日本が生んだKibiso
「きびそ」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
蚕が繭を作る際、最初にはき出す糸のことを言うのだそうだ。繭の一番外側の部分でぼそぼそしていることから、織物には向いていないとされてきた。ただ、良質なたんぱく質が多く含まれていることから、シャンプーやリンスなどの原料として使われてきたのだという。
絹織物の産地である山形県鶴岡市の鶴岡織物工業協同組合が、世界的な布のデザイナーとして知られる須藤玲子さんらとともに、このきびそを使った布やバッグなどの製品作りに取り組む「Kibiso」プロジェクトを2008年にスタートさせた。
昨年9月、きびその製品の展示会を見に行った。きびそそのものも展示されていたので触ってみた。確かにごわごわ、ぼそぼそしている。「これが絹?」と一瞬思う。太い部分もあればよれているところもあり、均一ではない。だから生糸にされなかったということもわかる。
ところが、展示品は、きびその特徴を生かしながらいい製品に仕上がっている。中には、オーガニックコットンと混ぜて、独特の風合いになっていたものもある。
グラフィックデザイナーの佐野研二郎さんがデザインしたプリントのバッグやブックカバーは、モダンな雰囲気。伝統とモダンさが融合した感じだ。
日本の絹製品は今、危機に瀕している。かつては着物地としても多くの人に親しまれてきたし、日本の代表的輸出品でもあった。しかし、養蚕農家は減少し、海外から安価な製品が大量に流れ込んできて、養蚕から製品化までの純国産品は、国内で流通する全絹製品のわずか0.7パーセント程度にまで落ち込んでいると言われている。
人とは同じものを持ちたくない、と思っているおしゃれな人にはお薦め。プレゼントとしてもいいかもしれない。「きびそというのはね……」という短い説明が、プレゼントに付加価値をつけるかも。これからきびそを使った製品が、どのような進化を遂げていくかが楽しみだ。
Kibisoの製品は、東京・北青山のRinで扱っている。この店は、「日本のものづくり」をコンセプトに、日本各地の製品を集めたセレクトショップだ。職人の技や伝統工芸に現代的なエッセンスを盛り込んだ製品には、「こんなものがあったんだ」と思うものもたくさんある。様々な発見があるはずだ。
宮智 泉(みやち・いずみ)さん
読売新聞東京本社編集委員
東京生まれ。国際基督教大学卒業。1985年、読売新聞社に入社。水戸支局、地方部をへて、生活情報部。2009年1〜5月、カリフォルニア大学バークレー校ジャーナリズム大学院の講師を務める。同年6月より編集委員。ファッションやライフスタイル、働く女性の問題などを担当。
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