エピローグ

いつも行く遊歩道のごはん場所に
猫嫌いを自認する初老の男性がいる。
ここに関わりだしたころ、彼はものすごい勢いで
いつも怒っていた。
猫たちに迷惑をかけられたと、
いくつもいくつもの事柄をあげていた。
ごはんをあげている人たちにも、怒りの矛先は向いていた。
ごはんをやるから、ここに猫が集まり、困るのだと。
いつも黙って聞いていた。彼の言っていることにも一理ある。
ぼくがここにきたときは、極力彼に声をかけた。
そうしなくても彼は小言を言いたくて
ウズウズしていたようだけれど。
彼の目の前でごはんをやり、ケージを広げて保護の準備をした。

あるとき、車に轢かれた子がいた。
しばらくはぼくの腕のなかで命があったが、虹の橋に旅立った。
経済力が乏しいという理由もあるのだが、
みんなと離れるのが寂しいだろうと
この子をそばの大木の根元に葬ることにした。
土を掘る道具もなく、くやしさにそんなことも考えず、
素手で固い土を掘っていた。
すると彼が近づいてきた。
今、小言を言われるのはつらいなと思っていたら、
すっと彼が差し出すもの。それは、土を掘るシャベルだった。
少し息をきらしている彼は、何も話はしなかったが、
きっと急いで取りにいってくれたに違いなかった。

あるとき、ここにいた子猫を保護した。
「この子たちをどうするのか」と
ケージのなかで暴れる子を見て彼は尋ねてきた。
保護して里親さんを探し、温かい家庭を探すのだと伝えた。
立ち去ろうとしたとき、彼はケージのなかで暴れる子らに
ちいさな声でつぶやいた。
「幸せになれよ」と……。

今も彼は大きな声で猫嫌いだと公言する。
でも、猫にされたことを並べ立てることはなくなった。
代わりに、無責任な人間の行いに異を唱えるようになった。
大きな声で猫が嫌いだと言いながら、猫の糞を土に埋める。
そして、いつもこんなことをつぶやく。
「命を大切にしろ。病気になるな」と。
彼の中に、サムライを見る。日本古来のやさしさを見る。
今日もふたりで猫の食事風景を見つめながら、
ぼくは彼の猫嫌いの話を聞く。
(終わり)
中川こうじ
中川こうじ
愛知県在住。フォトジャーナリスト。
10年以上紛争地帯でカメラマンとして活躍。たまたま公園で捨て猫に出会ったのをきっかけに、のらねこの写真を撮るようになる。のらねこの保護活動やのらねこ支援サイト「Street Cat's」の運営、写真展などを通じて、命と平和のたいせつさを訴えている。
著書に、『のらねこ。』『のらねこ。〜ちいさな命の物語〜』『StreetCat's 〜のらねこ。写真集〜』(全てエンターブレイン刊)がある。
野良にゃん支援サイト「Street Cat's」 http://www.street7cats.com/
『のらねこ。』中川こうじ 2007年3月発売 1,260円(税込み) 発行 エンターブレイン 発売:角川グループパブリッシング この本を楽天ブックスで |
『のらねこ。〜ちいさな命の物語〜』中川こうじ 2008年4月発売 1,260円(税込み) 発行 エンターブレイン 発売:角川グループパブリッシング この本を楽天ブックスで |
『Street Cat's 〜のらねこ。写真集〜』中川こうじ 2009年3月発売 1,260円(税込み) 発行 エンターブレイン 発売:角川グループパブリッシング この本を楽天ブックスで |
- エピローグ (2009年12月22日)
- 学び舎 (2009年12月8日)
- 家なき猫(2) (2009年11月24日)
- 家なき猫 (2009年11月10日)
- 気弱な兄弟猫の話 (2009年10月27日)
- 仔猫「あずき」の物語 (2009年10月13日)
- プロローグ 〜ストーリーは、ある猫との出会いからはじまった。 (2009年10月1日)
|



















