ニュース 速報 YOMIURI ONLINE(読売新聞)
現在位置は
です

すてき私流

本文です

赤い靴履きシャキッと

写真の拡大
「美しいバラにはトゲがある。履いた時の足の痛みはこらえます」(自慢の靴のコレクションを背景に、東京都内で)=江口聡子撮影
矢野 沙織(やの・さおり) さん アルトサックス奏者

1986年、東京都生まれ。ライブハウスで実力を磨いた本格派のジャズ・サックス奏者。パーカーの影響を受けながら、オリジナルも作曲。先月、発売されたベストアルバム「矢野沙織BEST〜ジャズ回帰〜」を含め、すでに6枚のCDを発表している。

■■■

 ジャズプレーヤーとして注目を集めはじめた18歳の夏のこと。東京の商店街でウインドーショッピングをしていた時、店頭にあった真っ赤なハイヒールに目を奪われた。

 それまでは外出にはビーチサンダルのような歩きやすい靴を履いていた。身長も171センチと高く、ヒールの高い靴は敬遠していた。

 「ところが、その靴の曲線の美しさ、魅惑的な色に魅せられてしまいました。どうしても履いてみたいと思いました」

 店内に入って試着。ヒールの高さは8センチ。はじめての履き心地は悪かった。「痛い」と大きな声を出してしまった。

 ところが、我慢しながら立ち上がると、まるで背がスーッと伸びていくような不思議な感覚になった。

 「姿勢が正されて、自分自身の立ち振る舞いも美しくしてくれるように感じました」

 同じように、曲線の美しさに目を奪われたことがある。小学校4年生、ブラスバンド部に入った時に見たアルトサックス。流線形の造形美に魅了され、吹き始めた。

 6年生になったとき、音楽好きの父親から借りたCDで、ジャズの巨匠にしてアルトサックスの名手チャーリー・パーカーの作品を聴いて衝撃を受けた。「ジャズを吹きたい。プロになりたい」と決意した。「だれにもほめられたわけじゃないのに、根拠のない自信があった」と笑う。

 中学3年生で、都内のライブハウスに次々と電話をかけ、自分で出演交渉した。たった1軒だけ、了解してくれてライブ活動がはじまった。

 高校2年、16歳にして自分の名前でCDを出した。アメリカの一流ジャズマンとのセッションにも挑戦。最初は共演者にわざと音をはずされたり、客から「へたくそ」と言われたりした。それでも、演奏を続けていくうちに、実力を認められるようになった。

 18歳の夏にあの赤いハイヒールを買ってから、演奏旅行に行った先々で、靴を探すのが趣味になった。ニューヨークでもロサンゼルスでも専門店をのぞく。「いつの間にか、赤いハイヒールは10足を超えました」と笑う。

 ステージで赤いハイヒールを履くことも多い。「履くと、背がスーッと伸びて、気持ちがシャキッとする」

 その気持ちが、軽やかで激しく、歌うようなプレイに反映されているのかもしれない。(龍野晋一郎)

2007年7月26日  読売新聞)
現在位置は
です