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    「台所」から見えてくる様々な人生を描く連載小説。
    「おりおり堂」のおしながき

    如月・のり巻き

     暦の上では春を迎える2月。連載小説「出張料理・おりおり堂」では、節分の様子が描かれました。節分といえば豆まきですが、いつの間にか東京などでも、のり巻きがもう一つの“主役”になっています。日本を代表する料理人、「銀座小十」の奥田透さんに、彩りも美しいのり巻きを披露してもらいました。


    色とりどりの断面が華やか

     節分になぜ豆をまくのか。季節の変わり目に生じる邪気(鬼)を払うためで、「魔滅」の意味があるそうです。こちらは平安時代から宮中で行われていた由緒ある行事。

    • のりは仕上がりの太さを確認し、余るようなら端を包丁で切り落としておく
      のりは仕上がりの太さを確認し、余るようなら端を包丁で切り落としておく

     しかし、節分になぜのり巻きを恵方に向かって食べるのか――その起源はいくつかの説があり、はっきりとは分かっていません。江戸時代に大阪の商人たちが商売繁盛を願い、厄を払うため食べるようになったとか、節分の時期にちょうどたくあんが漬け上がるので、それを使ったお新香巻きを食べたとか。大阪の風習が全国に広まるきっかけとなったのは、コンビニエンスストアが季節商品としてクローズアップしたためというのは有名な話ですが、古く大正の頃にも、のりの販売促進としてチラシをまいて宣伝したこともあったようです。

     いずれにしても、もうすっかり、節分に欠かせないものとなったのり巻き。小説では、第11話「如月 こぼれ梅と呪われしバレンタイン」の2回目にのり巻きを作る様子が描かれました。

     「半切(はんぎり)に酢飯を合わせ、用意した具材を並べる。煮穴子にキュウリ、厚めに焼いた卵焼きを棒状に切ったもの、塩ゆでにした海老、甘辛く炊いたかんぴょうだ」

     奥田さんは「酢飯にするご飯は、蒸らし時間をやや短めにして硬めに炊くのがおすすめです。舌触りが良いだけでなく、すし酢も吸収しやすくなります」とアドバイスしてくれました。巻きすの上にのりを敷き、その上にご飯を広げます。このとき、奥のほう3センチほどは空けておくのがポイント。巻き上げるときにのりしろになります。

     ご飯の手前から3分の1あたりのところに具を並べます。黄色い卵の横は赤いエビなど、彩りを考えて置くそうです。そして小十の料理人さんは、いとも簡単に巻いていきます。その手つきは素早く力強く、しかし優しく。それがふんわりとした食感の良さにつながるのでしょう。

    • 酢飯の手前から3分の1ほどのところに具材を並べ、指で押さえながら手前から一気に巻く
      酢飯の手前から3分の1ほどのところに具材を並べ、指で押さえながら手前から一気に巻く

     一方、小説で初めてのり巻きを作った主人公の澄香(すみか)は悪戦苦闘。「最初は具が横に寄ってしまったり、ご飯を詰めすぎて海苔(のり)がパンクしたりと、なかなかうまくいかず、『山田っ。アンタ、(ゆが)んでるのは顔だけになさいよ』『欲張りすぎよっ。まったく、こういう時って性格が出ちゃうわよねー』『ホラぁ見なさいよ。アンタの心の歪みがそうやって巻き寿司に現れるんじゃないの』などと、アミーガから叱咤(しった)されまくり、厳しく指導されている」

     どんなに歪んでいようとも、のりとご飯が合わさった香りは何ともいいものです。もちろん奥田さんが用意してくれたのり巻きは、断面も見事に美しいものでした。卵焼きの甘さ、プリッとしたエビのほんのりとした塩味、シャキッと爽やかなキュウリなど、それは小説に描かれた通りの味わいでした。「全体に上品だが、それぞれがきちんと自分の存在を主張し、なおかつバランスよくまとまっている」(3回目)

    幸せの茶わん蒸し

    • 茶わん蒸し
      茶わん蒸し
    • 茶わん蒸しの具材。上段左からシイタケ、ギンナン、ユリネ。下は左からエビ、アナゴ、ミツバ
      茶わん蒸しの具材。上段左からシイタケ、ギンナン、ユリネ。下は左からエビ、アナゴ、ミツバ

     今回はもう1品、茶わん蒸しを作ってもらいました。小説でも、のり巻きの具材を取り分けて作り、夕食にするシーンが登場しました。

     具はエビと穴子、ギンナン、ユリネにシイタケ。「うつわの蓋を開けると、ふわりと柚子(ゆず)の香りがした」(3回目)と小説では描かれましたが、奥田さんは最後にだしで作ったあんをかけて仕上げてくれました。ユズの皮は針のように細長く刻んであしらうのをよく見ますが、あんの上には細かく刻んだものが飾られていました。「ユズを1か所にまとまりよく配することで、料理に緊張感を出したかった」と奥田さん。同じ材料でも、どう盛りつけるかで料理の表情が一変することを教わりました。

     茶わん蒸しをさじですくうと、卵の下にはゴロゴロとたくさんの具が隠れていました。「ぷるぷるした卵と具材を一緒に口に運ぶ幸せの瞬間だ。『ハア、なめらかぁああ。アタシのお肌のようだわよ』とヒゲそり跡もあらわなアミーガが叫ぶ」(3回目)

     奥田さんも「茶わん蒸しは幸せを感じる料理ですね」と話します。今回のようにたくさんの具材を合わせたものは、「複合してうまみを出す」茶わん蒸し。それに対し、料理屋では「何かに特化した」茶わん蒸しを作ることが多いそうです。「例えばカニやカキ、今の時期ならフグの白子もいい。夏はウニの冷たい茶わん蒸しとかね。どの季節にもおいしくいただけるお料理なんですよ」(奥田さん)。どれも想像するだけで幸せ……。

     さて、節分を過ぎると日の長さを感じるようになります。季節は春。小説「出張料理・おりおり堂」もクライマックスを迎えます。

    <奥田さんのレシピ 茶わん蒸し>
    材料(2人分):鶏肉50g、ギンナン4個、シイタケ1枚、ミツバ1/3束、卵2個
    作り方:
    (1)鶏肉は4等分して熱湯にくぐらせて氷水に取る。ギンナンはゆでて薄皮をむき、半分に切る。シイタケは8等分。ミツバは軸と葉に分け、軸はざく切りに。
    (2)「だしは卵1個につき100cc」がポイント。200ccのだしに味を見ながら塩を加える。さらに薄口しょうゆ小さじ1/6杯を加える。
    (3)ボウルに卵を割りほぐし、2のだし汁を加えて混ぜる。ざるなどでこしながら、滑らかになるようよく混ぜる。
    (4)器に1の具を2等分して入れ、3の卵液を静かに注ぐ。湯気の立った蒸し器に並べ、まず強火で3~5分蒸す。蒸し器の蓋は少し開けておく。卵液の表面が白っぽくなったら火を弱め、5~7分蒸す。竹串を刺して、汁が透明なら蒸し上がり。
    <奥田さんのおまけのレシピ 甘酢ショウガ(ガリ)>
     新ショウガ100gを薄切りに。さっとゆでてざるに上げ、塩適量をふってしばらくおく。水気を拭き、甘酢(水450cc、酢240cc、砂糖70g)に合わせて1日以上漬ける。
    2015年02月27日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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