日、すでに最終リポートを書き始めていた班もあった。1人は主に作業、もう1人は記録を担当して効率化を図ったそうだ。チームとしての役割を学べるのもこうした授業ならではだ。

     生徒たちに実験授業の感想を聞くと、異口同音に「実験内容を自分で考えて実行するのが楽しい」「結果が分からないワクワク感と成功したときの達成感がある」と話していた。授業で与えられた知識を実験で確かめるのではなく、自ら仮説を立てて検証する研究さながらの実験方法がモチベーションを高めるのだろう。

     紹介した二つの授業では、自分や班の仲間の取り組みを、「ルーブリック(評価表)」を用いて評価するシステムも採り入れている。実験方法の検討、実施、議論、リポート作成などをマトリックス化した表に、S、A、B、C、Dの5段階で評価を記入する。ルーブリックを使うにあたって大内教諭は、「中学生は自己評価が低いことが多いので、教員の観察による評価もフィードバックします」と話した。教員の細やかな見守りが、自由な実験の授業を支えているのだ。

    実験室から教科書まで充実の体制

    • 実験観察の記録ノートを兼ねた化学の「実験書」
      実験観察の記録ノートを兼ねた化学の「実験書」

     こうした実験重視の授業を進めるには、黒板を前に講義するのと比べてさまざまなバックアップ体制が欠かせない。設備面では、たとえば化学の実験で生じる可能性がある有害物質を排気するためのドラフトチャンバー(排気装置付きブース)や、廃液を分別して捨てる専用容器などが必要だ。同校はその点、物理、化学、生物、地学の教科ごとに実験室を備えている。特に化学は中2用と中3~高校用の2室を用意するなど万全だ。

     教材の面でも、授業ではオリジナル編集の「実験書」を主に使っている。実験に最適化した内容になっていて、実験観察の記録ノートを兼ねている。検定教科書も使用するが、むしろ参考書の位置づけになっているという。

     定期試験でも理科では「実技試験」が行われる。中1の生物では顕微鏡の取り扱い、中2の物理では電池や豆電球、電流・電圧計を含む電気回路の組み立て、中2の化学ではガスバーナーの取り扱いを試験する。普段の授業から試験まで、科学を実体験することに重きが置かれている。

    こうした教育体制は自然、進路にも影響を与える。大内教諭によると、卒業後の進路は文系と理系がほぼ同数という。「土木、機械工学、情報工学など、女子校としては珍しい分野も多いんですよ」

     女性の活躍が求められる現代、同校が育む理系女子への注目もますます熱くなるだろう。

     (文・写真:上田大朗、一部写真:鴎友学園女子中学高等学校提供)

    2018年04月10日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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