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    中学受験のプロ講師たち「マナビレンジャー」がアドバイスするコーナーです。

    第1志望校を偏差値で決めない理由…後藤卓也

     (この記事は、2015年10月7日付記事の転載です)

    合格判定テスト、過去問…心が折れそうになったら

     受験生の皆さんはいま、毎月のように「合格判定テスト」を受験しているでしょう。ひょっとすると「合格可能性□□%」というおぞましい数字に、心が折れそうになっているかもしれません。

     他方で、志望校の過去問に挑戦し、問題の難しさと点数の低さに、「志望校を変えたほうがいいんじゃないか」と思い悩んでいるかもしれません。

     初志貫徹して、思い描いていた志望校にチャレンジするべきか、それとも合格可能性の高い他の学校に、目標を下げるべきか。

     私は30年以上この仕事を続けてきましたが、基本的なスタンスは常に前者。つまり「チャレンジ」です。まだ100日以上もの時間が残されているのに、人生最初の大いなる挑戦のチャンスにおいて、「無理そうだから諦める」なんて判断をしたら、一生、悔いが残ります。「あのときA中を受けていれば・・・」などという思いを引きずって生きてほしくはないからです。

    模試の「偏差値」…学校の価値を評価する基準?

     ただし、「絶対に志望校を変えてはいけない」と言っているのではありません。「下げる」という考え方をしてはいけない、と言っているのです。

     模試のデータをみると、それぞれの学校に「偏差値」なるものがつけられています。開成は偏差値70とか、麻布は67というように。しかし「67」の学校は必ずしも「70」の学校より受かりやすいというわけではありません。まして「偏差値」が高いほど、よい学校だというわけでもありません。

     その証拠に、試験回数が複数回ある学校は、試験回ごと「偏差値」が異なります。たとえば城北という男子校の「偏差値」は、1回目(2月1日)が52、2回目(2月2日)が55、3回目(2月4日)はなんと59です。もし偏差値が学校の価値を評価する基準だとしたら、ずいぶんおかしな話ですよね。

     さらに、学校ごとに入試問題の出題傾向が異なり、また皆さんの学力の「バランス」や「個性」もあります。どの教科が得意なのか、記述問題には強いとか、立体図形は苦手とか、そんな感じです。特に男子難関校のように、独特な出題傾向をもつ学校の場合、「開成なら受かるけど、武蔵はムリ」というケースもあります(「偏差値」を見る限りでは、開成のほうが上です)。

     また、公立中高一貫校のように、小学校の通知表を得点化する学校では、偏差値65の受験生が不合格になり、40の受験生が合格するケースだってあるのです。

    だから、模試の偏差値によって、志望校を上げたり下げたりするのは、愚の骨頂です。

    第1志望校を「下げる」のではなく「変える」

     経験豊富な塾の先生ならば、皆さんの学力のバランスや個性に応じて、「より受かりやすい学校がどこなのか」をアドバイスしてくれるはずです。しかしもっと大切なのは、入学したあとで、もっとも充実した6年間を過ごすことができるのはどの学校なのか、ということです。

     ちなみに、いま目指している第1志望校について、皆さんは何を知っていますか? なぜその学校を志望したのですか? どんな先生がいて、どんな授業をしてくれるのか。どんな先輩がいるのか。たぶん、ほとんど知らないでしょう。たぶん「K中のクイズ研究会に入りたい」とか「グラウンドが広くて、校舎もカッコいい」というのが、「志望動機」なのではありませんか?

     それがいけないというわけではありません。ただし、「本当にこの学校を目指していいのだろうか?」と疑問に思ったら、ご両親や塾の先生に話を聞いてみましょう。「合格可能性が20%だから、もう少し偏差値の低い学校にしろ」という話ではなく、「なぜA中よりB中のほうが君に向いているのか」を語ってくれるなら、真剣に耳を傾けるべきです。

     偏差値の低い学校に「志望校を下げる」のと、もっと自分に向いている学校に「志望校を変える」のでは、まったく意味が異なります。「偏差値の高い学校」がいい学校なのではなく、「自分に一番向いている学校」が本当の第1志望校なのです。

    志望校決定のリミットは11月上旬…みんな、悩んで大きくなる

     最終的に志望校を決定するリミットは、だいたい11月上旬だと思ってください。入試本番の3か月前。どんな学校を受験する場合でも、3か月あれば志望校対策は可能です。だからここから1か月弱は、いろんな人に話を聞き、どの学校の入試問題が自分に向いているのかを試し、あれこれと思い悩む時期です。

     一般的には、「どうしてもチャレンジしたい学校」(第1志望校)は自分の素直な気持ちにしたがって決め、第2志望校はご両親や塾の先生のアドバイスに従う、というのが一番いいのでしょうが、毎年学校の人気度や難易度は変わりますから、いつまでも思い悩んでいても「ベストの結論」がでるわけではありません。だから「10月中に決める」と、タイムリミットを決めてしまいましょう。それから先は、ただひたすら勉強するだけです。

     仮にどの学校を志望校に選んだとしても、最終的にどの学校に進学することになったとしても、あれこれと思い悩み、そして最後は一心不乱にその学校を目指して努力した3か月間は、皆さんの人生において、かけがえのない宝物になります。

     悩んで悩んで悩んで、苦しんで苦しんで…、そして本気で勉強した結果であれば、失うものなど何もありません。その先には必ず、皆さんにとっての輝かしい未来、新しい活躍の場所が待っているはずです。

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    2017年09月25日 10時30分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    
    プロフィル
    後藤卓也  (ごとう・たくや
    啓明舎塾長。1959年愛知県生まれ。東京大学教育学部博士課程修了。84年の啓明舎設立当初から時間講師として勤務。2年間の西ベルリン(当時)留学経験の後、再び啓明舎へ。94年から塾長。主な著書に『大人のための「超」計算トレーニング』『大人のための「超」計算 正しく速くカッコよく解く!』 (すばる舎)、『小学生が解けて大人が解けない算数』 (dZero社)、『大人もハマる算数 』(すばる舎)、『秘伝の算数』(全3冊、東京出版)、『新しい教養のための理科』(全4冊、誠文堂新光社)など。
     
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