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ペット

エピローグ

©Kouji Nakagawa

いつも行く遊歩道のごはん場所に
猫嫌いを自認する初老の男性がいる。
ここに関わりだしたころ、彼はものすごい勢いで
いつも怒っていた。
猫たちに迷惑をかけられたと、
いくつもいくつもの事柄をあげていた。
ごはんをあげている人たちにも、怒りの矛先は向いていた。
ごはんをやるから、ここに猫が集まり、困るのだと。

いつも黙って聞いていた。彼の言っていることにも一理ある。
ぼくがここにきたときは、極力彼に声をかけた。
そうしなくても彼は小言を言いたくて
ウズウズしていたようだけれど。
彼の目の前でごはんをやり、ケージを広げて保護の準備をした。

©Kouji Nakagawa

あるとき、車に轢かれた子がいた。
しばらくはぼくの腕のなかで命があったが、虹の橋に旅立った。
経済力が乏しいという理由もあるのだが、
みんなと離れるのが寂しいだろうと
この子をそばの大木の根元に葬ることにした。
土を掘る道具もなく、くやしさにそんなことも考えず、
素手で固い土を掘っていた。
すると彼が近づいてきた。
今、小言を言われるのはつらいなと思っていたら、
すっと彼が差し出すもの。それは、土を掘るシャベルだった。
少し息をきらしている彼は、何も話はしなかったが、
きっと急いで取りにいってくれたに違いなかった。

©Kouji Nakagawa

あるとき、ここにいた子猫を保護した。
「この子たちをどうするのか」と
ケージのなかで暴れる子を見て彼は尋ねてきた。
保護して里親さんを探し、温かい家庭を探すのだと伝えた。
立ち去ろうとしたとき、彼はケージのなかで暴れる子らに
ちいさな声でつぶやいた。
「幸せになれよ」と……。

©Kouji Nakagawa

今も彼は大きな声で猫嫌いだと公言する。
でも、猫にされたことを並べ立てることはなくなった。
代わりに、無責任な人間の行いに異を唱えるようになった。
大きな声で猫が嫌いだと言いながら、猫の糞を土に埋める。
そして、いつもこんなことをつぶやく。
「命を大切にしろ。病気になるな」と。

彼の中に、サムライを見る。日本古来のやさしさを見る。
今日もふたりで猫の食事風景を見つめながら、
ぼくは彼の猫嫌いの話を聞く。
(終わり)

中川こうじ

2009年12月22日  読売新聞)

中川こうじ

愛知県在住。フォトジャーナリスト。 10年以上紛争地帯でカメラマンとして活躍。たまたま公園で捨て猫に出会ったのをきっかけに、のらねこの写真を撮るようになる。のらねこの保護活動やのらねこ支援サイト「Street Cat's」の運営、写真展などを通じて、命と平和のたいせつさを訴えている。 著書に、『のらねこ。』『のらねこ。〜ちいさな命の物語〜』『StreetCat's 〜のらねこ。写真集〜』(全てエンターブレイン刊)がある。

野良にゃん支援サイト「Street Cat's」 http://www.street7cats.com/


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