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    小町さんが聞く

    トランスジェンダーを愛する恋人役…俳優・桐谷健太さん

     「かもめ食堂」「めがね」などを手がけた荻上直子監督の新作映画「彼らが本気で編むときは、」が第67回ベルリン国際映画祭テディ審査員特別賞を受賞し、2月25日に公開されます。

     トランスジェンダーのリンコと恋人のマキオ、そして母親から家に置き去りにされ、愛を知らない小学生トモの3人による温かい共同生活が描かれています。

     リンコ(生田斗真)の恋人マキオを演じる桐谷健太さんに、映画への思いや撮影のエピソードを聞きました。

    マキオがぼくの中にすっと入ってきました

     Q 映画では、男性として生まれながらも、女性として生きるトランスジェンダーのリンコの恋人役です。荻上監督が「トランスジェンダーの子どもを持つ母親が、子どものため『ニセ乳』を作る」という新聞記事から着想を得たそうですね。初めて脚本を読まれたときの印象を教えてください。

     A とにかく、すごくいい本だと思いました。オリジナルの脚本ということにも引かれました。最近、原作のある作品が多いですよね。例えばマンガが原作だと、登場人物のビジュアルに似ていることも重要だから、そこに寄せていきます。オリジナル作品の場合は、白いキャンバスに何を描くか、一から考える楽しさがあります。

     Q マキオはいつも静かなたたずまいで、ゆったりした心の広さを感じました。役作りはどのようにしたのですか。

     A トランスジェンダーの友人や知り合いが多かったので、「答えたくなかったら、答えなくていいよ」と前置きしてから、話を聞かせてもらいました。そして、人を愛したり、そばにいたいと思ったりする気持ちは自分と何ら変わらないなと感じました。監督からは「マキオは自分の旦那さんのイメージだ」と言われました。「服装はダサくて、話も面白くない。でも、すごくやさしい」と。それを聞いて、ぼくの感じていたマキオが、監督のイメージするマキオと溶け合って、すっと入ってきた。あとは、自分の中でジワジワと構築していきました。監督は空気感を大事にするので、理詰めで考えるより、自分の中にあるマキオを無垢(むく)のままで演じようと思いました。

     Q ほかに監督にアドバイスをもらいましたか。

    • (c)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会
      (c)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

     A めいっ子のトモといっしょに河川敷を歩いて家に帰るシーンで、監督に笑いすぎだと言われました。そのときに「ぼくはいま、いい人を演じようとしていた」と気づいたんです。マキオは器の大きいやさしい人……というのを意識して、必要以上に笑顔になった。それが分かってから、ふわっと力を抜いて演じられるようになりました。監督は、「ああしてこうして」と具体的な指示はしないんです。「何か違うから、もう一度やって」とだけ言う。それが()に落ちるというか、たしかに何か違うんです。そのうち撮影中、「あ、ここはもう一度」だなって思うと、監督も「もう一度」と言う。そういう感じで、監督と気持ちがシンクロしていきました。

     Q トモ役の柿原りんかちゃんは、この作品が映画デビューだそうですが、演技について何かアドバイスしましたか。

     A 教えるなんてとんでもない。りんかちゃんの演技はすごいです。できる人は最初からできるんだなあと感心しました。撮影の合間は斗真と3人で「3文字しりとり」をしてました。負けた人が罰ゲームで物まねをするんです。人間じゃなくて、野菜の物まね。トウモロコシはどんな顔しているかとか。それで笑ってました。正解がないから面白いんです。わざわざ「仲良くしよう!」と意識はしなかったけど、いつもいっしょにいました。

    すべての仕事がターニングポイントです

     Q どんなときも、マキオはリンコを迷わず受け止めます。マキオの中で葛藤はなかったのでしょうか。

     A マキオは子どもの頃から、姉のヒロミ(ミムラ)と母(りりィ)の確執を見てきて、女の弱さやもろさ、怖さを身近に感じてきたと思います。だから、女性を美化することもないし、あこがれもなかった。そんなマキオがリンコさんのような女性に出会い、(施設でマキオのお母さんのからだを丁寧に拭いてあげる姿を見て)その美しさにひと目ぼれした。あとから、トランスジェンダーだと知ったとしても、自分の思いに正直になれたんです。だから、リンコさんがどんなときでも、そっとそばにいて受け止める。マキオが編み物をするのも、リンコさんの願いを早くかなえてあげたいからです。そういう支え方をする男性です。

     Q リンコの手作り弁当や、トモと初めて囲んだ食卓など、食事のシーンも印象的でした。

     A 食べるシーンは本気で食べていました。食べることって生きることに直結するでしょう。コンビニのおにぎりなのか、手作りのお弁当なのか、家族で囲む鍋料理なのか。その時々で違うし、食べものにはいろいろな思いがこもるでしょう。子どもの頃って、学校で嫌なことがあっても、家に帰って好きなものが出てきたら、みんな忘れてばくばく食べた。兄弟げんかして、泣きながらでも、「ああ、ごはんおいしいな」って思う。そういうことを思い出しました。

     Q この映画では、悔しいことや(つら)いことがあったとき、編み物を編むことで心を落ち着かせます。桐谷さんはネガティブな感情を持ったとき、どのように対処しますか。

     A 若いときは叫びまくってたんですよ。大声で歌ったりね。結局、悩みに向き合って答えを出すしかない。でも、向き合っても答えが出ないときもある。最近は、10分悩んで答えが出なかったら、もういいかなって思うようになりました。あまり考えすぎたり、ためこむのはよくない。答えの出ないことに悩んでいるより、美しいものを見たり、大好きな友だちと過ごしたり、楽しい時間を持った方がずっといい。

     Q お友だちと言えば、リンコさんを演じた生田さんと仲良しだそうですね。リンコさんはとてもきれいでしたが、演じていて、ほれちゃったりしませんでしたか。

     A マキオとしてはがっつりほれちゃってましたが(笑)、よく飲みに行く友人です。斗真はちょっと中性的な雰囲気のある人だから、リンコさんを演じていても違和感なかったかな。

     Q 監督がこの映画は、人生においても映画監督としても第二章の始まりだと言っています。桐谷さんにとって、この作品はどんな意味を持っていますか。

     A いろんな方に、「いままでの桐谷さんと違う役ですよね」と言われます。ぼくも、この映画は「ターニングポイントで、ゴーイングポイント」だと言ってきました。でも、本当は時間がたたないと分からないことですよね。以前、ぼくが出演したドラマを見て、監督がキャスティングしてくれた。むかしは熱血漢の役が多かったけど、いまのぼくは違ってきている。監督はそこに目をとめてくれた。今度は、マキオを演じたぼくを見てくれた誰かが、違った役にキャスティングしてくれるかもしれない。すべてが(つな)がっているわけで、全部がゴーイングポイントです。いろんな経験を積んで、あとから「あれがきっかけで役者の幅が広がったな」と思う日がくるかもしれません。いまは、全力でやりきって、いい作品ができたと思っています。ぜひ、みなさんにも見ていただきたいです。

    【映画概要】

    「彼らが本気で編むときは、」

    • (c)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会
      (c)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

     小学5年生のトモ(柿原りんか)は、母ヒロミ(ミムラ)と2人暮らし。ある日、ヒロミが男を追って姿を消す。ひとりきりになったトモは、叔父であるマキオ(桐谷健太)の家に向かう。母の家出は初めてではない。ただ以前と違うのは、マキオはリンコ(生田斗真)という美しい恋人と一緒に暮らしていたことだ。食卓を彩るリンコの美味しい手料理に、安らぎを感じる団らんのひととき。母が決して与えてくれなかった家庭の温もりや、母よりも自分に愛情を注いでくれるリンコに、戸惑いながらも信頼を寄せていくトモ。本当の家族ではないけれど、3人で過ごす特別な日々は、人生のかけがえのないもの、本当の幸せとは何かを教えてくれる至福の時間になっていく。リンコのある目標に向かって、トモもマキオも一緒に編み物をすることに。嬉しいことも、悲しいことも、どうしようもないことも、それぞれの気持ちを編み物に託して、3人が本気で編んだ先にあるものは……。

     第67回ベルリン国際映画祭 テディ審査員特別賞受賞(パノラマ部門、ジェネレーション部門 正式出品作品)

    公開日:2月25日(土)
    場所:新宿ピカデリー・丸の内ピカデリー ほか
    出演:生田斗真、桐谷健太、柿原りんか、ミムラ、小池栄子、門脇麦、りりィ、田中美佐子 ほか
    脚本・監督:荻上直子
    配給:スールキートス
    (c)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

    2017年02月21日 Copyright © The Yomiuri Shimbun


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