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    クラウドファンディングの独自活用で社会とつながる…湘南学園

     湘南学園中学校高等学校(神奈川県藤沢市)は、クラウドファンディングを活用して海辺の浄化や震災の被災者支援などの諸課題を解決する学習を始めた。オリジナルの「ESD(持続可能な開発のための教育)」の一環であり、2017年度は中2のクラスや学園祭実行委員会などから12の活動計画が提案された。新たなツールを手に、成果を上げつつある生徒たちの活動ぶりを紹介する。

    ESDを推進する新しい手法

    • クラウドファンディングを取り入れた独自の教育法について語る山田教諭
      クラウドファンディングを取り入れた独自の教育法について語る山田教諭

     湘南学園は、2002年のヨハネスブルクでの持続可能な開発に関する世界首脳会議(環境開発サミット)で提唱され、ユネスコが主導している「ESD(持続可能な開発のための教育)」の考えを取り入れ、オリジナルの「湘南学園ESD」を策定、推進している。この教育は、授業はもちろん、キャリア教育や食育、自治活動など学校活動全般をESDの観点から考え、実践していくのが特徴だ。2013年には、ESDの推進拠点である「ユネスコスクール」の認定を受け、さらに内容を充実させてきた。

     そんな同校が2017年、ESD実践の新しい手法として、クラウドファンディングに着目し、活用を始めた。

     湘南学園ESD推進委員会クラウドファンディング担当の山田美奈都教諭によると、きっかけは16年度に、認定NPO法人「カタリバ」が運営する「全国高校生マイプロジェクトアワード」全国大会に生徒のグループが出場したことだった。同アワードは、高校生が自らの社会活動をプレゼンテーションする場だ。生徒グループに同行した山田教諭は、多くの高校がクラウドファンディングを活用して活動を行っていることを知った。

     その後、学校向けにクラウドファンディングのサービスを提供する企業「港屋」(横浜市)を知り、翌2017年度から試行的に授業や校内活動に取り入れていった。

     中学2年(5クラス)の総合学習「湘南に生きる人々から学ぶ」では、地元の課題を解決するための企画を目標とし、その資金をクラウドファンディングで募ることになった。また、地域別に国内4コースに分かれて行う高校2年の研修旅行も、コースごとに訪問地域の事前調査や振興活動、ワークショップなどに要する費用調達にクラウドファンディングを活用した。このほか生徒有志のグループにも活用を呼びかけたところ、中2から高2まで参加できる海外セミナーの希望者や学園祭実行委員会、テニス部などが名乗りを上げ、計12の企画が出そろったという。

    地元産の菓子で湘南の海クリーン作戦

    • 地元産の菓子を使って湘南の海クリーン作戦を展開
      地元産の菓子を使って湘南の海クリーン作戦を展開

     それらの企画の一つである中学2年B組の総合学習授業は、藤沢・江の島地区で地元産の菓子を広報媒体に活用した「海のゴミ問題改善プロジェクト」を展開した。

     きっかけは、どういう企画を立てるかクラスで話し合ったとき「湘南の海はゴミが多い」という意見が出されたことだったという。プロジェクトの中心となった一人、林智歩さんは「ただ、『ビーチをきれいに』と呼びかけても、誰も耳を貸さないだろう。どうしたら注目されるかを話し合ううち、『お菓子をもらえたらやるんじゃない?』というアイデアが出ました」と振り返る。

     このアイデアをもとに、菓子のパッケージに「ビーチクリーン」のメッセージを印刷して販売する方針が決まった。保護者らのつてをたどり、近隣の横浜市で70年以上営業する「宝製菓」に協力を依頼。同社の全商品をクラス全員で試食し、「おいしい」という声の多かったビスケットを対象商品として絞り込んだ。

     パッケージにはクラスで考えたメッセージのほかにQRコードも印刷し、ゴミ問題の背景や生徒の取り組みを伝える15分ほどの動画サイトへの誘導も図った。この動画の制作には、学校の卒業生で映像関連の仕事を目指す大学1年の庄司伊玖麻さんが協力。映像制作とナレーションを担当した。同じく卒業生で、シンガー・ソングライターとして活動する大学1年の岩尾波輝さんが、オリジナルキャンペーンソングを提供した。

    • 藤沢市の商業施設「湘南モールフィル」での販売イベント
      藤沢市の商業施設「湘南モールフィル」での販売イベント

     キャンペーン商品の販路開拓にもクラスとして取り組み、江の島の土産物店やしらす料理店、旅館などでの販売が決定した。発売前日には、プロサッカーチーム「湘南ベルマーレ」の協力を得て、球団のホーム「Shonan BMWスタジアム平塚」で先行販売を行ったり、発売当日も藤沢市の商業施設「湘南モールフィル」で販売イベントを開催したりして、勢いをつけた。

     昨年7月に「港屋」のサイトでクラウドファンディングの呼びかけを開始し、同11月の募集終了までに目標金額の約7割にあたる48万8000円を調達。パッケージや動画の制作、販売イベントほかの活動費用に充てることができた。また、200円で販売されたビスケットの売り上げの一部は、神奈川県の海岸の美化活動に取り組む公益財団法人「かながわ海岸美化財団」に寄付することになっている。

     林さん同様、キャンペーンを引っ張った一人、河村彰宏君は「プロジェクトをやってから、海をよく見に行くようになり、ゴミも気にするようになりました。僕らの呼びかけが少しでも役に立てばと思います」と話した。

    「足湯プロジェクト」で熊本の復興サポート

    • 熊本県阿蘇地方の温泉水を使った足湯コーナー
      熊本県阿蘇地方の温泉水を使った足湯コーナー

     9月30日、10月1日に行われた学園祭でもクラウドファンディングが役に立った。学園祭実行委員会が企画したのは、熊本県阿蘇地方の温泉水を使った足湯コーナーの設置で、学校内外の関心を集めた。

     発案したのは高2の田中健哉君だ。田中君は中1から実行委員を務め、これまでも有名テーマパークの優先入場パスのシステムを取り入れて入場者の行列の緩和を図ったり、後夜祭の演出として生徒たちにインタビューした動画を映写したりするなど、様々なアイデアを形にしてきた。

     足湯の企画は当初、熊本県とは関連がなかったという。「歩き回って疲れた観覧客に足湯で休んでもらえれば、という単純なアイデアでした」と田中君は話す。そのため実行委員や教員の間でも「学園祭でやる意味が分からない」など賛同は少なかったが、アイデアを通す方法を考えるうち、2016年の熊本地震の際、生徒会が被災地の阿蘇地方を訪問し、義援金を届けたことを思い出した。

     「阿蘇の温泉水を足湯に使うことで、被災地の支援ができませんか」。この企画を、訪問当時の窓口だった阿蘇市役所に話したところ、被災地の阿蘇・内牧温泉協会から「ぜひ当温泉のお湯を」と申し出があり、同温泉の湯を使用している阿蘇プラザホテルから無償で提供を受けることになった。

     温泉水の輸送費用は「5、60万円かかる」というのが、運輸会社の当初の見積もりだった。しかし、企画意図を話したところ賛同を得られ、他の仕事のついでに下見を済ませるなどして経費を圧縮してもらい、予算の総額は35万円になった。その金額を目標値として7月上旬から9月下旬までクラウドファンディングで寄付を呼びかけ、8割近くの27万3000円を調達。足りない分は藤沢市の市民イベントで募金を呼びかけて補うことができた。

     この企画の準備にあたっては、東京の熊本県アンテナショップ「銀座熊本館」にも取材した。そこで「被災地以外の熊本にも興味を持ち、足を運んでほしい」という思いを知り、会場には温泉地などの観光情報も展示することにした。学園祭当日、足湯は大人から小さな子供たちまで好評で、利用者にメッセージを寄せ書きしてもらった大きな布を熊本へ届けたという。

     企画をやり遂げた田中君は「先生以外にも、PTAや同窓会などの方たちから激励やアドバイスをいただきました。社会貢献に結びつけることで、多くの人に応援してもらえると実感しました。僕もいずれ熊本の温泉地に行きたいです」と感慨を話した。

    社会と共同でアクションする感覚

     クラウドファンディングを取り入れた教育について山田教諭はこう話す。「寄付をいただいて活用するという行為を通して、生徒は社会の人々と共同でアクションを起こす感覚を持てたと思います。クラウドファンディングのサイトには、協力者からさまざまな書き込みをいただきました。そうした反応も良い学びになります」

     金銭を扱う難しさもあるため対象は有志が中心となるが、クラウドファンディングの活用には今年度も挑戦する予定だという。「本校ならではの学習の仕組みとして育てたいですし、本校の教育の賛同者に資金面でも参画していただける仕組みが生まれるきっかけになればとも思っています」

     生徒たちはESDを通じ、現代の諸問題と解決へのビジョンを考えてきた。クラウドファンディングの導入によって今度は、ビジョンの実現について学びを深めるだろう。これからの社会人のあり方を見据えた新しい教育の姿と言えそうだ。

     (文・写真:上田大朗、一部写真:湘南学園中学校高等学校提供)

    2018年05月10日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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