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    中学受験のプロ講師たち「マナビレンジャー」がアドバイスするコーナーです。

    「東ロボくん」に負けない読解力…森上展安

     筆者はこの「マナビレンジャー」コーナーで2年間、中学受験を巡る様々なことについてお話ししてきました。今回でお別れとなりますが、そこで読売新聞のニュースサイトのコーナーらしく、同新聞に掲載された興味深い記事を通して、受験について考えてみたいと思います。

    試験問題の意味を理解しなくても解ける…人工知能の模試成績

     「人工知能に負けるな」。5月25日の読売新聞朝刊をめくっていると、この見出しが目に入りました。このテーマについて、国立情報学研究所教授の新井紀子氏がインタビューに答えていました。新井教授は、東大合格を目指す人工知能「東ロボくん」の生みの親です。

     この記事の中には、関連するトピックスを取り上げた小さな「囲み記事」コーナーがあります。そこには「10~20年後には、日本の労働人口の半分が人工知能やロボットに置き換えられる可能性が高い」という野村総合研究所の試算が紹介されていました。「未来は大変なことになる」というわけです。

     「東ロボくん」は模試を受けると上位2割に入り、多くの受験生を打ち負かしているそうです。しかし、新井教授によれば、東ロボくんは試験問題を「記号」として処理しているだけで、問題が問いかける「意味」は全然理解していないとのことです。設問の意味を理解していない人工知能の方が、多くの受験生よりもいい成績を取っているわけです。

    読解力不足の生徒との共通点…塾での指導方法とは

     そこで面白いと思ったのは、新井教授が示したある調査の結果でした。中学・高校生1000人を対象に、教科書の文章から作成した問題に対する読解力を調べたところ、教科書をきちんと読めない生徒が少なからずいることが分かりました。その生徒たちの間違い方が、人工知能が陥りがちな間違いと同じなのだそうです。

     新井教授は「この問題の意味を理解しなくても(解き方に習熟すれば)解ける」という問題例として、文科省の全国学力テストのA問題のことをあげています。A問題の点数は塾に行けば上がるものの、「教科書を読めているかどうか」については「塾に通っているかどうかと関係ない」ことがわかったとのことです。

     極めて興味深い指摘ですが、さらに次のひと言が実に効いていました。「塾では、A問題のような問題を、東ロボくんみたいに意味がわからなくてもできるような教え方をしていると考えられると説明がつきます」。長く進学塾での指導にかかわった筆者としては「ご明察!」と言わずにはいられませんでした。「問題解決の手順」を示してその手順に習熟させることこそ、塾での指導方法だからです。

    「知識の活用力」を問われる問題…文章を理解しないと解けない

     もちろん設問の意味が分かったうえで、その手順に習熟するのが望ましい。ですが、現実的には、そうとばかりはいえません。受験生や保護者が塾に求める役割・機能は「設問に正解する力を生徒に身に付けさせる」ことです。生徒が設問に正解できるようになって、初めて塾の力が評価されるのです。

     一方で、全国学力テストの中で「知識の活用力」を問われるB問題については、「文章を読んで理解しないと解けません」(新井教授)ということですから、そのような学力を身につけている生徒はB問題で評価されることになるわけです。

    2016年05月27日 14時17分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    
    プロフィル
    森上展安  (もりがみ・のぶやす
     1953年岡山県生まれ。早稲田大学法学部卒業。東京第一法律事務所勤務を経て都内で学習塾を経営後、88年に㈱森上教育研究所を設立。中学受験、中高一貫の中等教育を対象とする調査・コンサルティング分野を開拓した。中学受験生の父母対象に「わが子が伸びる親の『技』(スキル)研究会」セミナー(oya-skill.com)をほぼ毎週開いており、読む進学マガジン『読む進学』も主宰(yomu-shingaku.com)。読売新聞教育欄でコラム『合格知恵袋』(2011年~12年)を連載したほか、研究所HP(morigami.co.jp)では『THE 対談 学校長シリーズ』を動画で発信している。森上教育研究所スキル研究会の著書は『中学受験 はじめての学校ガイド 2015』(ユーキャン学び出版など多数。
     
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